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壱の町ー伍







……………………。








……………………。








「毎日毎日何もないこんな神社にきてお主は本当におかしな奴じゃのう。」



 自分から五歩くらいのところで聞こえてくる姿が見えない声に耳を傾けながら俺は意識を集中させるために目を閉じて意識を沈め瞑想(の様なもの)に入る。すると声の主は俺が無視したのがつまらないのか、つまらなそうな雰囲気を出しつつ俺の後ろの方に近づいてくる。



「なぁなぁ、妾の話を聞いているのか?聞いているのか?どうなんじゃ?」



 俺に声を掛けつつ近づいてきて俺のすぐ後ろまで来た声の主は俺が反応しないことに対して何度も聞いてくる。正直この声のせいで、さっきから集中が途切れてしまっていて俺は少しイラついていた。それにもかかわらず声の主はしつこく話しかけてくる。いい加減うっとうしくなったので一言言ってやることにした。



「うるさいな。俺が今何やっているかわかるだろうが、すぐ後ろで喋るな、気が散るだろうが。」



 俺がすぐ後ろにいるであろう声の主に言うと、声の主はいったん喋るのをやめた。そしてしばらく無言の状態が続いたが、やがて喉の奥から出すような笑い声を上げ始めた。



「くっくっくっ。よもや一週間で妾の存在が意識できるようになるとはな。これは面白いものを見せてもろうた。これならすぐに妾の姿もみえるであろうな。」




声の主は上機嫌の声でしゃべりながら俺の周りをグルグル回る。これも気が散るのでもう一度言ってやろうかと思ったが、声の主は俺の怒った気配を察したのか、回るのをやめた。それでも嬉しそうな雰囲気はそのままだ。



「よいよい。このまま励むがよい。どうせこの神社にはお主以外に来る酔狂な奴はいないだろうし、妾も退散するから好きなだけここで瞑想しているがよい。そして、次の時には妾の姿を見れるようになっておるのを期待しておるぞ。」



 そういって声の主の気配は消えて、静かになった。その中で俺はもう一度瞑想に入るために目を閉じて意識を落ち着かせる。

 目を閉じているからか、周りの感じが気配として伝わってきて、おぼろげながらわかる。これでも前に比べたら成長したもんだ。そもそもなぜ俺がこんなことをしているかと言うと、それは一週間前の決闘に負けた後にさかのぼる。







…………一週間前…………





 決闘に負けた後、俺たちはもう一度広場で話をしたんだが、その時にサクヤさんからは俺と勝負した理由は教えてくれなかった。何でも決闘に勝っていたら教えていたかもしれないが、負けてしまったので、教えないという事だ。気になるのだが負けてしまった俺は何も言うことが出来ない。だが、サクヤさんとしては満足いく内容だったようで、話している最中はずっと笑顔だった。



「今日はとてもいい機会だったよ。初日に君と知り合えたのは幸運だった。私のプレイヤーカードを送信しておくから何かあったらメールでもしてくれ。時間が合えば会おうよ。」



 去り際にそんなことを言われ、俺はサクヤさんとカードを交換した。交換する時にダメもとで俺と決闘する理由を再度聞いてみたが、サクヤさんはウインクしながら「秘密だよ。知りたかったら私に勝ってみてよ。」と返された。ウインクするサクヤさんの姿がとんでもなく綺麗で俺はカードを交換する時ずっと顔が赤かった。そしてそのことをサクヤさんの隣にいたリリンさんにずっとからかわれていた。分かれる際にもリリンさんからからかわれたので、仕返しとばかりにデコピンをやってみたら、これがシステムから攻撃と判断されず、うまくリリンさんに当たり、一矢報いてやった。

そんなことがあって一日目は終わりにして、俺はゲームを終了した。





それからは基本的に一人で行動していて、その間に色々な事を体験した。例えば、壱の町の外の平原で初めて野犬以外の敵に遭遇した。話では野犬以外にあと2種類の敵が存在するという事であったが、その残りの2種類は野兎と餓鬼だった。

 野兎は名前の通りウサギなのだが、現実世界のウサギそっくりなんだが、唯一違う点は大きさが現実のウサギに比べて尋常じゃないほどでかい。現実のウサギの倍以上の1メートルくらいの大きさがあって、存在感が半端じゃない。普通のウサギの動作なら、小さくて愛くるしいなと思うが、それを約1メートルのウサギがやるのだから正直言って恐怖しか感じない。最初この敵にあったときはあまりの驚きと恐怖で固まってしまった。幸にもその時は「気配察知」で何か来るなと感じていたので、物陰に隠れて様子をうかがっていたので、固まっていた時を攻撃されることはなかったが、しばらくは動けなかった。

 やっと体が動くようになってから、野兎に攻撃を仕掛けてみたが、このウサギは図体がデカいくせに動きは普通のウサギと同じくらい素早かったのだ。1メートルの巨体が動く速さではないので、俺は面白いように振り回されてしまった。あっという間にやられてしまうかと思ったが、このウサギはただ早いだけで、攻撃自体はそれほど速くはなく、またあまり攻撃をしてこないので、移動の終わりの時さえわかってしまえば、攻撃するのはそれほど難しいことではなかった。それでも、野犬に比べたら倍以上の時間をかけてやっと一羽倒すことが出来た。経験値としては野犬よりも多く入ったが、倍というほどではなかったので、あまり進んで倒したいとは思わなかったが、新しい敵だったので、結構楽しんでしまった。

 後でナオユキから聞いたのだが、普通野兎は階級の低いプレイヤーは複数で協力して倒すという。とても一人で倒すような敵ではないらしい。



「野兎はお前も見たと思うが、移動の速さが最初の敵としてはありえないくらい早いだろ。一人じゃ、野兎に追い付いたらまた移動されて、追いかけっこになっちまうから、複数で囲い込んでそこを攻撃するのが、基本なんだよ。」



 

というのがナオユキのいう事であったが、俺がウサギの動き位わかるだろというと俺の「気配察知」のレベルを聞いてきて、俺が答えるとアイツは「それは最初の町にいる奴のレベルじゃない。何やってレベル上げたんだよ」と質問されてしまった。



「別に何かやったってことはないんだがなぁ。」


「何もなしでお前のレベルに行けるわけないんだよ。お前が何かやってないんならそれはバグってことになっちまうからな。」


「いやとくにお前と別れた後に何かしたってわけじゃないんだが………………………。なぁこの「気配察知」って外のフィールドにいる敵を倒す以外にレベル上げる方法ってあるのか?」


「上げる方法ねぇ…………………。とにかく敵意のあるやつとかと退治しているしかないんじゃねえのか……………というかそれを聞いてきたという事は何か思い当たる節があるのか?」




 俺は町の中でサクヤさんと決闘をしたこと(一応サクヤさんたちの名前を挙げることはしなかった)をつげると、ナオユキからそれだレベルを上げることになったのだろうと言われた。決闘もバトルに入るから経験値がはいったのではないかという事らしい。

 まぁ、確証がないので断定はできないが、これはこれで俺のスキルが上がる理由が分かったので良しとしよう。ナオユキは確証を得るために、攻略サイトの掲示板にこのことを書いて、ほかのプレイヤーからも意見を聞いて真意を探るらしいとのことだ。

 ちなみに確証は一週間たった今でもまだ出ていないらしい。




…………………。



…………………。



…………………。




 もう一種類の敵である餓鬼については、これの見た目は歴史の教科書に出てくる餓鬼とそっくりで、むしろそれをそのまま出したんじゃないのかというくらい似ていた。さすがに教科書の絵みたいにものすごいリアルではなく、ある程度はデフォルメされていたが、結構リアルな感じだった。

 手に小さなナイフみたいな短刀を持っていて、武器はそれだけなのだが、相手が刃物をもっているというのが、対人戦以外では初めて見る光景だったので前回のウサギと同様に俺は最初固まってしまった。


 今回は前のウサギの時のように物陰に隠れていなく、敵に見つかっていた状態だったので、体の硬直がとける間襲われないなんてことはなく、俺は固まっている間に餓鬼に近づかれ短刀で切られてしまった。

 

 もの凄く痛いというわけではなかったが、何かに切られてというのはかなりの恐怖感を持つもので、俺は自分がVRMMOの世界にいるということを忘れそうになってしまった。パニックになりそうな感じだったが、前の決闘の時よりは強くない痛みだったので、少しの間固まっていただけで動けるようになった。(その間ずっと餓鬼に切られていたので、俺の体力は三分の一くらい減っていた。)


 体が動くようになればあとはこっちのもので、それほど速くない餓鬼の攻撃を避けつつ、こっちが太刀で攻撃すると、敵はすぐに倒せた。どうやらあまり体力が多い敵ではないようで、落ち着いて対処すればそんなに難しい敵ではないみたいだ。最初にビビって動けなかったことが自分の情けなさが出てきてしまう。これはゲームの世界なので、そのことを頭の中に常に入れておけばそんなに恐怖で体が動けなくなることもなくなるはずだ。

 そう考えながら、一人立っていると、自分のメニュー画面にアイテムドロップの知らせがあった。開いてみるとドロップしていたのは「屑鉄」だった。どうやらさっきの餓鬼を倒した時に手に入れたものみたいだ。


 「屑鉄………低品質の鉄のさらに価値のないもの。単体では価値がなくただのゴミ同然。数を集めれば品質の低い鉄が出来るが、かなりの数を集めないと意味がない。」




…………………。




…………………。




 やっぱり最初の方で手に入るアイテムであるから、いいものではないのは分かっていたが、この説明を見ると何だか、テンションが下がってきてしまう。そんなに言わなくてもいいじゃないと思うような書き方なので、運営側に何かしらの悪意があるのかと思ってしまうが、そんなことはないだろうと思いながら取りあえず初めて手に入れた鉱物系のアイテムに少し気分を良くしながら俺は草原を歩いて出てくる敵を相手しながら、ひたすら自分の段位とスキルのレベル上げに勤しんでいた。









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