11「パズルリング」
テレシネを終えて、編集室を出ながら珊瑚がフィルムの入った丸い缶をみせてニナに声をかける。
「これから皆でこのフィルムを焚き上げに行くから。」
ニナはよくわかっていない顔でうんうん頷きながら飴を食べている。
海月が化物を撮影したフィルムは資料としてのデータ化も済み、成仏させるために代々KAITZと縁の深い“汀神社”でお焚き上げすることになっている決まりだった。
「そのかっこで行けるんすか」河津がニナの少女趣味に塗れたレースたっぷりのドレスを指しながら尋ねた。
海月と河津は普段からのスーツ姿、珊瑚は着物、神社へ赴くには十分な服装だったが、ニナはどうか、ということだろう。
「んー…襟も付いとるし、まあええやろ。」珊瑚がニナの白いブラウスを見やりながら呟く。
「ジャージよりはマシじゃね。」海月は戦闘時にニナが着ていた服を思い出しながら言った。
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「ようこそお越しくださいました。」
タクシーに乗り、湾岸のひっそりした神社へ到着した海月たちを、ゆるやかな階段下で待ってくれていた巫女が丁寧に迎え入れる。
「お久しぶりですね、今日は珊瑚様達だけですので。ゆっくりしていってください。」
社務所へたどり着くと、海風漂う心地の良い涼しさの中、尚も場の空気を穏やかに浄化してくれる微笑みでもっては神主は言った。
「石代ルームのメンツはまだ終わってへん、ちゅうことか。」
珊瑚は静かに言うと、満足そうに顔をあげて護符に包まれたフィルム缶を神主に渡す。
「確かに。……では、こちらで試写の後、祈祷を致しますので暫くお休みの後に本殿へお越しください。」
厳かに受け取る神主。
並んでそれを見守るメンバーだったが、ただ一人ニナはキョロキョロ視線を動かし、話も聞いていない様で、海月はそれを横目で見て内心溜息を吐いた。
「わあ、猫ちゃんがいるー!」
そしてニナは初対面の挨拶も忘れ、朱色の鳥居下に丸まっている猫を発見して走り出した。
「ちょ、お前何してんだ。」
海月は目を見開いて追いかけ、ガシッとその二の腕を掴んで連れ戻す。
「すんません、うちの新人です。」
ニナの頭部を渾身の力で押さえた海月は、無理やりそれを下げながら神主へ紹介する。
「こんにちは。」
にっこり微笑んで腰を落とすニナを見つめて、神主は目を瞬かせたが、落ち着いた声で挨拶を返した。
「名刺はまだか。」
海月が静かに言うと、ニナは「えっと、えっと…」と珊瑚へ顔を向け困惑した表情を見せる。
「朝に渡した名前の書いてある紙。」珊瑚が優しく教えてやると、ニナは「ああ!」と声をあげた後、小さな鞄から新品の箱に入った名刺を抜き取り、神主へ差し出した。
「これ、あげるね。」
「有難う御座います。」海月は開いた口が塞がらない間抜けな顔で、珊瑚とニナのやり取りを見ていた。
――おいおい、新入社員にも程があるだろう、と叫びたくなったが場所が場所なのでぐっと飲み込む。
ずっと無言でいる河津の反応を伺うように見たが、彼は表情を殺し、敢えて何も考えないようにしているようだった。




