壱の町ー四
一日遅れですが、新年あけましておめでとうございます。
久々の投稿です。よろしくお願いします。
「私と勝負してくれないか?」
………………………。
………………………。
………………………。
「……………………はい?」
思わず変な声が出てきてしまったがこれはしょうがないと思う。だっていきなり初対面の人に勝負を申し込むなんてことを、目の前のサクヤさんがやってきたのだから。チラリとサクヤさんの横にいるリリンさんを見ると彼女もさすがに驚いたようでポカンとサクヤさんのことを見つめている。それを見て俺はリリンさんも聞いていなかったことなのだろうなぁとぼんやりと思う。
そんなことを考えていて俺が何も喋らないのを見てサクヤさんは俺が隣のリリンさんと同様に固まっていると思ったのか(実際、固まっていた。)、説明をし始めた。
「いきなりこんなことを言って申し訳ないのだけれども、私がどうしても確認したいことがあってね。それを確認したくてこんなことを君に言ったんだよ。」
「まぁ、別に勝負することに対してはそんなに嫌じゃないんですけど、理由って一体なんなんですか?」
俺がそう聞くとサクヤさんは少し顔を顰めてそれは言えないと言ってきた。そして理由も話せないことをすまないとも言ってきた。
………………さて、俺としてはさっきサクヤさんに言った通り勝負に関してはやらない理由もないので勝負を受けてもいいと思っている。ただ、疑問なのはサクヤさんが言う言えない理由と、俺みたいなまだ低レベルなプレイヤーと勝負するメリットがサクヤさんに存在するかどうかだ。まぁ何かしらの考えがあるから勝負を持ちかけてきたのだろうが、俺にはさっぱりだ。でもまぁ、やるだけやりますか。
「いいですよ。勝負しましょうか。」
「いいのか?言い出しといてなんだが正直言ってしまって君にメリットはないのだがそれでもいいのかい?」
「構いませんよ。それにメリットが全然ないわけじゃないですし。」
「そうか……………ありがとうミコト君。私のわがままに付き合ってくれて。」
そういってサクヤさんは俺に対して頭を下げてきた。別にまだ勝負をすると言っただけで、まだサクヤさんの理由を確認できたわけじゃないのでやめてくださいよ。というとサクヤさんはそれでもありがとうと言って俺に対して小さく笑った。その笑顔が小さいながらにとても綺麗で俺は思わず見とれてしまった。
俺がサクヤさんに見とれている間に今まで横で固まっていたリリンさんがサクヤさんに対して話始めた。
「いきなり何言ってんのサクヤちゃん!」
「リリンか、今言っただろう。私が確認したいことがあってそれにミコト君が付き合ってくれるんだ。話聞いていなかったのか?」
「聞いていたけど、いきなり勝負なんてホントいきなり過ぎるよ!!」
「確かにいきなりなのは認めるが、ミコト君はそれでも構わないと言ってくれた、勝負にも了承してくれたぞ。」
サクヤさんがそう言うとリリンさんは驚いたように俺を見た。どうやらさっきまで固まっていたせいで俺の返答を聞いていなかったようだ。そんなリリンさんに俺は苦笑しながらサクヤさんと勝負することを伝えた。
それを聞いたリリンさんは「二人がいいって言ってるなら………。」と不満そうに言いながらも俺たちが勝負することを認めてくれた。
ここで一応勝負、つまり決闘について説明しておこう。決闘は両者の同意があれば基本的にどこでも出来る。町の中でも外のフィールドでもである。決闘中は両者の中心から半径十メートルが決闘場となり両者以外の人は立ち入ることが出来ないし、このフィールド内ならば町の中に居ても相手を攻撃することが出来る。
また、このフィールドには決闘に邪魔が入り、勝負に集中できないということがないようにするためと、当事者以外の人が決闘している人たちの間に入ってけがをしないようにするための意味も含まれている。決闘当事者以外の人を攻撃したらそれはPK扱いになってしまうからやる人はまずいない(この時に俺たち以外に決闘をしている人たちがいるかはどうかは知らないが)。
そして決闘の内容はシンプルで、相手の体力ゲージをゼロにした方が勝ちというもの。この時、スキルの使用は当事者で使用可か使用不可のどちらかに決めることが出来る。
ちなみに今回はお互い使用可にして行うことにした。
以上が決闘についての基本的な内容で、これはプレイヤー一人一人のメニューのヘルプから見ることが出来る。
……………俺たちはほかのプレイヤーの邪魔にならないように、広場の隅の方に移動して向き合う。リリンさんは対峙している俺たちから少し離れたところで俺たちの様子を見ている。そして俺の前には武器を構えたサクヤさんがいる。サクヤさんの武器は槍だった。見た感じでは俺の野太刀と意匠が似偏っているのでサクヤさんも俺と同じ初期の装備なのかもしれない。だが、武器は同じランクのものかもしれないが、防具は俺とは違っていた。
俺は初期の「旅人の道着」一式だが、サクヤさんの方はほどんどが俺と同じような防具だが、一点だけ俺とは違っていた。俺は女性の「旅人の道着」がどんなのかはっきり見たわけではないが、大体が男性版と変わらないと思っている。そうすると目の前のサクヤさんも俺と同じような格好のはずだが、さっきも言ったように違う点がある。サクヤさんの上半身の装備が俺の道着の様なものではなく、道着の上にマントを羽織ったようなものになっていた。おそらくというか、推測の域を出ないが初期の道着を強化したものだろう。
そんなサクヤさんの装備を見て俺は顔を顰める。だって、ただでさえ攻撃力が低い初期の太刀でうまく相手に攻撃が通るか心配なのになのに、そのうえ相手は強化した防具を用意してきているのだから顔の一つでも顰めたくなる。勝てる望みは薄いが、せめていい勝負が出来たらいいなぁと思っていたから、サクヤさんの装備が強化されているのは少々というか、かなりの苦戦を強いられることになりそうだ。
俺が嫌な顔をしていたのをどう捉えたのかは知らないけれども、どうやらサクヤさんは俺が顔を顰めたのを、俺が、自分が不利だと感じたと思ったようで不敵な笑みを浮かべてきて話しかけてきた。
「なんだかあまり顔色がよくないようだけど大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫ですよ。」
「そうか、それならいいんだ。気分が悪くなったから決闘をやめるとか言い出したらどうしようかと思ったよ。」
「はははっ!そんな最低なことはしませんよ」
サクヤさんの問いに軽口で返しながら、俺は太刀を構える。それを見てサクヤさんも表情を引き締め槍を構える。武器を構えている俺たちの目の前に「決闘を開始します。よろしいですか?」というウィンドが現れる。俺はすぐに表示されている「是」の部分をタッチする。
サクヤさんの方を見ると彼女も同じようにタッチしたようで、ウィンドに「勝負を開始します。」とメッセージが現れてカウントが始まった。
カウントが終わる前に俺は一度深呼吸をする。これで緊張しているのが少しでも和らげばいいと思ってやってみたが、あまり気持ちは変わらなかった。だけど代わりに「やってやろう」という気持ちがわいてきた。
サクヤさんも同じような気持なのだろうか。それよりも彼女には何か確認したいことがあると言っていたから、それを確認することがこの決闘の一番の目的なのだから、あまり向上心とかはないのだろうか。
…………………。
…………………。
俺が色々な事を考えているうちに目の前のウィンドのカウントはゼロになり、決闘が開始された。
最初俺は自分から突っ込むことはせず、相手の様子見から始める。理由としては自分から格上の相手に突っ込んで攻撃を食らうよりは様子見から入った方がいいと思ったからだ。
俺の様子見の姿勢に気づいたかは知らないが、サクヤさんは俺が攻撃してこないとわかると彼女な方から仕掛けてきた。槍を構えて一直線に突っ込んでくる。その姿勢は今日がゲーム開始初日で、全員が等しく初めてプレイするというのに、ブレルことなく俺に向かってくる。(いくらかはシステムの補正とかもあるもかもしれないが、それでも明らかに初心者の動きではなかった。)
そして、活き良い良く突き出された槍を俺は横に転がりながら回避する。格好よくスレスレで回避するのが出来たら良かったが、そんな余裕はなかった。俺にはほとんど槍の動きが見えなかった。かろうじて槍を突き出そうとしているサクヤさんの腕の最初の動きが見えた程度で、それを頼りに勘で避けたが次成功するかは分からない。
また、スキルの「気配察知」も使用している。なんとなくで完全ではないが、サクヤさんの攻撃が分かるのでそれを頼りに攻撃を何とか回避する。
俺が最初の攻撃を避けたことにサクヤさんは少し驚いたように目を開いた。そして面白いというかのように笑うと攻撃を再開してきた。右、左、首元、足、頭と最初の一撃と変わらない速度の攻撃が何度も繰り出されている中で、何発か攻撃を食らいながらも俺は何度か耐えていた。相変わらずサクヤさんの攻撃を完全に見切ることは出来ないが、それでも動きを頼りに必死に避ける。
しばらくサクヤさんの攻撃が続いたが、連続して攻撃したので疲れたのか、動きが荒くなってきたので、隙を見て攻撃を回避してそのまま一度彼女から大きく距離をとる。距離をとって改めてサクヤさんを見てみると、肩で息をしてきた。やはり彼女は連続した攻撃で息が上がって居たのだ。この機を利用して俺は一気にサクヤさんに詰め寄って太刀を振り下ろす。そしてサクヤさんに反撃に転じる隙を与えないように連続して攻撃する。さっきとは攻守が逆転した形だ。
彼女は俺より確実に上位のプレイヤーなので、一瞬でも隙を与えないように攻撃をコンパクトに続ける。俺の攻撃はほとんど防がれているが、それでも何発かはかすったりを少しずつダメージを与えている。サクヤさんも俺の攻撃に反撃するタイミングが無いのか(そうであると思いたい。)、少し顔を顰めながら俺の攻撃に耐えている。
だが、俺も連続しての攻撃は疲れるので、疲れる前に一度大きい攻撃をした後に距離をとっておきたいので、太刀を振りかぶってサクヤさんの槍と鍔迫り合いの状態に持ち込む。サクヤさんは俺の行動に不意を突かれたのか、少し体制が不安定な状態で俺と鍔迫り合いの状態になる。
サクヤさんの体制が不安定なこのタイミングで、俺は鍔迫り合いの状態から一気に身を引く。この時に剣道で言う「引き胴」を使って攻撃する。この攻撃がうまく入ってくれたようで、サクヤさんの体力を半分近くまで削ることが出来た。距離をとってお互い構えていると、サクヤさんが少し笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「すごいねミコト君。まさかここまでとは思っていなかったよ。」
サクヤさんは自分が体力的には不利な状況にあるにも拘らず、笑いながら話を続ける。
「正直な話、私は最初の攻撃で終わってしまうと思っていたんだ。」
「それは随分と弱いと思われていましたね、俺。」
「そうだね。ミコト君はあまり強いとは思っていなかったよ。だけど蓋を開けてみればここまで勝負が続いているし、しかも私の方が不利な状況にあるんだ。これはうれしい誤算だよ。」
そういうサクヤさんは本当にうれしそうに話していた。そして、俺に今回の勝負を受けてくれてありがとうともう一度お礼を言うと武器を構えた。
どうやらお話はここまでのようで、決闘が再開するようだ。俺も太刀を構えてサクヤさんの動きに注目する。
サクヤさんは少し目を瞑った後に一気に俺に詰めてきた。その速さはさっきよりも早く俺は反応が少し遅れてしまった。あわてて体を逸らすとわき腹に槍が刺さり、痛みと供に体力がガクンと半分近くなくなる。
痛みのせいで俺の反応が遅れるとサクヤさんはこの時とばかりの勢いで攻撃してくる。痛みを我慢して攻撃をかわそうとするが、うまく回避できず、あっという間に体力がなくなってしまう。VRMMOだが感覚がここまでしっかりしているという事に驚きを感じる。
俺が痛みを引きずっているのをどうやらサクヤさんは知ったようで、一度距離をとり俺に話しかけてくる。
「さっきの攻撃が効いているようだね。君の降参で終わりにするかい?」
「まさか、ここまで来てそんな終わりは嫌ですよ。それに俺の体力はまだありますからね。」
俺がそう返すとサクヤさんはそうだねと頷いて構える。それを見て俺はこれが最後の一撃になるだろうなぁと思いながら構える。最後だからここはスキルを使用しようと思い、頭の中で「幹竹」と呟き走り出す。サクヤさんも同時に走りだし、俺達はぶつかる瞬間にお互い攻撃を放つ。そしてお互い放った瞬間俺は体に複数の衝撃を受けて吹っ飛ばされ、体力がゼロになって俺の負けが確定した。
こうして俺の初めての対人戦は負けという形で終わった。