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案内された本殿横の休憩所で茶菓子を食べながら、海月は珊瑚を睨みながら言った。
「あれ、成長促進剤打たれた子供だろ。」
「まあ、そんなもんやなー」
珊瑚は窓から見下ろした先に見える海を眺めながら呟く。
砂浜では話題の中心であるニナが白い腕に猫を抱いてはしゃいでいいた。
「珊瑚ルーム、メンバーの個性が暴走してるってよく言われますけど、またしてもっすね。」
河津が笑って緑茶を啜る。
「ったく、次はマシなのが入ると思ったのにマトモなのは俺一人かよ。」
海月が愚痴ると河津が乾いた笑いをひとつ漏らして言った。
「珊瑚さんは、あの子なんかワケアリだって言ってましたけど。どういうことなんですか。」
「……数年前に、瑪瑙島が大火事になったやろ。ニナちゃんは、そこで仕えていた侍従の子供でな。両親がお亡くなりになって、本人も記憶喪失になったんや。」
珊瑚が何時もの癖で扇子を口元へ宛がいながら密やかに答える。
瑪瑙島、というのはKAITZの血筋、呪われた一族発祥の土地で、今でもその存在は国内でも機密扱いされている離島のことだった。
海月も一二度しか足を踏み入れたことがない土地で、そこには代々KAITZの要となる“姫君”が中心部の城に鎮座しており、日本の安全と平安を掌握している、という伝説だ。
その島が原因不明の火事に見舞われたのは7年前。
姫も命に関わる大怪我を負ったというのは不穏なニュースとして海月の耳にも入ってきた。
それによってかよらずか、数か月後にこの国で未曽有の大災害が起こったので、伝説は実しやかなものとして現代を生きる一族末裔の心に深い根を張った。
「記憶喪失、ですか。マジでそんなのあるんですね。」
河津も砂浜で猫と戯れるニナを遠目に見つめながら呟いた。
「じゃあ、昨日の夜出てきたジャージの女は。」
海月が眉間に皺を刻みながら問うと、珊瑚も眉を下げて困ったように言う。
「それがなー、よく解らんのやって。二重人格も併発しとるらしい。」
「あいつ独りで個性の出血大サービスだな。」
海月は新しい茶菓子の包みを開けながら言った。
「そして、そんな個性的なあの子の新しい相棒があんたやから。」
続けてサラリと投下された科白を耳にして、海月は口まであと数ミリだった饅頭を取り落とす。
「は、ああああああああ!?」
ころころ、と畳の上を転がったそれを受け止めて、河津が同情的な視線を自分へ向けるのを感じながら海月は項垂れ、此処が何処かも忘れて全身の力を抜いたまま後ろへ倒れた。
「勘弁しろよー」
言葉が弱弱しく藺草の中へ吸い込まれていく。
「しゃーないやろ?もう決まりなんやし。」
珊瑚も多少は海月の心情を慮ってか、いつもの語気を若干和らげて俯せになった海月の旋毛へ呟く。
「………じゃあ、蛍は。」
海月は今日初めて蛍の名前を発した。
ずっと聞こうと思っていたが、タイミングが測れなかった為に口を開いては飲み込まれた、本来の相棒について。
「もうあかん。」
珊瑚はさざめく波の音に消されるんじゃないかというくらいに静かな声で言い捨てた。




