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『うつせみ残夢ー外来種の姫君ー』  作者: 音羽[HAITA Press.]
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04



 どういう症状か解りかねる内は揺り起こすのも危険かと海月は考え、冷えゆく山の気温を感じて二人に自分の服と上着を被せた。

お陰で上半身は裸である。

「…二枚しか着てこなかったっつーの。」変態だと思われないために一応の弁解をするが、勿論誰も聞いてはいない。

 此処へ来るために登った獣道を病人二人抱えて降りるのは不可能に近い。

しかし山の中腹道路に停めた車内に戻れば一晩くらい過ごせる食料や毛布、それに蛍へ与える鎮痛剤等の用意も幾分かは持ってくることが出来るだろう。

二人をここへ置いて、往復することは可能だろうか…?この山に熊や野犬が出現するという情報は耳にしていないが、海月の体力も無いに等しかった。

 そこで彼はズボンのポケットから紐で綴じられた白い半紙の護符束を取り出した。その中から朱色で鳥の形象が描かれたものを探し当て、慣れた手つきで素早く折り畳みカラスを作り上げる。

「もう一回、頼む。」

それを両掌で包み込んでから、空へ投げ飛ばした。

 力を注がれたカラスの折り紙は最初、ただ飛ばされただけの風の悪戯かと見間違うぎこちなさで羽をはためかせた後、ペースを掴んで自らの意思を持ったかのように悠々と空を泳いでいった。


西の方向―――丁度KAITZの京都中央本部が位置する場所目指して進んでいくのを確認し頷いて、海月は月光の元へ時計を差し出し眺める。

 最初に飛ばした応援要請から1時間以上経過していた。

安らかに寝息を立てる謎の女はどういう方法で此処へ来たのか不明だが、まさか単独という事はないだろう。

けれども誰か一緒なら、幾ら足が遅くとも既にこの現場へ来るに十分な時間はあった。


もしかしたら、化け物は一匹ではない――?


情報が全く伝わらない暗闇の山頂付近で、海月は最悪の事態を想定する。

この山に、まだ先ほどの様な怪物が潜伏している可能性、ゼロで無いとは言い切れなかった。

もう一度読み込もうと海月は資料が詰め込まれたアタッシュケースへ食らいつく。

 そもそも何か見落としていたことは確かなのだ。


この案件がこんなに獰猛な化け物と関連性があること自体知らされていなかった筈なのだから……


 海月が普段の彼には似つかわしくない焦りを覚えながら汗の滲む手で資料を捲っていたその時、遠くの空からこちらへ近づくプロペラの音が鳴り渡り、やっとかと思って上げた顔に強烈な爆風が襲い掛かった。

次いで、周囲を真昼間の様に明るく照らすライトの光が顔に直撃して目を細める。


(さえ)はーん!!迎えに来ましたえー!」

ピイ――――とハウリングをまき散らす拡声器を片手に、海月の上司、珊瑚(さんご)がヘリコプターの搭乗口から小さな身体をほぼ出して、いつもの着物を強風に靡かせながら叫んだ。


 海月は「おっせーよ!!!ダボハゼ!!!」と悪態を吐いた後、両腕を振って叫んだ。


「蛍がやられた!!ダウンウォッシュに耐えられんかも知れんから、そのまま何人か降ろしてー!!」

聞こえるだろうか、という些かの不安は直ぐに吹き飛ばされる。

読唇術を会得する珊瑚は頷いて、再び拡声器を使って返事をした。

「わかったー!すぐ梯子降ろすさかい待ったってぇー!!!」


かくして、身体を布で覆われてミノムシ状のグルグル巻きにされた蛍と、スーパーパワーを発揮した後に即効熟睡した謎の女はKAITZの救助隊員により無事ヘリコプターへ乗せられたのだった。


「俺はーーーーー!?」


 それを見守った後、受け取ったシャツに腕を通した途中の自分を置き去りに高く飛び立とうとするヘリに驚いて海月は叫ぶ。

搭乗口から引っ込んだ珊瑚の姿が再びひょっこり現れて、不敵な笑みを湛えている。

「うちらの機材車放置したまま帰れると思いなや!あんたは下山して運転で帰りや、ダボハゼ!!」

拡声器から迸るのは半笑いの惨い言葉。

「マジで言ってんのかよ!それ用の人間準備しろこのクソババア!!!」

「はあぁ?ババア!?こんな可愛いおなごに何言うてはりますの!?」


珊瑚は見せつけるように自慢の黒髪を肩から払う素振りを見せた。

その姿だけなら、確かにババアと言うにはほど遠い、可憐な和服の女児なのだ。

「それに今夜は人員不足やし!脚あるモンはつこて帰り!!」

シャレにならない科白を発して、珊瑚は顎をついと上へ持ち上げた。

「っふざけんな!性悪!!!!!」

「おお恐ぁ。こんな荒いお人は乗せられまへんな、墜落してまうわ。さあ出して!!」冷酷な台詞と共に、冗談抜きで本当に上空まで舞い上がり去って言った面々を見上げ、海月は聞こえないのを良いことに放送禁止用語を連発で絶叫した。




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