02
どれだけの時間が経過したのだろうか。
雲はそのまま太陽を覆い隠し続け、外は雨へと変わっている。
少女の姿をした雄喜は壁に背を預けて座り込み、今現在の自身が置かれた状況を掴もうと思考を巡らせてもがく。
しかし現状を把握するだけの情報が得られない。
変わり果てた自身の姿を認識し混乱をしてはいるが、それでも今はまだなんとかパニックを起こさずに済んでいる。
だがその心には、なんとも言えぬ不安感が押し寄せていた。
腕を持ち上げ頭を抱える。眼に映るその腕は、とても白く華奢だ。
「細っそいなぁ……ちゃんと飯食ってるのか?」
おの身に問いかけるも、当然答える者は居ない。
仮に人が居たとしても、その質問には答えようがないだろう。
そもそもが自身の身体なのだから。
競技を辞めて以降も、雄喜はトレーニングだけは続けていた。
もちろん本格的なプロを目指すようなものではなく、近所の運動施設で汗を流す程度のものではあったが。
そんなある程度の肉体を維持していた雄喜にとって、その華奢な脚や腕、細い指は酷く頼りないものに映る。
そしてその頼りなさは、不安をより積み重ねていく破目となっていた。
今後については皆目見当がつかない。どう行動すればいいのか、扉を開けこの部屋から出るべきなのか。
それとも大人しく部屋に居続け、何かしらの変化に期待すべきなのか。
「……寒っ。冷えるな……」
再びテラスに視線を向ければ、ガラス扉の向こうに広がる世界はさらに雨足を強めている。
それ故にであろうか、雄喜は少しだけ寒さを感じ始めていた。
よく見れば、それも当然かもしれない。
その身は真っ当な恰好をしてはいないのだから。
身に纏っていたのは、白い薄布一枚のみ。
袖はなく、膝丈までしかないワンピース。靴下すら履いてはいない。
雄喜がよくよく感覚を凝らして服の上から触れてみれば、どうやら本当にこの白いワンピース"のみ"しか身に着けてはいないようであった。
雄喜自身はそれについて別段恥ずかしさは感じはしないものの、若い娘の姿をした者がし続けて良い格好ではないのかもしれない。
着ていたデニムのパンツやTシャツはどこへいってしまったというのか。
ともあれ、とりあえずはこの寒さに対処をしなければならないだろう。
雄喜は周囲を見渡すも、エアコンやストーブの類は見当たらない。
クローゼットの中に上着でもあればとは思うものの、そのクローゼットや箪笥の類さえもこの部屋には存在しないようであった。
あるのは書棚とテーブル、そして無駄に大きなベッドのみ。
「てことはベッドだよな」
少しは進展したように思えなくもない状況把握ではあるが、ベッドに戻ることによってリセットされてしまうかのような錯覚を覚えてしまう。
とはいえやはり寒さが堪えるため、雄喜は渋々ながらもベッドへと歩みを進めた。
だがベッドの縁に手を掛けたタイミング、そこで部屋に変化は訪れる。
コンコンコンッ
不意に部屋へと響き渡る、乾いたノックの音。
得体の知れぬ場所に、不可解な身体の異常。そして何者とも知れぬノック。
雄喜は産まれて初めて、扉を叩く音に対して恐ろしいという感情を抱くのであった。