初めての友人
説明
村ギルドのギルド長:歳は五十代。おおらかな人で、村人に好かれ、慕われている。名前は不明。
受付嬢:仕事熱心なお姉さん。仕事で服や髪型は決まっているので、よく他の受付嬢と間違えられる。どんな対応にも適切な態度を取るように心がけている。ジョー〇さん的な存在。
アリシアさん:茶髪のお姉さん。冗談が好きで、よく笑う。とっても気遣いができて、やさしい。彼女の淹れるコーヒーは絶品。とのウィル談。容姿端麗。まさに理想の彼女だろう。
宿屋のウエイトレス:明るく元気が座右の銘のお姉さん。語尾を延ばすのが口癖。たまにこけたりして、少し天然。そこが熱狂的ファンを集めている。ウィルは決して、そんな目的で選んだ訳ではない。
カイト:魔物や動物に好かれる体質を持つ青年。ウィルがなぜ、カイトを好かなかったのは、人間の心があるから。が一番の理由。子供好きで明るく真面目。お兄さん的な存在だがウィルの前では何故か、弟のようなもの。
「やっちまった…」
俺は、頭を思わず抱えた。
最近、覚えたスキル「忘却」このスキルは、何かしらの対象に打撃を与えれば記憶を忘れさせることができる。無機物に使ったら、その物自体が存在しなかったことになる。生物に対しては記憶だけだ…。
だけど、初めて使ったもんだから失敗した。まさか、今朝からの記憶がなくなるとは…ついさっきまででよかったのに。
なぜ、俺が顔を見られたくないのかと言うと、覚えられたら困るからと、前世と同じような顔に変化したつもりが別人だった。起きた時に気づいた。
この世界で銀髪と言えば、エルフぐらいだ…。エルフも、冒険者をしていることもあるが、間違えられたら困る。
何せ、エルフは高く売れるから、間違えられたら俺の身が危ない…。
「えぇっと……?」
ヤバイ。俺は、アリシアさんの手から紙を取ってその場から立ち去った。
ぺトラは、もう森の中だ。約束をしたんだ。もう出てくることは無いだろう。
「あぶねぇ」
俺は、ふぅーっと息を吐いた。
それから、ギルドへ入って報告書を渡した。
「はい。確認しました。Dランククエストをこなしましたので、Fランクのウィル様は今日からEランクです。ギルドカードです」
手渡された、ギルドカードは白色から、紺色に変わっていた。色も変わるらしい。
「そして、今回の報酬です」
「ありがとうございます」
俺は報酬の銀貨一枚を受け取った。さて、宿を取るか。
俺は何やら軽い足取りで宿へ向かった。前からここいいなぁと思っていた場所だ。俺は扉を開けた。すると、カランカランと音が鳴った。
「いらっしゃーい。食事だけですか? 宿ですか? 宿でしたら食事込みで、銅貨二枚です」
「宿で」
「解りました。先払いがよろしいでしょうか? その際は当宿で泊まらない分の金額はお支払いしますが?」
「はい、それでいいです」
「了解いたしました。では、五日でで銀貨一枚を目安にしてまーす。どうしますか?」
「五日分で」
先ほど貰った銀貨を渡した。ウエイトレスはそれを笑顔で受け取り、「こちらでーす」と言った。
俺は着いていった。ウエイトレスは扉の前で泊まり「ここがお部屋になりまーす」と言って、鍵を渡してきた。
「出て行く際は、その鍵をフロントに預けてください。では、私はこれで…」
「ありがとうございます」
スタスタと歩く女性を見送ってから、俺は鍵を開け部屋に入った。
「結構広いなぁー」
一人分だから、狭いかと思えば意外に広かった。
ここを選んで良かったなと思う。俺はベットにダイブした。ふっかふっかだぁーー…瞼が重くなる。
「もう寝よ…」
視界がぼやけていった………。
起きたら、五時だった。朝ごはんまで時間があり、どうしようかと悩んだが散歩することにした。
俺は、部屋の鍵を閉めて鍵をフロントに預け、外に出た。早朝とあって人通りが少ない。
迷うことなく町の外に出て、近くの森に入った。今の時間、ギルドもやっていないので先に魔物を討伐してお金を稼ごうと考えた。
だけど、あまり魔物はおらず、いたとしても討伐対象に登録されていないやつばかりだ。普通の森にはいってしまった可能性がある。
「まぁ、いいか。暇つぶしのつもりだったし…」
そんな事を言いながら、木の上に登る。
途中、リスらしきものが驚いていたが気にしない。元の姿に戻り背伸びをする。
『うーーんっ。やっぱり、こっちの姿の方がちょっと楽だなぁ』
二度寝しようかなと考えていた時、森の奥から悲鳴が聞こえた。
無視したいが、そこまで人でなしじゃないので、走る。変化するか迷ったがこっちの方が早いしいっか。と考えながら走る。
案の定、人が魔物に襲われていた。
「わあああああ!! 助けてくれーー!!」
こんな朝っぱらから森に入る奴がいるとは思いもしなかった。
相手は、大蛇だが大丈夫だろう。こんだけの大物だ、結構お金もらえるんじゃないかな。
木の上に上り、ジャンプして大蛇の喉元に噛み付く。大蛇がうなり声を上げる。思ったより硬い皮膚で、血管まで少し届いただけだった。
口を離し、降り立つ。
「…狼……魔物…?」
大正解だな、うん。そんな君には、モ〇ットボールをあげよう。反論は聞かないよ。
まぁ、冗談は置いといて、目の前のやつだ。怒ってやがる。いやはや、スキルを使うしかないか…。
《スキル・ダークブロー》
前足が、黒いもので覆われる。なるほど…そのままじゃねえか…。
俺は、もう一度飛び、今度は爪で喉を狙う。赤い血が宙を舞う。成功だ。
大蛇は近所迷惑な声を出して倒れる。
痛い……耳ガンガンする。おーい、俺、耳良すぎだから大分痛いよ~。
「あ……え…あ…す……す…」
『?』
「すっげええええぇぇ!!」
は?
「今のスキルだろ? すげえな、だからCランクの魔物を倒せたんだな? な!?」
よりすぎ……魔物に目をきらきらさせながら寄ってくる人ってこいつ、いつか死ぬんじゃねぇ?
「お前、喋れるだろ? そうだろ?!」
『そうだが』
「うおおおっ!! すげぇ、喋れる魔物初めてだー! オレさ、何故か魔物に好かれるんだよね? なんちゅうか、普通の動物みたいにさ、じゃれて来るんだよ。今みたいに大きな魔物だと死ぬからさ、お前、オレのパートナーになってくれよ! いいだろ!?」
『嫌だ』
「え?」
『嫌だね。パートナー契約したらさー、自由じゃないじゃん。俺は自由に生きたいの』
「!………」
ああ、黙っちゃったよ…。ちょっと、自己中なんだよなこいつ。聞いている限りだと…。
「お…」
『お?』
「オレに好かれない魔物初めて見た! すげぇ!」
『!?……こういうタイプか……。』
「今日ついてなかったけど、今はついてる! な、じゃあ、パートナーがだめなら一緒に旅をしようよ!」
『アホか。町にパートナー契約なしで魔物が入れると思うのか?』
「! そうだったー!」
『諦めてくれないのか?』
「?…おう!」
はぁと溜息をついて座って俺は言った。
『じゃあ、あの大蛇の討伐部位を剥ぎ取ってくれたら考えてやる』
「! 本当か!?」
『本当だ』
楽しそうに、剥ぎ取っている。
何か、怖いな。ニコニコしながら、剥ぎ取るの…。
「出来たぞ!」
『じゃあ、行くか』
「え? 何処に?」
『町に』
「入れないんじゃないの?」
「魔物はな。パートナーは嫌だけど、パーティーならいいだろ?」
「へ? う、うわぁぁ!? 人間になれたのか!」
「当たり前だ」
フンと鼻を鳴らし、手を出して少し笑う。
「俺は、ウィル。お前は?」
「オレは、カイト! 宜しく、ウィル!」
「宜しく」
この世界に来て、初めての友人が出来た瞬間だった。
日々、成長しているウィル。でも、根は子供。