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「でも、生きてる、って言いましたよね。」
河津が声を引き攣らせながら、珊瑚へ確認する。
自分が遅刻している間フィルムを見た筈の河津には蛍の現状が伝えられたのだろう、事情を把握しているらしい姿に海月は少し安堵した。
蛍が思った以上に危ない状態なら、この後輩はもっと大慌てして取り乱していただろうし、実際自分の相棒は生きているらしいのだ。
珊瑚は二人と目を合わせずに頷いた。
「でも、もう今迄みたいに仕事はできひん。」
めっちゃ出来る子やったのにな…珊瑚がいつになく悲しそうな眼をして瞼を伏せる。
海月は寝転がったまま頭を抱えた。
“最悪、上半身さえ残っていれば”と願いながら化物へ挑んでいった自分の不甲斐なさに吐き気がする。
――――脚を喰われたのだ。
再起出来るなんて土台無理な話だろう、解っているが。
「車椅子かなんかで、出来ないっすかね。」
縋るように河津は言うが、全員そんな方法で霊伐等不可能である事は理解していて。
「ホタちゃん、霊視瞳孔持ってへんやろ。呪術には長けてるけど、動けへんし撮影もできひんのやったら、無理やなぁ。」
珊瑚は諭すように呟いた。
「せやから、事務の仕事に回ってもらうことになる思う。」
納得してくれ、とでも言うように上司から言われれば、河津と海月も反論することは出来ない。
「脚、失くなったら、そりゃあ、なあ。」
海月が顔を腕で覆ったまま自嘲気味に呟いた。
そうなってしまったのは自分の責任だ、と思うと胸に黒い嵐が吹き荒れる。
もっと早く行動できていれば、救助を要請出来れば、自分に能力があれば。
蛍の脚は無残に喰われることはなかった。
「俺のせいだな。」
海月は噛み締めた歯の隙間から苦々しい言葉を発する。
「阿呆か。」
するとコンマ一秒のタイミングも開けず、珊瑚の平手が上から振り下ろされた。
まるでその台詞を待ち構えていた、とでも言うように即座に後頭部へ走った衝撃に海月は驚愕する。
「この件に関しては調査中やけど、何モンかの邪魔が入ったって昨日河津が教えたやろ。」
伏せった態勢から見上げると、珊瑚が怒りに目の光を燃やしながら海月を見下ろしていた。
「あー、そうだったな。」
海月は昨晩飛ばされた黄色いツバメの式紙を記憶から引っ張り出す。
「でもそんな事ありえねーんじゃねえの?今迄あったかよ。」
海月は半信半疑で言い返した。
KAITZは戦時中にその能力を利用され、人間兵器として国に使われていた超人集団である。
以来その能力を恐れられ、今や国に認められた公的機関として活動しているのは一般にも周知されていて。
そんな自分たちに太刀打ちできる何か、が存在するとは想えなかった。
「可能性はなんぼでもあるやろ。」
珊瑚は急須から自分の茶碗へ緑茶を注ぎながら言う。
「ここ数十年で悪霊が力つけてるのは事実やし。そもそも人間の知恵が発達してるやん。」
海月は思い至ることがある為か「そうだな」と口の中だけで言って床に肘を付き、起き上がった。
「ま、ホタちゃんはあんたと違って人付き合いも上手いし、仕事覚えんのも早いさかい、内勤でも優等生やろ。」
空気を変えるようにやおら明るい声をあげて、、珊瑚は口の端を上げ、華やかな着物の裾を翻して窓際に歩み寄ると、風に髪の毛を撫でられるのにも関わらず上半身を乗り出すようにして叫んだ。
「ニナちゃーん!もう戻ってきーや!!」




