あまごい
雨が降っている。壁越しにくぐもった音でその気配が聞こえてくる。
私はタッチパネルになっている携帯電話の画面を無意識になぞっていた。ガラケーなのにタッチパネルなんだよと、彼に自慢したのはいつのことだったか。彼はあまりそのことに興味は無さそうだったな。
私は毎日二言三言、彼にメールを書いて送っていた。たまに電話もかけている。
今日は、彼と二人で楽しみにしていた漫画の新刊が発売されたので、その話を書いて送った。この日課を始めてから、彼からの返事は一度も来ていない。
街で見かけた猫の写真を添付した時も、有名な喫茶店のチョコレートパフェの写真を添付した時も、返信はなかった。三日前には彼の代わりに、彼のお母さんからのメールが届いた。
内容は私の体調を心配してくれているものだった。
『ご飯はちゃんと食べています』
返事としては、そんな内容を書いて送った。仕事にも毎日行っています。貯金もしています。でも、彼からの連絡はありません。
彼のお母さんが、彼を行方不明者として届け出てから、もう一月以上が過ぎていた。
ぬか漬けの、キュウリのような気分だった。
私も、誰かに食われてしまえばいいのに。
彼女の話も少し後で続く予定です。