壱の町ー弐
参話目です。感想、ご指摘お待ちしております。
………………通路から抜け俺の視界に入ってきたのは神社だった。
まぁ、和風なゲームであるからには神社くらいあってもおかしくはないのだが、なんだかこの神社にはなんだか少し気になってしまうというか、うまく言葉にできないが、何かが引っかかり、俺の意識がつい行ってしまう。そんな感じがする神社だった。
神社の見た目はとにかく小さな神社としか言いようがない感じだ。竹藪の中にひっそりと建っていて、隣に何か別の建物があったらそっちにしか気づかないような。そんな感じのひっそりと存在している神社だった。
というか、鳥居とか存在しているからどんな神社かなと思ったが、よくよく見たらどうやら稲荷神社のようだ。なんか鳥居の先の道の両側に狐の像が立っているし。鳥居にも「壱の稲荷」って書いてある………………。つーか「壱の稲荷」ってことはほかにもまだ稲荷があるってことかよ。壱の次は弐か?どれ位数があるかは知らないが、これだけってことはないだろう。
………………。
………………。
………………。
ほかにどれ位の数の稲荷があるかは知らないが、ここは一応お参りしていった方がいいかなぁ?
ゲームの世界に来てまでもこんなことをやる必要は無いのかもしれないけど、リアルでは結構神社行ってたし、俺自身神社とか結構好きだしなぁ。
………………。
………………。
よし、ここはこれからのプレイで悪いことがないように一つ祈ってくるか。
そう思った俺は鳥居を潜って神社の境内に入り本殿に向かう。途中で狐の像とすれ違ったが、この狐の像やけにしっかり作られていて中々にリアルな感じだ。つい見入ってしまうが、視線を外し本殿に顔を向け歩き出す。
最初は小さい神社と思ったが、鳥居から本殿まで二十五メートル程でものすごく小さい神社ではないようだ。それに本殿は小さいながらに結構年季が入っていて、何かこう威厳が感じられる。これは結構いい場所だな。……………おっと、いつまでも神社の感想にふけっていないで早いとこお参りを済ませなくては。
そう考えに一度けりをつけて俺はお参りを済ます。勿論作法に則って二礼二拍手一礼である。これが一番基本だからこれでいいだろう。「これからのプレイの中で悪いことが起きませんように」とお願いするのも忘れない。
お参りを済ませ、少し気分がいい俺の耳に「ピコーン」と電子音が響いた。確かこの音は何かメッセージがある時になる音だったはず。俺は頭の中で「メニューオープン」と念じると、目の前にゲームで色々と使用するメニュー画面が現れた。その中の「お知らせ」の欄に新着情報があるらしくさっきの音はそれをつげる音だったようだ。俺は画面を操作し「お知らせ」の画面を見てみるとこんなことが書かれていた。
新着クエスト
「稲荷参拝」
クエスト内容
各町にある稲荷神社に参拝する
クエスト達成度
・壱の稲荷 十%
・弐の稲荷 零%
・参の稲荷 零%
・終の稲荷 零%
クエスト報酬
・壱の稲荷 弐の稲荷への境内内のみの跳躍
・弐の稲荷 参の稲荷への境内内のみの跳躍
・参の稲荷 終の稲荷への境内内のみの跳躍
・終の稲荷 不明
…………………何じゃこりゃ。最初に浮かんだ言葉はそれだった。稲荷神社にお参りしたらこんなクエストが出てくりゃ誰だってそう思うだろう。こんな意味不明のクエスト。しかも一番重要な最後の報酬が不明ってなんだよ。滅茶苦茶気になるわ。
だが、それと同時に何故か妙にやってやろうと思ってしまうクエストだ。ほかのプレイヤーがどうだかは知らないが、少なくとも俺にとってはクエスト達成してやろうと思ってしまう。この最後の報酬の正体を是が非でもこの目で確認してやるぜ………………。とまぁ取りあえずこのクエストをやることは決まったが、ここで疑問が頭に浮かぶ。この参拝は一日何回までいいのだろうか。そりゃ一日に何回もできるとは思っていないが、限度が何回かは気になるところだ。クエスト内容になんか書いていないかな……………………っと、これだな。何々「参拝は一日朝夕の二回行うことが出来る。また、お供え物を持って行くと達成度がプラスされる。」
成程、なら今日はあと一回できるのか。ならその時は何かお供え物を持って行くとするか。どれ位違うのか確認しないとな。だが、それには何かものを入手しなくてはならいわけだが、今の俺の手持ちの金では少しばかり心もとない。なら金を稼げばいいのだが、そのためには町の外に出てモンスターと戦い、ドロップアイテムを売らなくてはいけない。しかし、初心者の俺がいきなり外に出て戦うというのは結構危険要素がある。だが、俺が金を入手するには今のところそれしか方法がない、なら一体どうするか………………。取りあえず、一度ログアウトして中尾に連絡をつけて色々な事を聞いてみるのが一番早いだろう。
そう決めた俺はログアウトするために神社を出ることにする。
何故神社でログアウトしないかは、神社がログアウト不可能な場所だからだ。ほかのゲームでもログアウト不可能な場所があるように、このゲームでもそんな場所が存在する。例えばこの神社や町の店の中(宿の中は除く)。町以外なら洞窟などのエリアだ。ちなみにこのゲームはバトル中にはログアウトできるらしいが、バトル中にログアウトすると戦闘放棄と見なされ、何かしらのペナルティがあるらしい。
本殿から背を向け参道を歩いていく。参道の周りは竹藪だから風が吹くたびに「ザワザワ」と音が鳴る。これ、今の時間だからいいけどよるとかに来たらものすごく怖いぞこりゃ。
参道を抜け鳥居の前に来た。鳥居を抜ける際に本殿の方に向かって一礼する。このゲームの神社とかがどれ位リアルに作られているかは知らないが、祀られている神様に向かって礼をするのは当然だろう。頭を上げ俺は一人満足げによしと呟き鳥居を出る。神社に背を向け、鳥居を出ようとした俺の耳に「コーン」と狐の鳴き声のようなものが聞こえた。いきなり聞こえた声に俺はびっくりして慌てて鳥居の方に振り返って声の主を探す。だが、鳥居の先には参道があるだけでそこには狐一匹の姿もなかった。俺はしばらく参道を見ていたが、参道には何も変化がなかった。声の正体を探すのをあきらめ俺は今度こそ鳥居を抜けた。
神社から出た俺はすぐメニュー画面を表示した。なんで町の中心の方でしないかは、別にここでもログアウトは出来るし、それにわざわざ広場まで戻ることが面倒くさい。だから、俺はこの場ですぐに画面の一番下にあるログアウトの部分をタッチする。すると俺のの意識は暗転していった。
…………………。
…………………。
…………………。
目を覚ますと見慣れた俺の部屋の天井があった。無事ログアウト出来たことに安心して息を吐く。別にこの会社のことを信用していないわけではないが、何かの手違いでログアウトが正常に行われないとかがあったらどうしようかと思っていた。体を起こし首を回す。体はただ寝ていただけだが、なぜか少し疲れた気分だ。でもまぁ体に異常はないし、気分も悪くないからさっさと中尾に電話していろいろと聞くとするか。
数回のコール音の後に中尾はちゃんと電話に出た。もしかしたらまだログイン中かもしれないと思っていた俺の考えは外れたようだ。そのことにほっとしながら奴と話す。
「透か、どうかしたか?」
「ゲームやっていていろいろと知りたいことが起きたんでな、そいつを聞きたくて電話した。」
「電話なんかしなくてもゲームの中じゃ会話もできるし、それ以外でもチャットがあるだろ、それを利用すればよかったじゃないか。」
「それも知りたいことの中に入っている。チャットのやり方なんて知らないし、それにチャットするにはフレンド登録が必要だろ。俺とお前登録してないだろうが。」
「あれ?そうだっけ。悪い、忘れてたわ。」
「それにほかにも聞きたいことがあるんだがいいか?」
「もちろん構わないぜ。お前をこのゲームに誘ったのは俺だからな。答えられるのには答えるぜ。」
「助かる。じゃあ二時間後に広場で落ち合うか。」
「了解だ。そんじゃ二時間後にな。」
中尾との会話を終え電話を切る。これでこの先のゲームに関しての不安は取りあえずはなくなった。あとは実際にアイツと話してみて、やってみてから決めることで大丈夫だろう………………。
ああ、そうだあとアイツにあの稲荷神社での声のこととかも聞いてみよう。なにかわかるかもしれない。もし分からなくてもアイツの知り合いとかに聞くことも出来るかもしれない。まぁ、可能性は低いがとにかく知りたいことをいろいろと聞いてみるか。
そう考えを付け、俺は二時間後にログインする前に腹ごしらえでもしようと思い。キッチンの方に歩き出した。