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狐と女忍と参の町



……



………



「ここが参の町ねぇ……結構広そうじゃない」



 初めて参の町に入ったクノエさんが町の景観を見てそう言った。俺も参の稲荷には来たことがあるが、町は初めてなので同意する。

 参の町は弐の町に比べると大きさがかなり違っていた。町並みはそれほど変わってはいないのだが、大通りが広くなった。


 俺達がいる弐の町側の入り口から見て正面に行った所に噴水があり、その向こうに此方と同じような門が見える。

 おそらくあれが次の町に続く草原に行く門だろう。噴水まで行けば気のせいか弐の町で見た物より豪華になっている気がする。そして何より



「おぉ……」

「へぇ、なんか凄いわね」



 思わず二人で驚きの声を上げたが、門と門を繋ぐ直線の道に垂直に同じくらいの道が続いていて、その先には平屋の大きな屋敷が見えた。



「何ですかね、あの建物」

「ホント、何かしらね。如何にも館って感じの建物だけど」



 答えは出ないが、きっと朝になったら分かるのだろう。今は別に気にする必要はない。



「まぁ、気にしても仕方がないし。それよりもさっきの主戦でのドロップとか確認したいことがあるんだけど、どこかいい場所ってないかしらね」



 振り向いたクノエさんが聞いてくる。でもその質問は無茶ではないのだろうか



「いい場所って、俺もクノエさんも参の町に来たばかりじゃないですか」



 そう返すが、一応俺は神社限定で参の町には来ている。しかしそれを言うとややこしくなりそうでここは言わないでおく。



「そうよね。でもそれならどうしようかしら。どこかいい場所って言っても、来たばかりの町だしどうしようもないかぁ」



 クノエさんの呟きは確かにそうだ。この町はまだ来たばかりで何も分かっていない。

 その中で俺は唯一安心できる場所を知っている。言うか少し悩むが、クノエさんなら狐に会わしても大丈夫だろう。



「クノエさん、こっち来て」

「え?ちょっとどこ行くのよ?」



 驚いた様子で聞き返してくるクノエさんの手を引いて歩き出す。町から稲荷に入ったことは無いが、この町から感じる狐の気配で大体の位置は分かる。



「ちょっと、どこ行くのよ!」

「お」



 黙々と歩いていたら、手を引っ張られていたクノエさんがもう我慢できないと言ったばかりに声を上げてきた。

 ついでに手も振りほどかれてしまった。



「どこって……落ち着ける場所に行こうと」

「なんで初めてきた町でそんな事を知っているのよ?」



 クノエさんの質問は最もだ。これをどう答えようか。答え方によっては失敗する可能性もあるから、慎重に素早く答えないといけない。



「ちょっと、何黙ってるのよ」

「……クノエさん」



 顔を上げてクノエさんの顔を見る。クノエさんはちょっと驚いた様子で「何よ」と聞いてきた。

 ここで俺が説明しても説得力がないかもしれないので、一応話して、その後に狐に任せよう。

 その方がいいに決まっている。訝しげな顔をしていが取りあえずは



「クノエさんの『気配察知』のレベルっていくつですか?」

「はぁ?なんで今そんな事を聞くのよ。それよりもあたしの質問に答えなさいよ」

「答えるために必要なんです。お願いします」



 頭を下げると、ハァとため息をつかれた後クノエさんは自分のメニュー欄から調べてくれた。



「……『気配察知』が『気配把握』になってる」



 しばらくした後にポツリとそんな事を言った。それを聞いて、彼女から見えない所でガッツポーズをする。

 スキルが進化しているなら狐が見えるはずだ。



「それで、あたしのスキルは教えたけど、説明の方はどうなるの?」

「説明しながら行くので付いてきてくれませんか?」



 言いながら手を差し出せば、クノエさんは怪しげな顔をしていたが「仕方ないか」と言って手を取ってくれた。




…………。




………………。




「……へぇ、稲荷の参拝クエストねぇ。それでまだ先の町が開かれてない時に先の町に行ってたってわけね」

「正確には先の稲荷の中だけだけどね」



 参の稲荷の鳥居の前で隣に立っているクノエさんに理由を説明する。聞いている彼女は胡散臭そうに見てくるが、話している事に嘘はない。



「それで、なんで稲荷がいい場所なわけ?」

「ここの稲荷は結構広いから人と会う事もないし、まだあまり人来てないでしょ」



 それもそうねぇとクノエさんはつぶやくと同時に、思い出したように顔を上げた。



「そう言えば『気配把握』のスキルが必要って言ってたけど、何に使うのよ?」「あぁ、それなら「おぉ、帰ってきたか……ん、何じゃその女子は?」



 鳥居の奥から狐が不思議そうな顔をしながら現れた。手に薪を持っているから、おそらく篝火に足すものだろう。

 チラリと隣のクノエさんを見れば、驚いたように目を丸くしている。クノエさんは喋りそうにないので、狐の質問に答える。



「弐の草原の主を倒してきたよ」

「おう、町の方から来るからそうじゃと思ったわ。して、その隣の奴は?」



 近くの籠に薪を入れながら、顔だけ此方に向けて聞いてくる。



「一緒に主と戦ったクノエさん、どこか話せる場所が無いかって聞いてきたから、この神社にしたんだ」

「そう言う事か」

「お前の許可を取らずにマズかったかな?」

「いや、どうやらそこの女子は妾の事が見えている様じゃし、構わんよ」



 申し訳なかったかなと思ったが、カラカラと笑いながら肩を叩いてきた。



「そんな事より、今回の主はどうじゃった?」

「首が二つあった野犬だったな」

「あぁ、それなら普通の主じゃな」

「なんでそう分かるんだ?」

「妾が神様じゃからに決まっておろう」



 当然の様に言うが、なぜかそれが当たり前だと思ってしまう。



「ま、何はともあれ課題はクリアじゃな」

「そうだな。何か貰えたりするのか?」

「褒美については考えてやる。ちと待つが良い」

「お、貰えるんだな」

「まぁ、妾が出した課題じゃしな」



 褒美を期待したら、本当に貰えるのはうれしい誤算だ。あまり考えていなかったし。



「……ちょっとちょっと!何のんきに話してんのよ!って言うかその女の人誰!?」

「「お?」」



 狐と話をしていたら、クノエさんを置いてけぼりにしてしまった。そのクノエさんは驚きで目を丸くしながら狐を指さしている。

 本人も『気配把握』を覚えているし、狐も見えるだろうと言っていたけど、本当に見えるようだ。自分以外にも見える人がいるって言うのは初めてだから新鮮だ。



「おい、ミコトよ。妾の事を話していなかったのか?」

「ああ、見れば大丈夫かなと思って。それに、俺より狐から話した方がいいかなと思ってさ」



 言い訳を言えば、呆れたように溜め息をつかれる。俺よりも説得力があると思ったのだけれど、失敗だったかな



「ちょっとミコト、早く説明しなさいよ!」



 クノエさんが迫ってくる。険しい顔からしてしっかり説明しないとどうにかなりそうだ。



「……やれやれ、仕方がない。妾が説明してやる」

「いいのか?」

「大した手間ではない。後で晩酌の付き合いで勘弁してやる」



 溜め息をつきながら俺の後ろから狐が出てきてクノエさんと向き合った。

 正体は狐だが、今の見た目は飛び切りの美女が目の前に来たクノエさんは少し戸惑ったように後ずさった。



「さて、クノエとか言ったかの?」

「……えぇ、あたしはクノエだけど。アンタは誰?」

「妾か?名前はまだ教えるつもりはない。取りあえず狐とでも言っておこうか」「狐って、アンタNPC?それともモンスター?」

「どっちでもないわ。そもそも町中にモンスターが出るわけなかろう」



 狐の指摘にクノエさんはグッと詰まったように顔をしかめた。



「妾はこの稲荷神社の祭神じゃ」

「おい、簡単に教えていいのか?」

「お主とこの女子以外に人はおらぬから問題はないじゃろ」



 あっさりと正体をバラした狐に思わず口をはさむが、当の狐はあっけらかんとしていた。その向こうでクノエさんはポカンとした顔をしていた。



「神様ってそんなに簡単に出てくるの?」



 しばらくしてクノエさんがポツリと口にした。



「ん、別に簡単に出ているわけでは無いぞ。そもそも妾の社に参拝するクエストをこなしつつ、スキルの『気配察知』を進化させなくてはいけないのじゃからな」

「でも、それにしたってまだ参の町よ」

「まぁ、それはこのミコトが一日のほとんどを妾の社で過ごしていたからな。クエストの進行も早いのよ」

「……やっぱアンタ友達少ないんじゃない」



 おっと、なんだかいきなり俺への攻撃になっている気がする。クノエさんの憐みの籠った視線が辛い。



「今はそんな事いいじゃないですか」

「……そうね。それでこの狐さん?は信用できるのかしら?」

「本人を前にして聞くとはお主も中々にやるのぉ」



 狐が呆れながら見てくるが、取りあえずクノエさんには頷いておいた。



「そう、ならあたしも信用するわ」

「まぁ、それでいいわい」

「あのさ狐、昨日使った部屋をもう一度使ってもいいか?」

「構わんが、何に使うんじゃ?」

「主を倒した後のアイテム確認とか、落ち着ける場所でしたかったからさ。それであの部屋が頭に浮かんでさ」

「成程、なら行くとしようか」



 狐を先頭にして、鳥居をくぐって社務所に向かう。俺の前には狐とクノエさんが並んで歩いている。

 狐も言わずもがなだが、クノエさんも結構な美人さんなので二人が並んでいるのは絵になる。



「そう言えば、狐さんの正体って何なの?」

「さっきも言ったじゃろう。神様じゃよ」

「えっと、そういう意味じゃなくてNPCとかそういったゲーム的なくくりで言えば何なのかなって」



 前で二人が話している。クノエさんの質問は俺も気になっていた所だ。色々とあって聞いていないけど。



「あー、そういう感じならそうじゃのぅ……最上級NPCとでも言っておこうか」「「最上級NPC?」」



 揃って聞き返すと、狐は面白そうに笑いながら続ける。



「普通のNPCは決まった事しかせぬし、それ以外が出来ぬように制限が掛けられておる。しかし妾は一応やらなくてはいけない事があるが、それ以外の事に関して制限が一切かかっておらぬ」

「そう言う事ね」

「それにある程度ならこのゲームのシステムに関与することも出来るのじゃ」



 自慢げに胸を張りながら狐は言うが、今結構凄い事を言っていなかったか?クノエさんも驚いたようで



「そんな事をあたし達に言ってもいいの?」

「まぁ、構わんじゃろ。お主らが何か悪さをするわけでもないからの」



 狐はあっけらかんと言う。俺達を信用してくれているのはありがたいが、まだ驚きが引かない。



「さて、社務所に着いたぞ。話は部屋に着いてからゆっくりとしようかの」



 いつの間にか社務所の入り口まで来ていたようだ。振り返った狐に言われて、顔を上げる。

 狐はすでに玄関に入って行ったようで、奥から「早くせんか」と呼ぶ声が聞こえる。その声に返事を返しながら俺とクノエさんも社務所に入った。








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