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狐と刀と装備の話


「さぁ、支度は出来た。飲み食いしながら話をしようではないか」



 手を広げて胸を張って言う狐の言葉通り、俺達三人の前にはこの前と同じような上げ膳の料理が置かれていた。

一度食べたことのある俺は今回の料理を楽しみにしているのだが、隣のクノエさんは初めての事なので目の前の料理を不思議そうに見ている。



「クノエはここの飯を食うのは初めてじゃな。安心せい、変なものは入っていないぞ」

「えぇ!?別にあたしはそんなこと考えていませんよ」



 慌てたように返事をするクノエさんを笑いながら見ている狐の膳の脇にはすでに徳利が置かれている。どうやら今回は最初から飲むみたいだ。



「それでは、頂くとしようかの」



狐に続いて箸を取って口に含む。相変わらず見た目の美しさと美味しさ、隣のクノエさんも驚いて目を開いている。


 そのリアクションを見て狐は満足そうに酒を飲む。



「ここの巫女らの料理は中々じゃろ?」

「えぇ、前の町で食べたご飯より美味しい」



 クノエさんの言葉に狐は満足そうに頷いて、俺に徳利を伸ばしてくる。



「……なんだ、俺がやるのか?」

「うむ。この前のように隣でお酌しても良いぞ」

「別に対面でも出来るからいいだろ」



 此方の返答に狐はニヤニヤしながら「まぁ、今はそれで良いか」と言う。



「してミコトよ、今回の主はどうじゃった?前の主より楽じゃったか?」

「そうだな、前は三回も挑戦したから大変だったけど、今回は一回で倒せたから断然今回の方が楽だ」

「何アンタ、あの一の主にそんなにかかったの?だからあの時にバカなのって言ったじゃない」



 クノエさんが呆れたように言ってくるが、ただの主だったわけでは無いので彼女の反応には納得がいかない。



「まぁ、待てクノエよ。ミコトが戦った壱の主はお主が戦った主ではないぞ」「え?どゆこと?」



 狐の指摘にクノエさんは首を傾げる。自分で言おうと思っていたが、狐が言ってくれそうなので黙っていることにする。



「こやつは稀主と戦ったのじゃ」

「稀主?」

「分かりやすく言えば、レアボスじゃな」

「まだ壱の主なのにもうレアボスが出たの?」



 クノエさんが驚いたように言うが、出たのは事実だし、それを倒したもの事実だ。



「まぁ、稀主は一応どこの主戦でも出てくる様にはなっておるからの。しかし、それを一発で引き当てたのは運が良いのか悪いのか分からんの」



 狐は可笑しそうに笑うが、俺としては三回挑戦してやっと倒すことの出来た敵であって、とてもじゃないが、笑えるものではない。



「へぇーそんな主がいたのね。ソイツから何かドロップした?」

「この刀かな」



 興味津々と言った感じでクノエさんが聞いてくるので、脇に置いてあった刀を見せる。


 普通ゲームなら武器は装備すれば必ず体に触れているが、この場所では腰から抜いて脇に置いていても勝手にボックス内に行くこともない。

 刀を鑑賞状態に切り替えてクノエさんに渡す。鑑賞状態にすることで勝手に持っていかれることも、室内で攻撃されることもない。



「へぇー結構格好いいじゃない。それに…………って攻撃力高くないこれ!?」



 じっくりと見ていたクノエさんが能力の欄に目を向けた途端、大声を出す。


 いきなりの事でびっくりしたのかお猪口で酒を飲んでいた途中だった狐は「ブホッ」と変な声を出しながら咽ていた。



「それってそんなに強いのか?」

「そうよ、アンタ自分の持っている初期装備の刀と比べて見なさいよ」



 咽ている狐の隣に行って背中をさすりながら質問すると、すぐにクノエさんから返ってくる。



「でも、俺初期装備の刀は稀主戦で折れちゃったんだよな」

「はぁ?折れるって耐久度が無くなったって事?どんだけ稀主強いのよ」



 そう言いながらクノエさんは刀を返してくる。受け取って自分の席に戻りながら狐を見ると、まだ若干苦しそうにしていたが、料理をパクついている辺りもう大丈夫だろう。



「まぁ、初期装備と言うのは大抵大したことのないものじゃからの。少し強い敵に当たったら壊れるのは仕方がないものよ」

「そうは言うけどさ。そもそも稀主ってどういう存在なの?さっきイメージはレアボスっで聞いたけど、もっと具体的に言うとさ」



 クノエさんの質問に狐は少し考えるように顎に手を当てて考える。



「稀主は基本的には戦う場所よりも先のエリアにしか出てこない主なのに例外的に表れた奴の事を指すのじゃ」

「それじゃあ、今ミコトが持っている刀もいずれは平均的な攻撃力の武器になるって事?」

「まぁ、そう言う事じゃ」



 へぇーと納得したように呟いたクノエさんの横で俺も今まで疑問に思っていた事が解決してスッキリした。



「先のエリアの主が来るって事はこれから先も可能性はある訳ね」

「まぁ、確率は決して高いとは言えないがの」



 その低い確率を引いた俺はどうなのだろうか。クノエさんの質問に答えた狐はもうこの話は終わりとばかりに手を叩き、身を乗り出して此方を見てきた。



「それより、弐の主はどうじゃった?妾が倒しに行けと言ったからの。気になっているのじゃ」



 目を輝かせて聞いてくる狐だが、別にどうだったと言われても特に話が出来るわけでもないのだが。


 隣のクノエさんを見ると彼女も此方を見ていて、どうやって話そうかと考えている表情だった。



「何じゃ、そんなに話すのに困ることでもあったのか?」

「そういう訳じゃないけど、なんて言うか、話すことが無さすぎな気がして」



 狐の問いにそう答えると隣でクノエさんも頷く。



「何じゃつまらん。二人で協力して倒したのじゃろ?ならせめてどうやって倒した位は話せるじゃろ」



 狐の言葉に顔を見合わせて考える。



「どうやってか…………クノエさんが隠れている間に俺が注意を引いて二人で合わせて同時攻撃で主を倒した?」

「そうね、大体そんな感じだったわね」



 それを聞いた狐は一つ息を吐き、酒を注ぎながら話す。



「まぁ、特別苦戦したり、面白く戦ったわけでは無いみたいじゃのう」

「面白いって何よ……」



 クノエさんが呆れたように言う。


 その言葉には俺も賛成だ。面白く戦うって別に見ている人もいないのにする必要があるのか。



「ちょっと待ちなさい。その言い方だと人の目があったらやるみたいに聞こえるんだけど」



 何のことかさっぱりだ。



「まぁ、ミコトにとっては壱の主が強烈すぎたのかもしれぬの」

「いや、狐さん。別にあたしが言いたいことはそうではなくて……」



 なんて言えば良いのかなぁと頬をかきながらクノエさんが呟いているが、諦めたのか料理に口を付けて「美味しい」と言っていた。



「まぁ、お主らにとっては簡単すぎたのかもしれぬのぉ」

「言っても一人じゃ面倒臭い事もあったかもしれないけどな」

「そうね、二人いて丁度良かったわね」

「おおぅ、二人共仲が良いの」

「べっ別に良いってわけじゃ……」



 クノエさんがすぐに否定するが「愛いのぉ」と狐に言われ赤くなって黙ってしまった。その姿を見てお猪口を傾けながら今度はこっちを向いた。



「そう言えば妾が渡した刀はどうじゃった。使いやすかったか?」

「ああ、それならt「そうよ!あたしの刀!!」……」



 話そうとしたら横からクノエさんが突然大声を出した。いきなりで何を言おうとしたのか忘れてしまったし、目の前の狐は飲みかけていた酒を噴き出していた。これで二回目だ。



「ケホッ……なんじゃクノエ、いきなり大きな声を出して」

「コイツ!あたしの刀折ったんですよ!」

「……どういう事じゃ?」



 俺を指さして言うクノエさんを見た後にジッと見てくる狐。静かな調子で言ってくるのが何時もと違ってちょっと怖い。



「さっき弐の主をどうやって倒したか話しただろ」

「うむ」

「その同時攻撃が二人ですれ違うようにして主に攻撃したんだけど、その時に俺の刀がクノエさんの刀も同時に斬っちゃったんだ」

「何と……それは」



 驚いたように耳をパタパタさせ呟く狐。その反応から見て予想外の事だったのだろう。



「いやはや、稀主から手に入れた武器に妾も少し手を加えたがまさか味方の武器を折るほどになっていようとは、少しやりすぎたかの」

「ん?今手を加えたって……」



 気になった部分があったので反省しているらしい狐に質問する。



「ん、気になった部分でもあったか?」

「今、手を加えたって言ったけど、どういう事だ?」

「どうもこうもそのままの意味じゃ。せっかく苦労して稀主を倒したお主に今までの参拝の礼を込めて妾も力の一部をあの刀に入れてやった」



 狐は何でもない事の様に言うが、もらった刀にそんな力が入っていたなんて驚きだ。



「まぁ妾の社の中で清めたのじゃから力が少し入るのは当然じゃが、そこに少し手を加えただけじゃ」

「凄いわねミコト。アンタよっぽど狐さんに気に入られているのね」



 隣でクノエさんが話しかけてくるのに頷いて脇の刀を見る。狐はクノエさんの呟きに徳利を傾けながら自信タップリに頷く。



「まぁ、ゲームの最初から妾のクエストに気付いてここまでの付き合いじゃからの。少しは褒美をやってもいいじゃろう?」



 呑みながら話す狐は感心しているクノエさんを指さしながら続ける。



「それにクノエ、妾を見たのはお主が二人目。ミコトとも関係は悪くない。それに妾もお主に興味がある。お主さえ良ければいつでもこの社に来てくれ。歓迎しよう」

「え……それじゃあよろしくお願いします」



 狐からの評価に驚きつつも頭を下げるクノエさんが少し可笑しくて小さく笑う。



「ちょっとミコト、何笑ってるのよ!って言うかアンタあたしの刀どうにかしなさいよ!」

「まぁ、クノエよそうかっかするでない。お主の刀の件は妾にも責はある。後で妾が用意しよう」

「いいんですか?」

「おうとも」



 狐は自信たっぷりに胸を叩く。



「ありがとう、狐。俺じゃどうしようもないからさ」

「まぁお主が新しい武器を買ってやる金もなさそうじゃしな」



 礼を言ったら笑いながら返される。そう言われるのは心外だが、狐の言う通りなので言い返せない。

 隣のクノエさんはそれを見て笑うので余計に心に来る。



「さて、この話はここまでにしようかの。そう言えば、弐の主でのドロップアイテムは何かあるかの?」



 手を叩いて話を切り替えた狐が身を乗り出して尋ねてくる。よく身を乗り出す狐だな。


 俺とクノエさんは自分のアイテム欄からそれらしいものを探すが俺は特に目ぼしいものはなかった。



「……素材アイテムしか今回は落ちなかったな。前回の稀主が良すぎたみたいだ」

「そうじゃの。アレは手強いから相応の物を落とす」

「……あ、なんか装備アイテムがあった」

「「ん?」」



 狐と話していたらクノエさんが呟いた。二人同時に彼女の方を見るとクノエさんは此方にも見易いように画面を見してくれた。



「……疾狗の装身具か。能力はどんな感じなのかな」

「能力はこんな感じ」

「……ほぅ、忍のクノエには相性の良さそうな感じじゃな」



 狐の言う通りこのアイテムは装備者の敏捷をかなり上昇させる。それ以外にも筋力や耐久も僅かではあるが上がるのでかなり良いのではないのだろうか。



「のぅクノエ、せっかくじゃし装備して見せてくれんか?」



 狐の提案に俺も頷く。どんな感じの装備なのか実際に見て見たい。



「そうね、せっかくだし装備してみましょうか」



 クノエさんも結構ノリ気で早速装備する。一瞬だけだがクノエさんが光ったと思ったらすぐにクノエさんが見えた。


 最初装身具なのでネックレスかなと思って首を見ると何もない。じゃあ何処かなと思って顔を上げたら……クノエさんに犬の耳が生えていた。



「……何よ、あたしの身体どっか変わった?」



 不思議そうに聞いてくるクノエさんはまだ自分の変化に気づいていないようだ。クノエさんの感情に反応して犬耳もパタパタ動く。


 何と言ったらいいのか分からず目を逸らすと、腰から尻尾が生えていた。正面の狐を見ると可笑しそうに顔を崩しながら震えている。

 笑う手前2秒前と言った所か。しかしすぐに「もう限界じゃ」と言ってからクノエさんを指さして言う。



「クノエよ、お主も妾を同じ格好になったの!」

「へ?どういう事?」

「頭と腰に手を当ててみよ」



 可笑しそうに指示する狐を訝し気に見ながら言われた通りに手を当てる。



「……え?」



 自分の手に当たった瞬間に顔を強張らせもう一度触って確認している。ドンピシャのタイミングで狐が手鏡を手渡す。

 鏡を恐る恐る見たクノエさんが硬直する。

 目の前の狐は相変わらず可笑しそうに笑っている。



「……う」

「「う?」」



「嘘でしょぉぉおぉおぉおおぉぉ!!?」



 思わず聞き返して体を傾けていたのを吹き飛ばすほどの音量でクノエさんが叫ぶ。

 狐は正面で声が直撃したのか頭がクラクラしている。


 そんな狐には目もくれずクノエさんは急いで装備を外そうとしているのか、画面を必死に捜操作している。

 脇から覗いてみると丁度解除を実行しようとしている瞬間だった。当然実行を押すクノエさんだったが、次の画面に出たのは「この装備は外せません」と言う文章だった。

 彼女の腕が力なく畳に落ちる。嫌な予感がしたので離れようとしたが



「なんで外せないのよぉおぉぉぉぉ!!」



 間に合わず至近距離で聞いてしまい、耳がキーンとする。正面の狐は治ってきたところにもう一発もらい、ひっくり返っていた。





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