犬耳忍びと狐の誘いと着替え
感想等ありましたら、よろしくお願いします。
「なんでこんな耳とか尻尾とかついてんのよ!?」
隣でクノエさんがさっきからずっと騒いでいる。
ドロップした装備を付けた途端こうなった訳だが、彼女はそれが嫌らしく外そうと何回も試みているがすべて失敗している。
傍から見れば決して似合っていないと言うわけでは無く、むしろ気の強そうな彼女に犬耳という事で非常に似合っていると言う感想を持つ。
まぁそれを言ったら怒られるのは必定なので言う事はしないが。
「うーむ、頭がまだクラクラするのぉ。これクノエ、大きな声を出し過ぎじゃ」
クノエさんの絶叫でひっくり返っていた狐がゆっくりと起き上がる。
狐の言葉通りまだキツいのだろう、頭を軽く振りながらしかめっ面をしている。
「あぁもう!何回やっても外れないじゃない!!」
肝心のクノエさんは狐の声が聞こえていないようでまだ混乱している。いい加減少し落ち着かせないといけない。
「あのさ、クノエさん」
「何!!」
声を掛ければものすごい形相で此方を見てくる。その迫力に少し体を引いてしまう。そんな顔をしなければいいのに。
黙っていればクールビューティーなのに勿体ない。とは口が掛けても言えない。
「クノエさんがその装備でテンパっているのは分かるけど、俺も同じだよ」
「はぁ?いったい何が同じなのよ」
訝し気に見てくる彼女を落ち着かせながら続ける。
「俺のこの刀だって装備状態から解除できないし」
「……ホント?」
「本当だって」
信じていないクノエさんの目の前で画面を開きながら装備の場所から実行して見せる。解除しますかと言う選択を押して実際に解除されない事をクノエさんに確認させる。
「ほらね、エラーが起きるでしょ?」
「……普通に解除されてるわよ」
「……え?」
自信たっぷりに言ったら若干怒気を孕んだ声が聞こえてきた。急いで自分の装備を見て見ると確かに外れていた。
「なんで!?」
「こっちが聞きたいわ!!」
お怒りの声を共に一発もらう。
それほど痛いものではなかったが、それよりも今まで外れなかったこの刀がどうして外れたのか。そっちの疑問の方が気になって痛みに気が回らなかった。
「何なのよ!あたしに見せつけようってわけ!?」
クノエさんに対しては火に油を注ぐ結果になってしまった。さっきからお怒りの声が聞こえる。
宥めようと声を掛けても「嘘つきは黙ってろ!」の一言で黙らせられてしまう。これじゃあ埒が明かない。
「二人共いい加減にせんか!!」
いきなりの狐の大声で二人同時に狐の方を向く。耳をピンと立て怒っていますと言う感じがあふれている狐が腕を組んで睨んでいた。
その眼力ですっかり大人しくなった俺達を見て狐が口を開く。
「全く、二人共喧しいわ。落ち着いて料理を口にすることも出来ん」
直前までひっくり返っていましたからね。なんて言えないが、黙って聞くことにする。
狐は何か言いたそうにチラリと此方を見たが何か言う事はなく、クノエさんの方を向いて話始める。
「クノエよ、いきなりの事で驚くのは分からんでもないが、お主は騒ぎ過ぎじゃ」
「だ、だってこんな耳が生えたら、しかも解除出来ないなんて」
シュンとした様子で狐に向かって謝っているクノエさん。しかし、謝った後にすぐに此方を向いてくる。
「それに、コイツ!自分も出来ないとか言っておきながら普通に解除して。何なのよ!!」
クノエさんが指摘するのは勿論この刀の事だろう。しかしこれは俺も混乱している。最初の時は解除出来ないとメッセージが出てきたのに、今になって解除できると言うのはどういう事なのだろう。
「あーその事じゃが、おそらく妾が原因じゃろう」
狐がどこか申し訳なさそうに頭を掻きながら言ってくる。クノエさんと俺は言っている意味がよく分からず首を傾げる。
「確かにミコトの刀は解除できない状態の装備で、それは浄化しても変わることは無い」
「なら、なんで?」
「じゃから妾のせいじゃと言っておろう」
自分で注いだ酒で喉を潤してから狐は続ける。
「先程も言ったがお主の刀を浄化する時に妾の力を入れた」
「あぁ、言っていたな」
「……恐らく妾の力が刀の呪力を上回り呪いを打ち消したのだろう」
言っている狐も自信が無いのか首を傾げながらの答えだが、妙に納得できる。
「じゃ、じゃあ!」
「ん?」
隣のクノエさんが身を乗り出して狐に話しかける。
「あたしのこの装備もそうすれば外せる!?」
「うーむ。まぁ可能は可能じゃろうな」
狐の返答はどことなく歯切れが悪い。
「ミコトの場合は妾の力を渡すまでに色々と付き合いがあるが、クノエとは今日からの付き合いじゃしな。関係が薄いとあまり力を譲渡出来ぬ」
「そ、そんな」
身を乗り出していたクノエさんがガックリと肩を落とす。ついでに頭の上の犬耳もシュンとしていた。
「まぁ、話は最後まで聞けクノエよ」
「はい?」
顔を上げたクノエさんの覗き込みながら狐は嬉しそうな、悪戯を考え付いたような笑みを見せた。
「さっきも言ったが、今の妾はお主との関係が薄い」
「えぇ」
「なら早い話関係を密にすれば良いのじゃ」
「「あ」」
狐の言う事は最もだが、その事に俺もクノエさんも考え付かなかった様で同時に声を出していた。
俺達の反応を満足そうに眺める狐は満足そうに笑っている。
「でも、関係を密にするって言ったってどうやってすれば……」
質問するクノエさんの声はどこか不安げだ。
「安心せよ。妾に案がある」
「案?」
首を傾げるクノエさんに狐が身を乗り出してくる
「クノエよ。妾の元で働かぬか?」
「へ?」
狐の提案に気の抜けた声を出すクノエさん。きっと彼女の考えていた提案とはあまりにも違って拍子抜けしたのだろう。
「狐さんの元で働くって具体的にはどういった感じなの?」
「基本的にはお主も見た巫女と同じ事をやってもらう」
「どれくらいの期間?」
「まぁ、妾が問題なくその装備を外せると確信するまでじゃから、具体的な期間は言えんの」
「泊まり込み?」
「別に町に戻っても構わぬ。じゃが、その恰好をほかのプレイヤーに見られるのを気にしなければな」
「……泊まり込みにしてください」
隣でドンドンと話が進んでいく。と言うか俺の刀に狐がそんな事をしていたとはさっき聞いたばかりだが、驚いたしありがたい事だ。
「さて、クノエにはここで働くにあたって着替えてもらわねばな」
「……このままの姿じゃ駄目?」
「当然じゃ。ここは神社じゃぞ、それなりに格好になってもらわねば」
当たり前と言った顔で話す狐に渋々頷くクノエさん。狐が手を叩くと襖が開いて巫女さんが箱を持って入ってきた。
ずっと待機していたわけでは無く、さっき手を叩いて呼び出したのだろう。
いきなり巫女さんが来たのでクノエさんは驚いた顔をしている。まぁ俺も最初そうだったから今の気持ちが分からんでもない。
「ほれ、それがクノエが着る服じゃ」
「……やっぱり巫女服かぁ」
「何じゃ、不満か?」
狐の問いに「そうじゃないけど」と言いながらクノエさんは首を振る。
「不満が無いなら一度来て見せてくれんか?」
「えぇ!ここで!?」
当然とばかりに頷く狐を正気かと言う具合に凝視するクノエさん。
まぁいきなりここで着ろと言われればそういう反応だろうなぁ。
「別に問題は無かろう。現実の様に着替えるわけではないじゃろ?」
「それはそうだけど」
「それにミコトも見たいじゃろ、クノエの巫女姿?」
「なんで俺!?」
関係ない話題だと思っていたらいきなり狐から飛んできた。
いきなりで反応に困る。それに聞かれた質問が質問だ。
隣のクノエさんは「見たいと言ったらぶん殴る」と言っているし、正面の狐はニヤニヤしながら俺の答えを待っている。どう答えるのが正解なのか……。
「……そうだな、俺も見て見たい」
「何言ってんのよアンタはぁ!!」
自分の気持ちに正直に答えたらクノエさんに後頭部を殴られる。
ついでに、正面の狐からは大笑いされた。
「ククク、さてクノエよミコトもこう言っているのじゃ。大人しく着替えるのが筋ではないのか?」
「こ、これで笑ったらタダじゃすまないからね!!」
赤面しながら画面を操作して着替えるクノエさん。一瞬光が身を包み、収まる。
クノエさんが立って着替えたので座っている自分の目の前には彼女の太ももが目に入るが見ていたら失礼だと思ったので目線を上げて上から見る。
まず目に入る犬耳、少しばかりピクピクと動いてどこか緊張している様だ。
次に顔に目が行く。こっちを見ているクノエさんは「なっ何よ?」とつっけんどんに聞いてくるが、顔が赤いのでそんなに怖くはない。
目線を下げて上半身は全く汚れていない白衣が見えてくる。襟から覗く下に来ている赤い伊達襟がアクセントだ。
更に目線を移動して最後はしわ一つない足首まで覆う緋袴だが、下まで目を動かせば最後まで続くはずの緋色が途中から肌色に変わっている。
「あれ?」
思わず声が出てしまったが、そのまま視線を上るとクノエさんと視線がぶつかる。
俺を見ていたクノエさんも自分の袴が可笑しい事に気付いた様でみるみる顔が赤くなっていく。
ちょっとヤバそうだと思い宥めようと口を開く。
「ク、クノエさん。これって……
「見るなぁっぁぁあぁあぁぁぁ!!」
そばぁぁ!!」
言い切る前に横っ面を衝撃が襲う。
狐とは反対方向に飛ばされながらチラリと見えたのは足を振り切った状態のクノエさんと「おー」と感心したような声を出す狐。
「ブハッ!」
特に姿勢を整える事もしなかったのでそのまま襖にぶつかる。
ぶつかった事よりもクノエさんに蹴られた場所の方が痛いが、痛みを押さえて二人の方を向くとまだ顔が赤いクノエさんが袴の裾を手で押さえながら此方を見てくる。
その後ろの狐は首を傾げていたが、すぐに納得したと言う顔をして手を打つ。
「スマン。渡す服を間違えた」
「アンタ(お前)のせいかぁ!!」
俺とクノエさんの返しが同時に響いた。