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「はーいっ」
というニナの返事が海月の耳に届く。
暫くして息を上げながら猫を引き連れ休憩所へやってきたニナは、にこにこしながら全員の顔を見回し、
部屋に漂うシリアスな空気を全く読めない子供の様なあどけない声色で言い放った。
「ねえねえ、みんな何のお話してたのー?」
「仕事の話だよ。」
海月が吐き捨てるように言い、河津が肩を聳やかす。
長年の付き合いで、先輩がキレる前兆がどんなものか熟知している後輩は心配そうな目でその上司である珊瑚を見やった。
「敵意剥き出しな態度、止めぇや。」
珊瑚もそれを察知して威圧感のある声で言った。
「この子がこういう具合なんは仕方ないことやと思う。
精神年齢10歳前後って聞いてるし。」
「じゅ……!?」それを聞いて海月は胡坐をかいた姿勢から、再び身体が驚愕で転倒しそうになるのをグッと押さえる。
「そうだよー。」ニナは照れた様子ではにかんだが、それを恥だと思っている雰囲気ではない。
ただ純粋に自分は子供、その事実を素直に受け入れているといった印象だった。
「俺に10歳のお守りをしろってのかよ?」
海月が狼狽えつつ珊瑚に聞く。
「せやで。……いや、正確には違うやん?この子、戦闘時には本領発揮するんやし。」
昨日見たやろ、そう言い置いて珊瑚は余裕の笑みを漏らした。
「いやいやいやいや、そんな戦隊ヒーローみたいな設定無いだろ。
いざという時にこのままだって事も考えられ」
「大丈夫だいじょうぶ!」
慌てる海月の言葉を遮って快活な発言をしたのはニナ本人だった。
「ニナね、あの赤紫色のお洋服を着ると、眠くなって強くなるからね。」
「へー、服を着替えると変身出来るってわけですか?」
河津が驚きの声をあげる。
「にわかには信じがたいっすけど。」
「俺もだよ、なんだよこのビックリ人間は…手に負えるわけねぇだろ。」
気を遣う、という感情を母親の胎内へ置いてきたと周囲から常々言われている海月は子供の前でもそのスタンスを崩すことはない。
「ニナが、嘘ついてると思ってるの!?」
流石に自分が馬鹿にされていると気付いたニナは身体の両脇で拳を握りしめながら頬を膨らませ怒った。
その振る舞いも見た目からしてかなり幼いものであるのを目に留め、海月は益々落ち込んだ。
部下としても仕事をする上のパートナーとしても最高の人材だった蛍の後釜が、こんな妙ちくりんな奴だということに落胆を隠せない。
どう反応しようか考えたがその答えは見つけられないまま、迎えに来た巫女の声で中断された。
「お話中のところすみません、試写が終わりましたので祈祷を始めさせて頂いても宜しいでしょうか。」
「はい。じゃ、行こか。」
珊瑚が立ち上がると、一同もそれに続く。
本殿へ向かう板張りの廊下を渡る際、にゃあ、と背後で小さく鳴いた猫へニナは手を振った。




