キメラ
「しかし、どうするんだ?俺は入りたくないぞ」
「え? ウィルなら強いし、いけるんじゃない?」
俺たちは“迷いの森”の入り口にまだ佇んでいた。
何分、ダンジョンなんて始めてだしなぁ。
「ナタリーはどうするんだ?」
「私としては、何日かの食事の恩があるから助けたい」
「そうか、なら行くぞ」
俺は前に出た。しかし、皆がついてこない。
「どした?」
「いや、ウィル、さっきまで入りたくないって…」
「そうだぞ、どういう心変わりをすればそうなる」
「どうもこうも、こういう事だから」
「いや、理由になってない」
まぁ、そんなこんなで俺たちは結局、“迷いの森”へ入った。
「しかし、改めて見ると大きいなぁ」
「私もそう思う」
外から見ていた大木がずらっと並んでいる。迷いの森という割には光が入っていた。
たまに、魔物が出てくるがEランクモンスターなので簡単に倒せる。今まで、五匹くらい来たな。でも、ナタリーの仲間はどこにいるのだろうか?
「ナタリー、場所分かるか? ギルドカードで大体の位置分かるだろ?」
「もう少し、先だ」
ナタリーの言葉にそって、俺たちは歩く。すると、急にラックが声を上げた。
『ピッ!!』
「……全員止まれ」
「ウィル…?」
「まったく、誰が“迷いの森”だなんて付けたんだ?真っ直ぐ歩いたら……ボス部屋は可笑しいだろ…」
『グルルルルルルルッ』
そこには、ライオンみたいなのがいた。
「まさかっ! キメラか?! 何故、Eランクダンジョンにいるのだ!?」
ナタリーは声を上げる。
「な………ナ、タリー…か…?な、ぜ…来た…?」
キメラの足元にはナタリーの仲間のリーダーがいた。その姿は虚しく、血だらけであり腕が無かった。
「なっ!」
「ジン!!」
カイトは口を押さえて驚き、ナタリーは走り出していた。
「ちょっと待て!!」
俺はナタリーにそう叫ぶが聞いていない。周りが見えていない。
ナタリーの危険を感じた俺は走り出した。
『グルルッガァアッ!!』
キメラは前足を振り上げ、足元に走ってくるナタリーを吹き飛ばそうとした。ナタリーは迫り来る足をみて硬直してしまった。
キメラは足を振り下ろす。
一瞬ニヤリと笑ったキメラだったが、振り切った後手ごたえが感じなかったのか周りをキョロキョロしている。
「ウィル!!」
カイトがこちらを確認して走ってくる。
「たく、ナタリー少しは冷静になれ、それでも百歳以上のベテランか?」
「………すまない。助かった」
ナタリーはまだ、呆然としているが冷静になったようだ。
ナタリーの気持ちも分からなくは無い。そりゃ、仲間が目の前であんな姿になっていたら冷静になれないだろう。
「大丈夫か?」
「カイト、人の心配より自分の心配した方がいいと思う。キメラがご立腹だ」
牙をむき出しにして、目は赤く光っている。相当、怒ってるな。アレ………。
「ナタリー、もういけるか?」
「大丈夫だ、心配ない」
「そっか…。キメラを倒そうと思う。だけど、ナタリーの仲間は助からない。他の仲間は、」
「もう食われたんだろうな。私でも分かるさ」
「だよな」
そう、他の仲間はもう食われている。キメラの口元の毛が赤く染まっている。多分だけど、この森に入ってくる人間を食べていたのだろう。
人間達はEランクダンジョンだからって油断して入っていたのだろう。しかし、待っていたのはCランクボスモンスター。入り口に立っていた立て看板は命からがら逃げてきた奴が、これ以上犠牲が出ないようにと立てたのだろう。まぁ、あの文は脅しにしか見えなかったんだけど。
「カイトもいけるか? 多分、サーヴァントスネークより厄介だと思うけど」
「無理」
「回答早ッ! じゃ、中距離攻撃は?」
「できるな!」
よしっ、それなら。
「ナタリーは後衛で、魔法を使い相手を翻弄。カイトは中衛で、ナタリーにあわせて攻撃。俺は前衛。接近攻撃で相手にダメージを負わせる。簡単な作戦だがこれ以上は相手が待ってくれないので、作戦……開始だ!!」
俺の一言で、皆は走り出す。これなら多分いける!…はず!
『ガァァアアアアッ!!!』
「絶対! 倒す!!」
戦いの始まりだ!!
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“迷いの森”上空。
そこに、一人の女性が立っていた。
「マスターが復活したと聞いてきたが、まさかあんなガキとは」
女性はため息を付く。
そんな仕草でも、何か魅力的に感じるのだった。男性ならすぐ目をハートにしてしまうだろう。だけど、言葉遣いが荒い点では残念かもしれない。
「あの程度の魔物で少しでも苦戦するなら、私の知っているマスターになるまでまだ遠い」
残念そうに言う女性だが、戦っている姿をみてフッと笑う。
「しかし、戦っている姿はマスターそのものだ」
女性はその言葉だけ残すと消えた。
もう無理!長くできない!!なんで!?したいのにできない!!何故!!?