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明日の空 The FirstStory  作者: あすら
4/5

act03「狂犬達は夜に吠える」

ミリアス・ガブリエラ

年齢:自称18歳

身長:161cm

体重:秘密だぞ♪

B90/W59/H91


稀代の天才魔法使い。魔力の貯蔵量は現存する魔法使いの中では五本指に入るほど。

基本属性魔法では火に適性があったが個人的な理由により水の魔法を操る。

元々得意ではなかったとはいえ努力で適性とは真反対の水を習得して応用の氷を主軸とする魔法を扱えるようになっていることから魔法の適性自体が高いことがわかるだろう。

ハーレーとは魔法学校の教師を辞めて少し経った頃に出会って共に旅を始める。

今は100年に一度の厄災『黒き者』、通称タナトスを打倒するために旅をしている。

実はというか隠す気もない守銭奴。

タナトスを倒すという目標も倒したものには賞金が出るからである。

★1

ハーレー、エドガー、ガブリエラの三人は宿で一晩休んだ後、早朝からチェックアウトをして宿屋の前でダベッていた。目的が決まらないと行き先も決まらないのである。

「ねぇ、決まらないのならまだ部屋でゆっくりしててもよかったんじゃない?こんなに暑いのに外にいるって」

「今日はそんなに暑くない暑いとしてもお前の得意な氷でどうとでもできるだろ」

エドガーがそう言うとそれもそうねと手のひらに野球ボール大の氷を造りだした。それだけでかなり楽になった気がした。

暑くないと言っていたエドガーも満更でもなさそうではあった。

「おぬしらもしや魔法使い殿か?」

声のする方を振り向くと五十代くらいのおじいさんがいた。その様子から見るに本当にただのおじいさんのようだ。

「どうしたんですかおじいさん」

「今わしらの山が大変なことになっていて魔法協会に依頼をいとったんじゃがまるで誰もこんのでな。もしやおぬしらがそうではと思い声をかけたんじゃ」

ガブリエラはキョトンとし二人を見たが何も知らない様子であった。

「ごめんなさいおじいさん、私たちはここを通りすがっただけであのろ…魔法協会からの使いというわけではないんですよ」

ガブリエラはおじいさんの方を向き直すとそう告げた。

「な、ならおぬしらでどうにかしてくれぬか?頼む!報酬は村でーー」

「やりましょう」

ガブリエラはおじいさんの手を食い気味に握ると目をキラキラさせそういった。

ハーレーはやれやれと頭を抱え、エドガーはなるほどなと何かを感じたようだ。

なんだかんだで次の行き先が決まったようだった。

ハーレー達はおじいさんについて行ってると二時間くらい歩いただろうか、そこに村が見えてきた。そこの奥に見えるやたらと黒い霧を纏った山も……。

その村で一番中央にある家へと案内された。おそらく村の責任者の家であろう。

「村長!魔法使い殿を連れてまいりました」

「なんと、待ちわびていましたぞ!」

「それが……」

おじいさんは村長に事情を話すと村長は少しすまなそうに、しかし本当に困っているのかいきなり本題に入る。

「この村の奥にある山をご覧になりましたか?」

「すっごい黒い霧に包まれてたわね。あんなの見たことないわ」

「あそこはこの村が所有している山であそこで採れる山菜や動物を狩って生活をしていたのですがちょうど一年くらい前ですかな。その頃突然あの黒い霧が発生したのです」

「一年前、か」

エドガーはそうつぶやくと何やら考え始めた。村人からお茶を出されるとガブリエラはありがとうと言い村長に続きを話すよう促す。

「あの霧が発生した原因が分かりませんでしたのでそれを調査に村の者たちが行ったのですが、行ったきり帰ってこないのです。元々あそこには山賊がいるらしい話があったのでそやつらの仕業だとは思いますが」

「山賊か」

山賊はともかくその村人は多分もう……

「もちろん村の者が生きている可能性なぞほぼ無いに等しいでしょうがなんとかしてほしいのです」

「依頼内容は村人の安否確認、霧の調査及び解決、ということでいいでしょうか?」

村長は一言お願いしますとだけ言った。

村長の意思を確認すると無言で立ち上がり外へと出た。

「行くんだろ?」

ハーレーがそう聞くとえぇと弱く答えると村長の家を見て、すぐに山の方を向き直す。

「それに空気が悪すぎる」


★2

山に入った瞬間鼻をさすような臭いがする。

何か腐ったような、そして血の臭い……。

「こいつぁ……下手したら一人も生きてねぇぞ」

しばらく歩くとハーレーの足元に何かがこつんと当たった。

それは多分人だったものだ。

無残にも身体の至る所を食いちぎられたような惨状、少し離れたところにもあったそれはもはや元が人間だったとは考えられないほどぐちゃぐちゃでガブリエラは思わず口を押えた。

「全く、これ来たのが私達でよかったわね。普通の人間ならこんなの見たらトラウマものよ」

「それもだけどなんか妙に疲れないか?」

ハーレーがそう聞くとエドガーとガブリエラはそう?と平気そうにふるまうがエドガーは汗だくでガブリエラに至っては足ががくがくと笑っている。

まだ少ししか歩いてないのに何時間も走ったかのような疲労感がある。

そしてエドガーは一つの結論を導く。

「この黒い霧は、なんだか分からんが身体に毒なのは間違いないだろうな」

そこからまた少し歩いただけで三人は同時に倒れこんでしまう。

ハーレーは呼吸が荒く、ガブリエラの瞳にはすでに光がない。

「なんだよこれ…。身体が重いってもんじゃないぞ…」

「くっそ……んなとこで死ねるかッ!『自然調律(ゴッドハンド)』!!」

自然調律によって周りの環境に合わせたようにエドガーの身体は同じ性質を持つ。

そして身体に浸透した『それ』の性質を解析する。

しばらくするとエドガーがむくりと立ち上がった。その顔はいつも通り強気に満ちたものであった。

「これは間違いなく毒だがその性質を大雑把にでも理解さえしてしまえば俺には対処する術がある」

自然調律(ゴッドハンド)』、それは自身の周りの環境の性質を取り込み自分のものとする魔法。

しかしそれだけではなく取り込んだ性質を反転させるさせて運用することもできるのだ。

今回は毒を抗体に反転させ体内でワクチンを生成したのだ。

抗体はすでに体中に行きわたっていてもう毒に犯されることはなくなった。

体力が戻ったのを確認するとすぐさまハーレーの腰に提げてあるナイフを取り出し自身の右腕を軽く斬りつける。

大して痛くもないが血がちょろちょろと出てくる。

かろうじて意識の残っていたハーレーに右腕を向けると「飲め」と促した。

ハーレーが何か言おうとしたがそんなことは無視して傷口から垂れる血液をニ,三滴飲ませる。

そこに初歩の初歩の治療魔法を重ねがけすることでハーレーはようやく立ち上がる。

「なんかすごいなこれ、さっきまで息するのも苦しかったのに今では歩けるどころか力が出てきた」

「そりゃ当たり前だ。毒を反転させたんだ、その毒が強力であればあるほど強力な良薬ができるわけさな」

エドガーはガブリエラのところまで歩み寄るとハーレーを手招きする。

「お前も手貸せや。治療魔法なら多分お前の方がいいの使えるだろ」

「???何言ってんだ、俺は『時間加速(クロックアップ)』以外の魔法は使えないぞ」

「あん?んなわけねぇだろお前。だって俺が戦った時ーー」

振り向くとハーレーは「本当に使えないぞ、ガブリエラがこっそりかけてたんじゃないか?」と首を傾げていた。

どうも嘘をついている様子はなかったのでガブリエラの方を向き直す。

(ガブリエラがかけた?冗談だろ。魔力の反応は明らかにハーレーから発していたものだった。まさか無意識に?)

そこまで考えたが頭を振って考えを飛ばす。気になることはあるが今は集中しなければとガブリエラを見ようとしたら腕に違和感を覚える。

エドガーが見たのは傷口から出てくる血を必死に舐めとり吸い取ろうとするガブリエラだった。

「ふぁっ!?」

「んっ…ちゅっあっ……ちゅぱっ」

「こいつぁ『毒』で思考回路ぶっ壊れてんな。しばらくほっときゃ正気に戻るだろうさな」

エドガーの言った通りものの数秒程度で腕から口を離した。

口をふくとすぐさま自分に『氷結治療アイスヒーラー』をかけて氷の中に閉じこもってしまった。

「……」

「………」

「…………」

「閉じこもってんじゃねぇよ!!!」

火を纏った拳で氷を叩くとパリン、と割れてしまうが、出てくるなりしゃがんで縮こまってしっくしくと泣いていた。

「だってぇ…だってぇ……もうお嫁さんにいけないぃぃぃぃ……」

知らねぇよと頭をぽりぽりとかいたハーレーはガブリエラの手を握り立ち上がらせた。

「おら誰ももらってくれなかったら俺が手を貸してやるから立って歩けよ」

「えっ?」

そのまま歩き出してしまったためハーレーの顔は見えない。

ハーレーの顔が見てみたくてガブリエラは少し早歩きをして横に並んでみる。

その顔は普段と変わらない様子ではあったが、本当は心臓がばくばくしているのが魔法を使わなくてもわかる。

なに笑ってんだ、と言われ自分が無意識に笑っていたことに気づく。

「いい雰囲気のとこ大変申し訳ねぇが周りに『何か』いるぞ」

「あなた探査魔法使えたの?」

「半径一キロくらいしかわからんから気休め程度ではあるがな。つかこれくらいは学校でも習ったろ」

「あんまり使わないから忘れてましたよっと」

目を閉じ集中すると視えてきた。四、十六、三十、五十、百ーー

「ちょっとこれほんと?五キロ圏内に動体反応が五百!?いや待って、すぐそこに人がいるわよ!」

人の反応がする方へ走るとやはり人はいた。

何かに怯えているように尻餅をついて後ずさる。

後ろから来たハーレー達に気づくとこちらへ向かってきたがその人には本来あるべき足がなかった。

無造作に喰いちぎられたような、よく見れば顔の半分も腹も喰われたような跡があった。

そんな悲惨な状況を見て唖然としている間に黒い霧の奥から黒い、黒い赤い瞳をした犬(?)が現れその人をさらに喰らう。

その内臓ははじけ、ぐちゅぐちゅという音とともに『それ』は人ではなくなっていった。

料理に使うための挽肉を散らかしてしまったと言ってもさほどわからないような状況。

ハーレーは無意識に剣を抜くとその犬を一閃する。

「なにッーー」

犬を斬った瞬間ハーレーは氷に包まれていて地面を凍らせることでそれを移動させると氷が溶かれる。

「なんで俺を!?」

「バカじゃないのアナタ。斬って分かったでしょ、アレは『毒』の塊よ。あんなモン斬ったら近くにいた人間なんて簡単に死ぬわよ」

ハーレーは犬を斬ったときの感覚を思い出す。

「確かにアレは肉の感覚じゃなかった。むしろ空気を裂いたような」

「そう、アレの名前は『毒を持つ英雄マジックポイズンドック』っていって対タナトス用に造られた自己魔力生成型の戦士、らしいわ」

あんまり詳しいことは研究者の領域だからわからないけどね、と言って周りを見渡す。

「そうタナトスを討つための兵器を造る計画の中の一つであまりに危険かつ制御もできないからとこの開発は中止されたはずだがな。まあその辺については『ガブリエル』の方が詳しいんじゃないか」

「一々頭にくる言い方ね。でも確かこの辺には解体された研究施設があってそこには処分待ちの毒犬(どくいぬ)がいたはずよ」

「つうことはそっから脱走してきたんだろ、管理者の不手際かなこりゃ」

そんなことはどうでもいいとハーレーは言い放つ。

「村の人達が困ってるんだ。原因なんか俺には知らないし考えてもわからないけど止めるしかないじゃないか今!ここで!」

「それは素晴らしいがどうする。囲まれている以上どうにかせにゃならんのは変わらんが、奴らに傷をつけるだけで中の毒が溢れる。抗体があっても高濃度の毒をもろにくらってはただではすまんぞ。捕縛するような手段があるわけでもあるまいし」

「あるじゃない捕縛する方法」

口元を赤に染めた毒犬がガブリエラへ襲い掛かる。

ガブリエラは特に慌てる様子もなくただ指を向けた、それだけで毒犬は氷に包まれ動けなくなる。

「氷で固めてしまえばいい、これなら魔力が尽きない限り捕縛できるでしょ。私以外に氷が使える人はいる?」

「「………………」」

「一斉に黙るなっ!ったくアンタらときたら……」

氷に包まれて動けない仲間を見て少し困惑していたような毒犬であったがハーレー達を敵とみなしたのかグルルと喉をならしていた。

「さすがにこの数私だけじゃ捌ききれないわよ」

一歩、また一歩と近づいてくる。

「だから」

周囲を囲んでいた毒犬が一斉に駆ける。

「アンタ達も手伝いなさい!」

ガブリエラがぱちんと指をならすとハーレー、エドガーの手元に冷気が集束され形を表す。

ハーレーの手には短めの双剣、エドガーの拳に氷のグローブが現出した。

考える暇もなくハーレーは手にした短剣で襲いかかってきた数匹を流れるように斬りつける。

すると切り口から氷のトゲが生えて結果的に傷口をふさぐ形になる。

斬りつけただけで動けなくなったところをみるに体内に氷が侵食して毒を固めてしまったのだろう。

これは昔ガブリエラが手に入れた肉を保存するために使用していた技術だ。

「なるほど、これならいくら斬りつけようが大丈夫みたいだけどこういう武器、使い慣れてないんだよなぁ」

「仕方ないでしょ、私がいつも使ってるものの方がイメージしやすいんだから」

仕方ないかと割り切りふとエドガーの方を見るが心配は無用のようだった。

エドガーが氷を纏った拳で毒犬の顔面を真正面から殴りつけるとその打撃点を中心に毒犬の身体を氷が歪に囲う。

「自由に手も動かせる、重みも感じない。張りつくというより包み込むといった感じか、やるな嬢ちゃん!しかしよこれ少し冷たいんだが手が凍傷になっちまうなんてことはねぇよな?」

「知らないわよ炎扱えるんだし自分で温めれば?」

しどい!なんて言いながらも襲いくる毒犬達を次々といなす。

(今はまだ全然余裕みたいね、数を考えると私はあまり戦うわけにもいかないから二人に頼るしかないわね)


★3

どのくらい戦ったかはわからないが二百匹斬りつけた時点でハーレーが声をあげる。

「よっし二百とった!」

「俺も、二百とちょいっと!」

「私もいくらか倒したからあと五十もいないはずーー」

その時だった。ガブリエラの背後で周りの黒い霧が集束して一つの塊ができるとそれが毒犬となって襲い掛かる。

「ガブリエラ、後ろから!」

「わかってるわよ!」

振り向くこともなくその毒犬はガブリエラの魔法によって凍りつけとなる。

ガブリエラは先ほど起こった不可解な現象について考える。

さっき私の後ろで変な魔力の流れを感じた、ということはこの霧の正体は『魔力』?でもそれが何故毒なんかに、と。

「くっ!んだよこいつらは!?」

四方八方あらゆる方向から毒犬は現れてハーレーを襲う。

それを何とか隙間を見つけながら一匹、二匹と斬るが圧倒的に手数が足りていない。

それはエドガーにも言えることであった。

こちらは三にたいしてあちらは百以上、さらに見えないところからの奇襲とあっては彼らも物量に押され始めた。

出し惜しんではいられないとガブリエラは構えるが足元がふらついていて立っているのがやっとというところであった。

周りを見るとそこら中に氷の塊が溢れている。どうやら自分がやっていたようだった。

魔力が、足りないーー

「ったく暴れすぎなのよ自分は。ーーだがこんなもんじゃ止められねぇぜ!」

いつものガブリエラからはおおよそ考えられないような口調から毒犬は恐怖し抵抗するためにとびかかるがそれを殴り飛ばすとハーレーの方へ向かった毒犬を蹴り落とし行動不能にさせる。

「やれやれまた始まったよ」

たまにあるのだ、いきなり人が変わったみたいにキレることが。

ここ数年は見ていなかったが前に見たときもこんな風にやばい状況のときだった。

「遅ぇよ」

数々の毒犬が襲い来る中何回か黒い霧が集束したがそこを先に潰すと霧はそのまま散り散りとなった。

「霧状のやつは特別強い毒素ってわけでもねぇんだ。固まって濃度が高くなったのが噴出するのがマズイだけで、要するに集まる前に潰しゃあ問題ないんだがーーこの数はやっぱり無理があるよね」

無数に湧いてくる毒犬にじりじりとハーレー達は追い詰められついには三人の背中がぶつかりあってしまった。

後はもうない。

「体力ない魔力もない、ないないばっかでキリがない」

「冗談言ってる場合じゃないでしょうに。さぁてどうしますかね」

「いっそコイツら焼くか?」

「ばーか、毒を焼ける魔法なんてアンタが使えるわけないでしょ。使えたら最初から使えって話だし」

ハーレーが都合よく誰かこないかなー、なんてことを思うとそれは聞こえてきた。

「あははははははははははっはっはっはっはっはーっはーっはーっはっ!!!!!なんて無様!なんて滑稽!なんて惨め!そんなことだからアナタは『巨乳』なのです!!!」

声は空から降ってきた。高飛車でいて高圧的、しゃべる度に人の神経を逆なでするようなこの声はーー

「サァァラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

「フレイミですわ!」

ちょうどガブリエラの目の前にサーラと呼ばれる女性は着地した。

全体的に白を基調とした服で赤い紋章がその平らな右胸のあたりに一つ、大袈裟なマントにも大きく赤い紋章がありところどころ赤いラインが入っていて服装自体は地味なはずだが派手に見えるなんとも不思議な服である。

そんなサーラ・フレイミは周囲の状況を見て酷い異臭と目の前に転がる肉片が視界に入るとあからさまに顔を顰めた。

「思ったよりも酷い有様ですわね……。最悪なんてものじゃないですわ」

「アンタに頼るのはシャクだけどいいとこに来たわね。この状況を突破できるのは現状アナタしかいないわ!」

「もちろん、『そのために』呼ばれたのですから。高潔な(ほむら)よ、我を害する全ての毒を焼き払え!『炎紋焼毒ファイアレム・ディスポイズン』!」

そう叫ぶとサーラを中心に紅色の炎が広がっていき毒犬を『焼いていく』。

それはそこら一帯に広がる霧さえも焼き殺す。

その炎が自分に迫るのをハーレーは見た。

「おいおいおいおいやばくないかこれ!俺焼かれない!?」

「すぐに終わるからじっとしてろ」

エドガーにそう言われると同時に炎に包まれたが特になんともなかった。

むしろ身体が軽くなったような気までする。

「『炎紋焼毒ファイアレム・ディスポイズン、自分が毒だと認識したモノ全てを焼く治療魔法だ」

本来治療魔法である『炎紋焼毒ファイアレム・ディスポイズン』だがサーラ自信は一度も治療魔法として使ったことはない。

エドガーの解説を聞きながらそう思うサーラは周りを見渡し何か木々が燃えてはいないか確認するとホッとした様子で振り向く。

「片づけたわよ。なに手こずってんのよコンナヤツラに」

「相性の問題よ、まぁ今回は助かったから素直に礼を言うわ」

あの時は霧でよく見えなかったが見れば見るほどキレイではある。

眩しいくらいの赤色に少し深みがかかっている焔色の瞳は見ているだけで吸い込まれそうである。

しかしどうしようもなく壁である。

ガブリエラほど、とは言わないがせめて揉めるくらいにはあっても罪にはならないと思うの。

このままだとエドガーの方が大きいまである。

「あァン?何か言いましたか」

「え、いや何も?」

これは酷い、何も言ってないのにこの態度。心を読まれてるとしかーー

「読んでんだよハゲ。それに巨乳だからいいというものでもありません。とにかく巨乳は動きづらいですからね、邪魔でしかありませんよええ。アレは余計な肉ですよ無駄な肉です。それに比べひ……慎ましい方が非常に動きやすい。肩こりに悩まされることもありませんし何より見た目が美しい、巨乳は下品です」

「そうなのよー巨乳って動きづらいし肩はコルはであまりいいことでもないわねー。でもでもー巨乳でもフォルムが美しい人はいますしー(特に自分)、巨乳の人って母性がにじみ出てるじゃないですかー(特に自分)。つまり巨乳って母になれるポテンシャルがあるってことになるかしらー」

「えぇぇぇぇぇ!?アナタもう既にできているのですか!?」

「そ、そんなわけないでしょこのバカ!私が一体誰とできるのよ!」

「あ、あのぅところで彼女は一体何者でごぜーますか…?」

醜く罵り合う二人に割って入るように小さくハーレーが訊くとガブリエラはアンタのせいでしょうがと返した。

俺がなにをしたっていうんだ。

「それで、この男がアナタのフィアンセ?」

「ぼっ!?ぼわっかじゃないの!そ、そんなことより紹介すればいいのね!?」

ほうこれはいじるネタが増えたな、とサーラは内心思ったが求められれば自己紹介するのが礼儀というもの。

「私はサーラ・フレイミ、魔法協会直属魔装第二師団団長ですのよ」

「へぇー、ところで魔装師団ってなんんだ?」

「げぇっ、カノジョといながらそれを知らないですの?」

「悪かったですね知らなくて」

まあいいですけども、と言うとサーラは服を払う仕草をする。

「魔装師団というのはそのまま魔法協会直属の魔法使いのみで構成された部隊のことですわ。そんでワタシがその師団長ってことですの」

「別にお嬢様でもないのに『ですのー』とか言ってんじゃないわよハゲ」

「はぁ!?私はハゲてねぇですよバカ!」

「それこそ私もバカじゃないわよ。そんなこと私に言えるような人間なんて世界に数えるくらいしかいないっての」

「そっれが私ですのバカ」

「むきー!またバカって言った!!」

「犬猿の仲っていうんだろうなああいうの」

果てしなく続く罵り合いを見てエドガーは呆れ顔でそう言う。

「え、こういうのってケンカするほど仲がいいって言うんじゃないのか?」

「「バカじゃないの!!」」

二人の気迫にやや押され気味で何も言い返せないでいるとふとハーレーの視界にあるものが入り込んだ。

それは肉塊、目の前で無惨にも食い散らされた村人であった。

「……なぁサーラっていったっけ」

「なんですの?」

「他の人達は無理かもしれないけどこいつだけは元の場所に帰してやりたい」

ハーレーの言いたいことを察したサーラはその人だったものの近くによるとそれを燃やし始めた。

やがて残った骨を集めて持っていた袋に入れるとこれでいい?と聞いた・

「ありがとう」

「いいですの、こういうのは慣れていますから」

「というかなんでアンタがいるのよ」

ガブリエラが少しきつめに言うとサーラは言い方にはむかつくもののそれでは先ほどの繰り返しで話が進まないと抑えた自分に悦を感じながら質問に答える。

「魔法協会から『私に』依頼があったのよ。研究所から逃げ出した犬共を処分しろってね」

「そう、じゃあ私たちはこれから村に戻るから。アンタは?」

「私はまだこのあたりでやらなくちゃいけない仕事があるですの。あ、報酬は半々ですから」

「いらないわよ報酬なんて。元々アンタの仕事でしょ」

その言葉を聞いたハーレーとエドガーは目を見開きぽんぽんと二人して頭を叩き始めた。

「だ、大丈夫か?頭でも打ったか?」

「いや違うはずだ、頭を打った描写はないからな。多分毒が頭まで回って…」

「アンタらねぇ人を守銭奴かなにかと勘違いしてるんじゃないの?」

「「え、違うの」」

「本当ならここで氷漬けにするところだけど魔力も残ってないし今は勘弁してあげる」

「とりあえず村に戻ろう。それじゃあ…っていない?」

先ほどまでそこにいたはずのサーラが姿を消している。もう調査にいったのだろうか。

村に戻ると村長が出迎えてくれた。

村長にあらかた起きたことと解決したことを報告して村人と思われる人の骨の入った袋を渡した。

必要なことだけ済ませると休むこともなくすぐに村を出発した。

休んでいかないかとの申し出もあったが先を急いでいるのでと断った。

今は、この時は、今日くらいは彼らには時間が必要だろう。

それはそうとして多くの謎が残っているが、そのあたりもサーラが解決するだろう。

そしてハーレー達はまだ知らない。

この出来事はまだ始まりでしかないということをーー


★4

「……少し出る」

「どこに行くの?」

「アイツらがスタート地点に向かってる」

「あいつらって…ハーレー達だよね?スタート地点って?」

「……終わりはもう終わってンだ。これからは始まりが始まるンだよ」

「うーん、やっぱり難しいや。どれくらい出るの?」

「多分ひと月くらい空ける。土産はちゃンと持ってくるから気にするな。……待てるな?」

「うん、待てるよ!」

「…………じゃあ、行ってくる」













































































いつぶりだろう久々というにはまだ日が経ってない気がしますがお久しぶりです。

さぁどうでしたでしょうか。

act03ということでシナリオは不鮮明ながらどんどん進んでいきます。

あまり進んでいないように思えるこの回、あとから見直すと割と話が進んでることに気づきます。

伏線も割とばらまいていて初見はわからないことが多いかもしれませんがあとから見返すと割とすごいこと書いてあったりしてます。

ってさっきから同じことしか言ってませんね・・・。

まあそれくらい私からは話せることが少ない話です。

そして出ました新キャラ、新設定。

ここら辺の話もここでは割とざっくりとしか説明してませんが本編中で後々語るのでお楽しみ、ということで。

さてさて次のact04では話がかなり進んで第一幕の物語の核心へと近づきます。

そして今回ばらまいた伏線も微妙に回収しつつも今回以上に伏線をばらまくお話で多分話の底が見えないこともありましょうがまたその話も後ほどということで。

今回も読んでいただきありがとうございました。



何かを成すには対価が求められるものだ。

たとえそれがソレに見合わないようなものであってもーー

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