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unKnown  作者: 縁側 熊男
序章 始まりの出会い
5/8

5 朧月夜

 もう二度と出会わないと勘違いしていた。


 そう思い込んでいた。


 そうしなければ、日常はもう、戻らないものになってしまう。




 家の前に座り込んで、月を見ていた。満月だが、雲がかかっていて、歪んで見える。

 その月の下に、サルがいた。そのサルは、その二足で立ったままこちらを見ていた。

 そのサルは見覚えがあった。前に見た構図と同じだったからすぐに気づいた。

 

 化け物だ。あの時、私を(えぐ)った化け物だ。


 私とその化け物は目が合ったまま動かなかった。私は座り込んでいて、化け物は立っている。

 私のバックには母の遺産(マイホーム)、化け物の後ろには朧月おぼろづき

 4つの物体が一直線上に並んで動かない。

 そんな状況が流れていた。

 私は動けない。逃げ出さなければいけないが、逃げ出すタイミングが分からない。

 そして、化け物は動かない。なぜ襲ってこないのか分からない。

 こいつの目的が分からない。


 だが、変化が来る。

 笑った。化け物が笑った。ニヤリと音を立てずに。

 非常に不気味だった。

 その笑った瞬間、私はここにいてはいけないと感じた。

 そして、この直線上から逸れて、横方向に逃げ出した。

 そうしないで、生きていられる自信はなかった。

 

 追ってきてるかどうかもわからない。

 私はひたすら走っていた。

 ここまで本気で体を使ったことはなかった。

 だが幸い、なぜか私の運動能力は比較的高い。

 普通に走ってもかけっこで負けた記憶はない。

 基本使わないが、脚力にはかなりの自信があった。

 

 だが、それは人である領域を超えることはない。

 

 長く続く一本道をひたすら走り続けていたその時、目の前に壁が現れたのだ。

 まだまだ続いていたはずの道の上に急に壁が……。


 それを地面だと認識するまでに2秒かかった。

 私は今、何者かに、いや、あの化け物に、地面に叩きつけられていた。


 ジタバタしても、意味はない。

 後頭部を握りしめてくる痛みは、もはや感じない程に麻痺マヒしている。

 自分が何かを叫んでいるが、聞こえない。 

 

 今から、こいつに食い殺されてしまうのか。

 それとも、玩具おもちゃとして遊び殺されてしまうのか。

 あぁ、今度こそなのだ。今度こそ殺されてしまうのだ。

 そう感じた時、真っ先に浮かび上がったものは……。


 今までにない、強烈な憎悪だった。


 思い返してみれば、昨日今日と最悪だった。


 変な女に絡まれたのも。

 友達に何か誤解されたのも。

 俺がイライラし続けていたのも。

 俺の家が乗っ取られたのも。

 母がいないこの世界も。


 全部、こいつのせいだったのだ。

 こいつさえいなければ。俺の人生は……。




 "こいつさえいなければ……"




 その時、なぜか化け物がおとなしくなった気がした。

 感覚はほとんどなかったが、後頭部の感触がかなり弱まった気がした。

 

 そして、化け物は俺を押さえつけるのをやめた。

 俺を見ながら、ゆっくりと後ずさりをしていくのが横目で見えた。

 

 「何逃げようとしてんだ、お前」


 化け物はおびえた様子で静止した。

 俺は、起き上がった。ゆっくりと。

 頭にも、頭を叩きつけられた時に壊れた体にも、痛みなどなかった。

 

 「先にやってきたのはお前だよな 違うか?」


 理性なんてものはとっくに消え去っていたのだろう。

 あったのはただ、強烈な敵意だけ。


 「別に俺がお前を殺して悪い理由なんてないもんなぁ なぁ!」


 そこにいたのは、"私"の知らない"俺"だった。

 右手に巻いていた包帯は、いつの間にか破れ落ちていた。

 そして、その右手は……。

 五本指で、肘と肩の部分に関節がある普通の腕。

 だが、全体が赤く輝き、指はもはや大きな棘のようで、腕の表面には、うろこのようなものが生えていた。



 そこにいた自分は、その中身こころとその右手は、人の形をした化け物だった。



 逆上したように化け物が走ってくる。

 それを、俺は右手で払った。

 気づけば、化け物は自分の足下に叩きつけられていた。

 

 その瞬間、私は元に戻っていた。

 

 見えたのは、足元に転がっているさっきの化け物と、見慣れない自分の右手。


 「あれ、今、何が……」

 パニック再びである。

 化け物はともかく、この私の右手はどうなっているのだ?

 赤い……。傷が開いたのか?

 いや、なんか、硬い鱗っぽいものがある。

 人の手ではない。

 いや、でも、確かにさっきまで人の……。

 ……。

 変身⁉

 いやいや、なんでなんでなんで。


 「やっぱり当たりだったか」

 聞こえてきた方を見ると、いつの間にか彼女、神崎がいた。

 彼女の肩には、なぜが膨らんだ大きなバッグ。私のものだった。

 「というわけで、お前は管理下に入ってもらう」

 私のパニックはまだ終わっていない。何がどうなってるのかわからず、返答もできない。

 「…… おーい 聞こえてるか?」

 それどころではない。体の全機能が必死にこの問題を解決しようとしている。

 「…… 動けよ」

 そう言って彼女は私を軽く蹴った。

 ようやく、私は現実に戻ってきた。

 「あの、何が何だか分かんないんですけど……」

 「見ての通りだ お前は、あのサルを倒したんだよ」

 記憶が断片的に欠けている。そう言われると、殴ったような感触が右手に残っている……気がする……。

 「えっと、この腕は……」

 「調べてみないとわからないが、まぁ、変身とか、そのような類のやつだろう」

 「変身⁉」

 まだ、世界観についていけない。

 「説明したくないから、詳しくはうちの上の人に聞いてくれ 私はたまたまお前を連れていくことになったんだからな はぁ、帰り道が憂鬱ゆううつだ」

 そして、この右手は、元の様には戻らない。


 ……。


 「行きます」

 「あれ、素直だな 自覚したか?」

 「はい よくわかりませんが、もう私の知っている日常ではなくなってしまったようなので」

 「…… 理由は分からないが、まぁいいか よし、じゃあ行こう!」

 そう言って彼女は片腕を高く上げながら歩いていく。本当に性格が読めない。

 面倒くさがりでガキみたいにはしゃぐ性格ってところなのか……?

 「あっ、そういえば私の荷物は……」

 「このカバンだ 必要そうなものは詰め込んだが まぁ、また取りに来ればいいじゃないか 私は早く帰りたいんだ……」

 引きこもり症も追加っと……。


 そうやって私が彼女を分析していた時、背後に悪寒を感じた。

 本能的に前に避けるように踏み出して、後ろを振り返った。

 後ろであの化け物が何か分からない声でうなりながら立ち上がろうとしていた。

 「詰めが悪いな」

 彼女もそれに気づく。

 「ほら、これ持ってろ」

 そう言って彼女は私の方にカバンを投げ、腰の日本刀を握っていた。

 その重いカバンをなんとか受け取った時。


 彼女は、化け物の後ろ1mほどのところにいた。

 そして、化け物の腹から血のようなものが噴き出ていた。

 

 一瞬、私がカバンに気を取られているうちに、彼女は化け物の腹を切り、そのまま背後に回っていたのだった。

 普通では考えられない瞬間を目の当たりにした。

 

 「後始末完了っと……」

 そう言い、彼女は刀をしまいながらこっちに戻ってくる。

 化け物の死体らしきものは、なぜか収縮しているようだった。

 これからある程度のことが起こっても、驚かないでいられる自信が身についた。

 「そういえば、それお前の荷物だから、お前が持つべきだよな?」

 「別に構いませんが…… 今、何をしたんですか?」

 「お前の残党狩りだ 色々学んでいけ」

 「あぁいうのを私にやれと」

 「いや、お前は私とはまた別のことができるはずだ」

 理由は聞くだけ無駄だと知っていたので、質問はやめた。

 彼女の言う通り、この世界を徐々に学んでいくべきだな……。

 


 私は今、いつもとは違う道を歩き出している。 真っ暗な闇の中、この奇妙な世界について知るため、神崎愛に連れられて、白銀の騎士団に向かっている。 「奇怪な右腕」をぶら下げながら……。



 「さぁ、愛すべき我が家に、レッツゴーだ」

 明るいのか暗いのかが全く分からない神崎が、まるで行進のように前を歩いていく。

 私はそれについていくことしかできなかった。




to be continued……

 







おまけ 見た目が派手な右手の件で……


「とりあえず、これ隠すものないですか?」

「お前の家にまだ包帯あったなぁ…… それでぐるぐる巻きにしたらどうだ」

「さっきカバンの中見ましたが、明らかに要らないものあったんで、一旦戻りません?」

「…… そうするか」


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