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『うつせみ残夢ー外来種の姫君ー』  作者: 音羽[HAITA Press.]
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*********


「――そしたらアイツ等、俺のこと全員で睨みやがって。

自業自得だっつーの。陰気な集団だったな。」

「ザ、ド田舎っすね。」


 一昨日の出来事を心底苛ついた様子で説明し終えた海月に対し、目の前の資料から顔を上げて笑いながら河津が言った。

「あんたな、いつもそんな感じやけど、改めなまた始末書書かなあかんで。」悪びれない海月と、面白がる河津に呆れて珊瑚が溜息を吐く。


 実際海月は舐めた態度の依頼者に対してあからさまに邪悪な態度を見せたり、攻撃を仕掛けることがこれまでに何度もあった。

再三注意を受けても開き直る性格に最早上司である珊瑚たちも諦めている。

「まあ、それを蛍が取りなして、全員が家から札やら御守りを持ってくることになった。

時間を取らせた割には、どれもクソ効果の無い普通の紙だったよ。

それより誰も俺らを家にお招きしたくねぇんだって、警戒心ガッチガチでそれもムカついたな。」


「はあ、そりゃ自分たちより30くらい年下に見える口悪いクソガキが、ドスドス家ん中入って来たら嫌やろ。

何か盗られるかもしれんやん。」

珊瑚が心底馬鹿にした口調で言い返し、海月は眉をしかめる。

「ったく、普通の人間が調子乗りやがって。テメー等の為に来てやったっつーのにな。」

「ですよねー…なまじ珊瑚さんくらい若い頃で止まってれば、神秘性が加わって神々しく見られるかも知んないっすけど。」河津が深く頷いて同調する。

 ルックスがまるで新宿のホストかと突っ込みたくなるくらい派手なこの男は、海月よりも他人から見下されやすい。

今でこそそれを受け入れているが、KAITZに入りたての頃は黒縁の伊達眼鏡をかけたり髪の毛を黒く染めたりと日々外見の改善に相当な努力をしていたことは組織の全員が知っている事だった。

「まあ、うちが魅力的なんは否定しいひんけど、ジジババが年取ったら横柄になるんは仕方ないことやさかい、許したり。」

珊瑚は冷静に言い放った。

「冴はんも若い外見に誤魔化されてるけど、あんじょう歳とってたら他と変わりあらへんイケズジジイやで。」

「ああ?てめーに言われたくねえよ。なあ、カエルくん。」

青筋を立てた海月に急に振られ、河津は目を背けた。

「ま、まあ…ほら」と苦笑いするのが彼にとっては精一杯で、こんな時蛍がいれば上手くこの場を取り成してくれるのに、と思わずにはいられなかった。


「外回りは大変だねえ……」PCで先ほど再生した映像の調整をしながら、海月の横で聞いていた編集者の赤間がひっそりと呟く。

「新しい子、委縮しちゃうよー?」

 そこで3人は、ついいつものペースで会話していたためにすっかり忘れていた新人ニナの方をハッとしながら見詰めたが、彼女はニコニコ笑いながら編集室に置いてあるティッシュを使って人形らしきものを作っているのであった。

どこから用意したのか、それぞれ異なる色のリボンを首に巻いた3つの人形に、マジックで一生懸命に顔を書き込んでいる姿を見て、全員が呆気に取られて視線を交し合う。

「顔を書いて―、出来上がり。」

そう言うと、ニナはそのうちの一つ、何処となく着物を着ているように見えるティッシュ人形を珊瑚に差し出した。

「これは、サンちゃんね。」

 その一言に、その場にいた全員が絶句する。

見た目はニナより幼い少女だが、実年齢はこの中のメンバー誰よりも、もしかしたらKAITZ一かもしれない年長者の珊瑚に初っ端"チャン付け"をするような人物は初めてだった。

出会い頭から粗野な海月も、あだ名を付けたのは実際に珊瑚と何度も仕事をしてからである。

「お、おおきに」

珊瑚は眼を見開いて驚いたようだったが、怒る気にもならないのだろう、広角を上げて笑みを作った。

「これは、カエルくん。」

ニナは早速海月以外誰も呼んでいない河津のあだ名をインプットしたらしく、にっこりわらって同じく人形を手渡す。

「そしてこれが、さ」「海月でいいから。」

海月は、自分に近づいてきたニナの言葉を遮るように立ち上がってピシャリと言った。

恐らく珊瑚と同じように"冴はん"と呼ぼうとしたのだろう台詞は引っ込められ、ニナは首を傾げる。

珊瑚が口元を隠しながらニヤニヤ笑って言った。

「こっわー…ニナちゃん、この子は下の名前で呼ばれんの嫌やねん。」

「そうなの?ニナは、ニナで良いよー、海月。」

「わわ、そう来たかー。」河津が茶化す様に呟く。

これまでの会話を聞いていなかったからこそ出来る、いきなりの呼び捨てに海月も一気に脱力したようで"さん"を付けろ、と怒鳴るのも馬鹿らしくなり「ああ。」とだけ言い放って下手糞な人形を受け取った。

「ええー、僕のは無いのぉ?」

赤間がPCのモニター越しに腰を浮かせて不満そうに言うと、ニナは「だって、大きな人形を作る分のティッシュが無いんだもん。」と、残り少ない箱を指さした。


「これから相当苦労しそうだねえ……」赤間は誰にともなく笑いながらそう言うと、新しいハッピーターンの包み紙に手を伸ばした。




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