壱の町ー草原
四話目です。感想・ご指摘お待ちしています。
―二時間後―
あの後食事を済ませ、それ以外にやることを済ませた俺は、再びベッドに横になり「夢枕」を装着していた。もう一度ログインするためにゲームを起動する。ログインしますかというシステムの案内メッセージに対して「はい」のアイコンを選択して音声案内に従って進んでいき、やがて視界が暗くなっていって完全に目の前が暗くなる。
目を開けると、目の前は広場の前だった。無事にログインしたことに安堵した。さっきログアウトしたときもそうだったが、この目を閉じて次には世界が変わっているというのにまだ慣れない。だがまぁ、いずれ慣れるだろう…………………。
さて、中尾の奴はどこにいるかな。一応さっき二時間後と電話で話したから今回はちゃんと会えるだろう。俺はそう考えながら広場を回り始める。この広場はそこそこ広いのでアイツが反対側にいる可能性もあるので回って確かめてみる。
広場には人の姿はあまりない。まぁ初日であるから混むのを嫌ったプレイヤーがいるのかもしれないし、または既に外に出て戦闘をしている人もいるのだろう。そのためここにはあまり人がいないのではないだろうか。
でも、その少ない人を見ていると中々にカラフルな髪をしている。金髪や赤、青は当たり前で、中にはピンクがいたりと実に目に悪い派手な色だ。まぁ、俺は初期設定からいじっていないから黒のままなのだが。逆に俺みたいな色の髪の方が目立ってしまう。でも髪の色を変えていないだけで他人からちらちら見られているだけなので、特に気にはしていないし、なにかいざこざに巻き込まれていないから、問題はない。
つーかむしろ早く中尾を探さないと、また何回も広場を回る羽目になるからさっさと見つけよう。
…………………。
…………………。
…………………。
―三十分後―
俺は広場の前でやっと中尾と対面していた。なんでこんなに時間がかかったかと言えば、ただ単にこいつが時間を忘れていて遅れてログインしてきただけだ。俺が何週目かわからない広場周回を終えたときに目の前に光とともにこいつが現れた。そして俺を見つけると何の悪気も見せず気軽に「よう。」と言いつつ寄ってきやがった。そんな奴に対して無言で顔面に拳をめり込ませた俺は悪くはないと思う。
ちなみにこのゲームは町の中では他人を攻撃することはできない。相手の体に当たる瞬間に見えない壁で防がれてしまう。何でも町の中でのPKを防止するためらしい。まぁ、PKは町以外でも禁止されているし、実行不可能なんだが。だから俺の攻撃も中尾には当たっていないが、ビビらせることくらいは出来たはずだ。
案の定中尾はビビって少し後ろに下がっていたし、顔が引きつっていたから、まぁ良しとしよう。
「出会い頭に顔面を殴るとは随分なご挨拶だな。」
「やかましい。時間に遅れてきた奴が何を言う。実際に殴っていないだけマシだろ。」
そうなんだけどさぁとぼやく中尾を無視して、俺はコイツの姿をよく見てみる。今の中尾の格好は俺の野武士の初期装備の様なものではなく、普通の袴に袖なし着物に陣羽織という出で立ちだ。なんだか俺とは随分違う格好だ。
「お前のその格好はどうしたんだよ、それにお前の名前って何?」
「俺の名前か?…………………言ってなかったっけ?」
「ああ、聞いてない。つーかこのゲームで会うのが初めてだろうが。」
「そう言えばそうだったな。俺の名前はナオユキだ。あと、これ俺のカードな、渡しておく。んで、格好が違うのは初期装備から変えて違う装備にしたからな。」
そういう中尾、ナオユキからカードを貰い中身を確認してみる。名前はナオユキ、職業は俺と同じで野武士、階級は俺とは違って5。昨日のうちにあげたのだろう。そしてコイツの背負っているでかい斧からして、コイツの武器は斧だろう。斧について少し気になったので疑問を聞いてみる。
「斧って使いやすいのか?」
「人によってだろうな。少なくとも俺は一振りで敵を倒せる、出来なくてもスタン状態に出来る確率がある斧は気に入ってるぜ。」
斧を掲げながらさわやかな笑顔を見せるコイツを無視して俺はさらに質問を続ける。
「俺さ、まだモンスターと戦ってないんだけど、どうすりゃうまく戦える。」
「えっ?!お前まだ外に出てないのかよ!昨日一日何してたんだよ?」
驚くナオユキに俺の昨日の出来事を伝えるとナオユキは呆れながら
「どんな初心者だって最初はレベル上げに外に行くのにお前は町散策かよ。それで、散策して何か面白いものは見つかったか?」
若干俺を馬鹿にしている気がするナオユキに少しイラつきを感じながらも(ここは我慢だ)、俺は散策途中で見つけた神社のクエストの話をする。それを聞いたナオユキは思いっ切り笑ってきたので、もう一回顔面を殴って(やっぱり寸前で壁に止められたが)黙らせる。それでもコイツは少し笑っているのでもう無視して話を先に進める。
「んで、さっきの話だが、」
「バトルのことだろ。なら、俺と一緒に外出て少しやってみるか?」
「お前が構わないならぜひ頼みたい。」
「構わないぜ。俺だってまだ一人じゃ危ない部分があるからな、頭数が増えるなら大歓迎だ。」
そんなわけで俺とナオユキは外にでてバトルをすることになった。回復薬とか持ってるかとナオユキが聞いてきたので、昨日買ったと答えると奴は苦笑いしつつ買ったのならなんで外行かないんだよ。と言いつつもなら行こうぜと俺に先立って歩いていく。当然それに俺もついていき、俺たちは町の外に向かった。
………………
………………
………………
町の外は一言で言うならただの草原だった。途中にまばらに木が生えているが見渡す限りに草が生えている。草の高さはまちまちで、短いのは足首に満たないし、長いのは胸の高さまである。だが、全体を通して現実と遜色ない鮮やかさに俺は改めてVR技術の凄さに感心してしまう。
「何固まってんだよ。早く行くぞ。」
ナオユキの言葉で気持ちを切り替え先に歩いていく。歩きながら思ったのだが、この中からどうやって敵を見つけるのだろうと思う。このことを隣のナオユキに聞いてみるとナオユキはメニュー画面を開きながら答えた。
「メニューの中からステータスを出して、そんなかのスキル一覧を見てみ。その中に『気配察知』ってのがあるだろ。それで敵が来るかが分かるんだよ。」
確かにナオユキの言うとおりスキルの中には『気配察知』があった。
スキルの説明欄には「自分に対して敵対の意思を持つものが近づいてきた時に、それを感じることが出来るスキル。使用していきごとにレベルが上がり、察知できる範囲も広がっていく。ただし、自分より段位が高い敵には効果が薄い。また、相手が隠密系スキルを所持していた場合、相手のスキルよりレベルが高くなければ効果を発揮しない。」とある。また、ナオユキ曰く、最初のうちは何か来たなというくらいにしか感じないらしい。
なんてナオユキに『気配察知』について話を聞いていたら、さっそくなんか前の方から、何か来るような感じがした。ナオユキの方をちらりと見るとアイツは俺の方を見て軽く頷き、背中の斧を抜き構えた。それを見てこれが『気配察知』かと思いながら、俺も背中の野太刀を構える。
俺が野太刀を構えた瞬間、目の前の茂みから、犬っぽいやつが飛び出してきた。犬の上には野犬・段位5と名前の下に緑色の横棒が表示されていた。この表示について俺は何なのかナオユキに聞こうとしたが、俺が聞くより早く奴が答えていた。
「犬の上に見えているのは犬の簡易ステータスに体力ゲージだ。そしてそれを俺らが見れるのは『認識』のスキルの効果だ。」
「気配察知と認識と言い、随分と安直な名前だな。」
「まあそれは否定しないが、わかりやすくていいだろ。」
「まぁな、んでこれからどうすりゃいいんだ?」
「今から俺が戦うから、お前はそれ見とけ。」
そう言いながらナオユキは走りだし、野犬との距離を詰め先制パンチとばかりに斧を活きよい良く振り下ろす。野犬は紙一重のタイミングで避けたように見えたが、上の体力ゲージを見てみると、五分の一程度減っていた。どうやらよける寸前にナオユキの攻撃がかすっていたらしい。
そして仕返しとばかりに野犬が突っ込んでくるのを、横に転がって避けたナオユキはすぐに立ち上がって野犬の横っ腹に活きよい良く斧をたたきつけた。すると、野犬のゲージが活きよい良く減っていきゼロになった。すると野犬の体が光に包まれて無くなった。どうやらこれで終了のようだ。
「お疲れ。今みたいな感じでやればいいのか?」
「まあな、でも俺は斧使ってるからな。お前の太刀とは勝手が違うぜ。」
「それはそうだがな。まぁお前のおかげでバトルがどんなものなのかは分かったさ。」
「なら、良かったぜ。次はお前が実際にやって………………丁度いいタイミングだな。近くに一体居るぜ。」
ナオユキの指摘に辺りに対して意識を広げると確かに何かが近く、俺の横の茂みの中にいるのが分かる。俺が茂みに体を向け、太刀を構えると茂みから出てきたのは野犬・段位6だった。
「6か………。まあお前でも大丈夫だろ。一回戦ってみろよ。」
ナオユキの話が終わるか終らないうちに俺は野犬に向かって走り出していた。向かってくる俺に対して野犬も俺を敵と見なしたのか、突っ込んでくる。ぶつかる直前に俺は横によけつつ、太刀を振ると手に若干の手ごたえがあった。振り返ると、体力ゲージが少し減っていた。野犬は傷付けられたことで切れたらしく、俺に向かって再度突っ込んできた。俺はもう一度横によけて攻撃しつつ、その攻撃の反動を利用して野犬の背後に近づいて、がら空きの野犬の背中に上段から振りかぶった太刀を思い切りたたきつけた。それだけでは足りないと思って野犬がこっちを向くまで何回か太刀で切り付けていると、野犬が光に包まれていった。
いつの間にか倒していたようだ。倒し終わると同時に頭の中に電子音が響いて目の前に段位が上がりましたというメッセージが流れた。そのあとに新たなスキルを獲得しました。というメッセージが流れた。それを見ていた俺の後ろにいつの間にかナオユキが立っており、俺に声をかけてきた。
「一人で倒せたようだな。つーかさっきの倒し方は何だよ。」
「なんだ?なんかいけないことでもしたのか?」
「最後の連撃、とてもじゃないが初心者の動きじゃなかったぞ。」
「そうかい、俺としちゃ夢中で太刀を振っていたんだがな。」
ナオユキと話をしつつ、新しいスキルを確認すると、三つ新しいのがあった。
・幹竹(割)Lv1…上段から振りかぶる攻撃。基本的だが極めると威力は絶大・
・横薙ぎLv1…横に水平に剣をふるう。使いこなせば攻撃なども切れる。
・連閃Lv1…刀で複数回敵を攻撃する。回数はレベルが上がると増える。
こんなのが新しいスキルだった。これをナオユキニ見せたら「最初で三つも手に入るなんて運がいいな」と言われた。どうやらスキルというのは、敵と戦ったり何かしらの上限を満たすと手に入るらしい。今回は俺が最後に野犬を切りまくったから、こんなに手に入ったらしい。
さて、これからどうするかな。ナオユキに聞いてみるとコイツはこの後ほかの知り合いと用事があるらしいので、町に戻るとのこと。
「俺は町に戻るがお前はどうする?」
「そうだなぁ、段位がもう少し上がるまでここで戦ってるかな。」
「そうか、んじゃ気を付けてやれよ。」
「おう、今日はサンキュな」
「気を付けろよ」と言いつつ手を振りながら町の方に戻っていくナオユキを見送った後、俺は辺りの気配を探り始めた。
すると右の方に何かが複数いる感じがしたのでそっちに行くと、案の定野犬が三匹、段位3が二匹に段位5が一匹いた。奴らは俺を見つけると一斉に襲いかかってきたので、横に転がって回避した後、がら空きの背中に二回ほど斬りつけ距離をとる。そしてもう一度とばかりにとびかかってきた一匹に、幹竹と呟きスキルを発動して、野犬を切り倒した。倒した後すぐに残りの二匹が来たので、回避しつつ連閃を発動して切り伏せ、二匹も倒す。
倒したら段位が上がったこれで早くも段位は三になった。これならすぐに上がるかなと思って俺は次の相手を探して、草原をうろつき始めた。