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二首野犬と隠れる下忍

お気に入り登録が300件を超えました。ありがとうございます。




 林に入り少し木々の中を歩けば、壱の主と戦ったような開けた場所に着いた。 どうやら、戦う場所にそんな変化はないみたいだ。今回の主はどこから出てくるか。前回の主はいきなり現れたけど



「……ん?」

「どうかしたの?」



 目の前の茂みから『気配把握』に何かが引っ掛かった。どうやら今回はあそこから出てくるみたいだ。



「前の茂みから来ます」

「ホント?あたしのスキルじゃ何も感じないけど」



 クノエさんは怪訝な顔をするが、おそらく彼女のスキルは俺より低いのだろう。多分まだ『気配察知』の段階ならまだ気付かなくても仕方がない。

 クノエさんと話している間にも主は近づいてきていて、音少しで対面できそうだ。



「……っ!」



 この時点でクノエさんの『気配察知』にも引っ掛かったみたいだ。隣で気を引き締めていた。



「俺が前になります。主の注意を引きますから、その間にクノエさんは背後を取ってください」



 俺の言葉に頷き、クノエさんは俺の後ろにまわった。主が出てきても最初は俺しか見えないから、クノエさんに注意が行くことはないだろう。

 こっちが主と対面しているその間に主の背中から一撃入れてほしい。


 主の反応が強くなってきているので、刀を抜いて構える。反応は相変わらず正面から来ている。ここからいきなりこの前の稀主の様に真上から襲ってくることは無いと信じたい。



「「……来た」」



 クノエさんと同時に反応すると、前の茂みが揺れた。警戒したまま待つと茂みから何かが出てきた。

 茂みは少し影になっているからもう少し近づいてくれないと正体が見えない。だが、影からでも主が四足であると分かる。



「こいつ、野犬?」



 隣でクノエさんが疑問を含んだ声を出す。その感情は俺も同じだ。目の前にいる野犬は野犬でも普通の野犬じゃなくて



「首が二つ……」



 二つ首の野犬だった。大きさも草原に奴よりも一回り以上大きく、首が二つかるからか尻尾も二つだ。

 『気配把握』のおかげか奴の強さや自信みたいなものが伝わってくる。



「ミコト、どうする」

「……取りあえずは俺が初撃を対処します。それまでは俺の後ろにいてください。初撃のあと俺が注意を引いてますから、クノエさんは一度完全に気配を消してから行動してください」



 後ろからクノエさんから聞かれる。声の感じで彼女が少し緊張しているのが分かった。

 行動を提案すれば、何か意見を言ってくるかと思ったが、特に反対はせずに「了解」と言って自身の武器を握る音が聞こえた。


 クノエさんと話している間、主が何か動いてくるかと警戒していたが、特にそう言ったことは無くこっちをじっと見ているだけだった。

 もしかしてこちらから来るのを待っているのだろうか。向こうが動かないのであれば、こちらから動いてみることにしよう。

 主から目を離さずに腰の刀に手を掛けた時



「……ガァッ!」



 丁度その瞬間を狙っていたかのように、主が飛び掛かってきた。



「……っ!」

「えっ!」



 刀を抜くのを止めて飛び掛かってきた主を躱す為に横に跳ぶ。

 俺の後ろにいて状況がよく見えていなかったクノエさんを開いている左手で引っ張りながらなので、主との距離をそこまで離すことは出来なかった。



「あ、ありがと。全然見えてなかった」



 小さくお礼を言われるが、それに反応している余裕はない。飛び掛かってきた主は少し離れた場所で体の向きを変えて此方を見ている。

 また、隙を見て突っ込んでくるのだろう。主の二つの首はジッと俺を見ている。

 幸いな事にクノエさんについてはそれほど注意していないみたいだ。



「クノエさん」

「何?」



 主の注意がクノエさんに向かないように小さな声で話しかける。当然、視線は主から離さない。



「気配を限界まで消して、背後から攻撃できるようなスキルって持ってますか?」

「…………あるにはあるけど、スキルのレベルがそれほど高くないから、アンタに注意を完全に引き付けてもらわないと成功しないと思う」



 少しの沈黙の後に小さく自信なさげな声で返ってきた。

 でも、あるにはあるみたいなので問題は俺がどこまで注意を引けるかだ。



「それなら一度試してみよう。失敗したらその時だ。回復アイテムは持ってる?」

「ええ、一度位なら何とか対処出来るわ」

「了解、それじゃあ俺が主に突っ込みますから、その間に気配を消してください」

「OK、タイミング見ていけそうな時にこっちは後ろから行くから、前面はお願いね」

「了解です。準備はいいですか?」

「いつでもどうぞ」



 クノエさんの了解を聞いて、駆け出す。

 後ろで小さく足音が聞こえたが、すぐに聞こえなくなった。この後のスキルが成功するかは俺にかかっている。



「グルァッ!!」



 主も此方に反応して飛び掛かってくる。

 瞬間、さっきと同じように横に回避しようと思ってしまうが、ここで避けてしまうと主の注意が俺からそれてしまう可能性があるので、回避はせずに走り出すと同時に抜いておいた刀で応戦する。


ガキンッ!


 と甲高い音がして俺の刀と主の牙がぶつかる。

 かなりの衝撃が来ると思って準備していたが、感じたのは想像程ではなく、これならさっきもこうやって正面で受け止めるのも問題なかったかもしれない。



「思ったよりも力が弱いな…………うぉっ!?」



 主の力が弱く押し返そうと思っていたところで、刀とぶつかっていないもう一つの首が襲い掛かってきた。

 慌てて距離を取ると、ガチン!と音を立てて噛みつこうとした口が閉じる。音を聞いただけでも鳥肌が立ってくる。クノエさんに注意が行かないようにしないといけないが、尻込みしてしまいそうになる。

 主の方は二つの首両方が此方を見ながら、低く唸り声を出している。両方の首が俺に向いているので、クノエさんの方に注意はいってない。

 今のところは役目を果たしている。



「一度位は攻撃を当てたいよな」



 あの二つの首をどう回避するかが問題だが、クノエさんが仕掛けるまでに少しでも体力を減らしておいた方がいいに決まっている。

 主は此方を見ながら少しずつ移動している。俺から注意が逸れては困るので、此方も同じように動いて主の正面からズレないように動く。



「……そりゃっ!」



 このままだと埒が明かないので、此方から仕掛ける。主は一瞬出遅れたがすぐに向かって来る。

 さっきと同じように牙とぶつかり、同時に主の開いているもう一つの首が襲ってくるが、一度みた攻撃なので今回は慌てずに走り出した時に抜いておいた脇差で受け止める。

 そこからはしばらくお互い動かない状態が続く。このまましばらくクノエさんを待つまで固まっているのもありっちゃありだ。

 でもそれじゃあ主に対してダメージを入れることは出来ないので、少しばかり行動に出ることにする。



「よい…しょぉ!」



 均衡状態だった押し合いをさらに力を入れて主の身体を少し浮かす。

 その隙にあいた主の身体を蹴っ飛ばす。主は小さく呻き声を出しながら広場の中央まで飛んで行った。

 蹴っ飛ばして主が吹っ飛んでいる間にこっちも体制を整えようとしてやった事だが、まさかあそこまで飛ぶとは思っていなかった。


 見ればまだダメージが抜けていないのか、主は地面に倒れたままだ。ここで一気に仕留めてもいいのかもしれないが、反撃があったら嫌なのでいきなり攻撃されても対応できる距離で待つことにする。

 いつまでも両手に刀を持っているわけにもいかないので、脇差を仕舞って主が起き上がるのを待つ。



「……お?」



 見れば主がゆっくりと起き上がっていた。さっきの蹴りが効いているのか二つの首はだらしなく舌を出している。もう一発入れたらそのあとが楽になりそうだ。



「……あ」



 刀を構えて主を見ていたら、主の後ろにいつの間にかクノエさんがいた。


 見た感じ広場の中央に主がいて、その主に対して丁度同じくらいの距離にいる。どうやら準備が終わったみたいで、彼女は自身の武器である小太刀を構えて此方に頷いてきた。

 此方も頷き返して同時に走り出す。走りながらさっきよりは強い攻撃にした方がいいかなと思って、『横薙ぎ』のスキルを発動させておく。

 主は走ってくる俺に向かっていこうとするが、後ろから聞こえてくるクノエさんの足音にも気づいたのか、どっちに行くか決めあぐね立ち止まってしまっている。



「せぇのぉっ!!」

「やぁああぁ!!」



 そんな主を俺とクノエさんの刃が丁度のタイミングで斬り付ける。



「ギャアァアァアッ!!」



 主の叫びと、何か甲高い金属音がしたが、そのまま走り抜ける。駆け抜けた後振り返れば、俺とクノエさん二人に斬られた主がゆっくりと倒れて消えた。

 あとに残ったのは俺と、なぜか折れた小太刀を持っているクノエさんだった。


 折れた小太刀と俺を交互に微妙そうな顔で見てくるクノエさん。その顔を見て、もしかしてさっきの金属音は彼女の小太刀と俺の刀がぶつかった時の音なのだと気付く。

 つまり…………



「すみません。クノエさんの刀も斬っちゃいました」

「最初に言う事がそれかぁ!」



 怒られました。








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