神なんていなかった
ある時 一人の村人が神に願った。
誰か一人 人間を神にしてくれと。
神は言った。
人間の中に神に相応しい者がいるのかと。
人間は考えた。
誰が神に相応しい者なの
かと。
人間は考えた。
けれども相応しい者がわからなかった。
皆 欲が出てきた。
自分が神になりたいという。
人間は争った。
人間は殺し合った。
そして
人間は
いなくなった。
神は言った。
この世に神に相応しいものなどいないのだと。
昔 人間であった私すらもと。
神も昔は人間であった。
神はとても美しい少女だった。
少女は家族と幸せに暮らしていた。
しかし そんなある日 少女の家に盗賊がやってきた。
家族は目の前で殺された。
家族は死にかけながらも目で必死に少女に告げた。
早く逃げろと。
少女は気づかぬふりをした。
そして少女は盗賊が自分を殺そうとした時 盗賊に問いた。
神の存在を信じるかと。
盗賊は言った。
信じていないと。
少女はその答えを聞くと不敵に微笑み盗賊に馬鹿な男ねと言った。
そして少女は死んでいった。
死んでから少女は神になった。
神は人間が好きではなかったが少女が知っていた。
人間の中には善良な人間もいるということを。
だから神は人間が神になりたいという愚かな願いを聞いた。
神は心の隅でわかっていた。
人間が争うということを。
神はわかっていた。
けれど本当に人間が争い、殺し合った時 神は絶望した、少女もいなくなった。
神は人間の争いを見続けた。
もう神の心に悲しみは消えていた。
人間が全員いなくなった時 神は嬉しかった。
その自分の感情を感じて神は思った。
この世に神に相応しいものなんていなかったのだと。
あの盗賊は正しかったのだと。
少女は問いた、神の存在を信じるかと。
盗賊は言った。
この世に神なんてものは存在しないと。
この世には 神に相応しいものなどいないと。
この世にはなにもないと。
盗賊は言った、とても悲しそうな眼で。
少女は微笑んだ。
馬鹿な男だと。
少女は泣いた。
馬鹿な男だと。
そして少女は死んでいった。