森のクマさん
あるー日、森の中、クマさんに、であーった。
薄暗い森のみーち、クマさんにであぁーったー。
『久しぶりだね、シャイ』
森から現れた一羽の孔雀はそう言った。
「シャイ……?…誰のことだ?」
その名前に、聞き覚えの無い俺は言った。だって、その名、明らかに俺やカイトじゃないじゃん。
その言葉を聞いた孔雀は溜息をついた。
『はぁ、その様子だとまだ記憶が戻ってないんだ…残念…』
「何言ってるんだお前! ウィルに何の用だ!」
おおぉっい!? カイト、それだと本当に俺に用があるみたいじゃないか!
『今の名前はウィルって言うんだ。ふむふむ、神浪の子供として生まれたんだね。ホント、相変わらず規格外だね』
「何を言ってるんだ?」
は?……神浪? 母さん(今世)がか?そんなわけ……いや、あんなにでかかったし、変化使えるし…。シーとリバーだって、喋れるのに変化使えない…。…まさか……なぁ…。
「ウィル…? 大丈夫か…?」
いつの間にか真剣な顔つき(と言ってもフードで顔が見えない)をしていたらしい。
『まぁいいや、また会いに来るよ』
孔雀はクルリと方向を変えたが、首をうねらせこちらを向いた。
『あ! そうだ、最後に顔だけでも見せてよ。』
「!!?」
孔雀は言い終わると同時に俺の顔を覗き込んでいた。俺が気づけない速さで。
『ふふっ。やっぱり、顔は似てるね』
嬉しそうに笑う孔雀…いや、鳥面なので笑っているようには見えない。見えるとしたら、目を細めてるぐらいだ。
『また来るね。ウィル君』
そう言って、孔雀は消えた。辺りに張りめいていた緊張感は無くなった。
ヘタッと、俺たちは座り込む。
「何だったんだ?…発言からして、ウィルを知っていたっぽいけど」
「分からない…。でも…、見たことはあるかも…でもあんな魔物知らない」
「オレも知らないな…。次の町に着いたらギルドで調べてもらうか」
「そうだな……でも、正直もう会いたくない…な」
「同感だ…」
しばらく、座りこんでから立ち歩き出す。次の町ヴェールは森をでて、四日の所にある。遠いが、しょうがない。
俺たちは森の中へ足を踏み入れた。
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森に入って、三時間。同じような木々達を視界の両端に捉えながら歩く、歩く、歩く。
さすがに疲れたので木の幹に寄りかかって休憩する。
「あーっ、疲れたぁ」
「どんだけ、でかいんだ?この森」
「それにしても、おかしいな」
「なにが?」
「この森は魔物が出ないことで有名だから、何人もの商業人達が行き交いするんだけど……一人も出会わなかった」
「それって…」
『グルルルルルッ』
「「…え?」」
カイトと俺は壊れた人形の様に首を声のした方に向けた。そこには、とてもこの森に似合いそうな魔物がいた。
そう 森のクマさん だ。
「アハッ、アハハハハハハハハっ。」
「カイトっ! 戻って来い!」
カイトが自暴自棄になるのも無理は無い。そのクマは三mぐらいあるのだ。一言で言うと、教室の天井ぐらいまで…。
そんな巨体のクマが、鋭い目で睨み、二本足で立っていて、前足に鋭い鉤爪があるのだ。そんなもの、目の前に来られたら怖いじゃないか!
え?ぺトラはって?アイツは、トナカイみたいな形してたし、大きく感じても、二mだったし。ねぇ。って! そんな事言ってる場合じゃない!
最悪にも、クマが来た方向は俺たちが向かってるほうだ。
「くそっ! 一気に行くぞ、カイト!』
俺は、カイトの服を銜え足に力をいれ、飛ぶ。
途中で、鉤爪にやられそうになったが、ダークブローで弾く。そのまま、クマの頭を踏みもう一回ジャンプ。クマは倒れ、俺はそのまま走る。
「痛いイタイイタイイタイ! 引きずってる! 足痛い!!」
『しょうがない。重いけどっしょっと!』
カイトが痛いと訴えるので、カイトを放り投げて背中に着地させる。
ドスッ
『いって』
思わず、倒れそうになる。中型犬サイズから大型犬サイズに最近なった俺だが、さすがに重い…。
『グォオオオオっ!』
「ウィル! 追いかけてきてるぞ!」
『分かってる! だから今必死に走ってるじゃないか!』
全力疾走するも、カイトが乗っているせいで早く走れない。
しかし、クマ早いな。今、俺、車並み(五十)の速さだぞ!徐々に離れてるから、四十キロ出してんじゃないか、あのクマ。
『カイト、森を抜けるぞ!』
薄暗い森に明るい光が差し込む。俺たちはそのまま走って森を出た。
『グァ!』
クマは光が当たった瞬間、少し悲鳴を上げ森に引き返した。どうやら、光が苦手らしい。それを見ながら、俺は人型になる。
「間一髪だったな」
「オレ、死ぬかと思った」
「いや、孔雀よりマシだろ…」
「そういやそうだな!」
俺たちは、町ヴェールへと足を進める。
「荷物忘れた…」
「あっ………」




