忍者と弐の主へ
今回は前半がクノエ視点です。
アスタリスクの所で視点が変わります。
「クノエ、こんな時間にどこ行くんだ?」
あたしが弐の町から出ようとした時に、丁度反対側からやってきた誰かに声を掛けられた。
あたしの事を呼ぶ奴なんて数が知れてるけど、一応顔を上げて見ればよく一緒につるむ友人のナオユキがいた。
「別に、ちょっと草原で鍛錬でもしようかなって」
「そうか、俺も付き合おうか?」
「今しがた草原から帰ってきたばっかのアンタはいいわよ」
「分かるか?」
あたしの返しに驚いたように反応するが、別にそんなに驚く事でもないだろう。
「そりゃ、こっち側の門から戻ってきているのならね」
「そりゃそうか。いやぁ、フヒトとの勝負の罰ゲームでさ」
面白そうに話し始めるナオユキ。フヒトはあたし達の友人でよく組む野武士のプレイヤーだ。
ナオユキとフヒトはリアルでも仲が良くよく何かしら勝負事をしている。ゲームの中でもやるとはよっぽど勝負事が好きなのか、はたまた別の何かが好きなのか疑問に思うが、最初は呆れてしまう。
「ってわけで勝負していたんだ。どうだ面白いだろ?」
「はいはい、アンタ達ホント仲良いわね」
あんまり聞いていなかったが、取りあえず頷いておいた。ナオユキの話どうでもいい話は聞いていると疲れてしまう。
まぁ、真面目な時は雰囲気で分かるからそういった時はしっかり聞くけど。
「それじゃあ、あたしは行くわね。お休み」
「おう、気を付けて頑張れよ」
気を付けて頑張れ。ナオユキが良く言う少し変な応援をもらってあたしは弐の草原に向かった。
……。
…………。
「ふぅ、今日は結構調子いいわね」
遭遇した野犬二匹との戦闘が終わった後に一息入れる。弐の草原は壱の草原とあまり敵が変わらないから戦いやすい。
新しい敵もいるという噂だが、遭遇情報が少ないので詳しい事は分かっていないらしい。
「時間は……もう二時か、結構時間経ったわね」
草原に着いたのが大体零時過ぎ、そこから二時間近く戦っていた事になる。
まぁおかげで階級も二十五になってそこそこな階級になった。
「それに『気配察知』も上がってきたし、今日は捗ったわね」
このスキルは結構役に立つ。敵の行動が何となく分かる。どことなくあやふやな部分があるが、自分の職の下忍は元々敏捷が高いので、少しでも分かるなら対処のしようがある。
「二十六まであと少しだけど、どうしようかしら」
おそらくあと一回戦えば階級が上がるだろう。
だが、結構な時間戦っていたので疲れているのも事実。
「回復アイテムも数がないし……帰りながら遭遇したら戦うってことにしよ」
あたしはそう決めて、弐の町へ帰ることにした。帰りに敵と逢わなくても明日戦えばすぐに階級は上がる訳だし、それよりは帰って寝た方がいい。
「……と思った瞬間に出てくるものよねぇ」
前方右手から何か嫌な感じがすると思ったら、茂みから餓鬼が二匹出てきた。
「コイツらもしかして新しい奴ら?」
出てきた餓鬼はさっきまでの餓鬼とは違って刀を持っていた。明らかに今まで戦った餓鬼とは感じが違う。
餓鬼達を警戒しつつ、チラリと自分の武器を見る。あたしの武器は小太刀、どう見ても敵の餓鬼たちよりもリーチが短い。
数の不利に距離の不利、二つあるとさすがに厳しい。逃げられるタイミングは無いか窺って見るがどうやら無理みたい。逃げ出そうとしても前と後ろで挟まれもっと良くない状況になりそう。
「なら、こっちから行くしかないわけねっ!」
餓鬼達が少し動いた瞬間にこっちから距離も詰める。少しでも不意打ちになればいいと思って先制攻撃を狙う。
幸いにもあたしの職業である下忍は敏捷が高い、それで何とか先に攻撃できれば強さが分からないこの餓鬼達にも対抗できるだろう。
……。
…………。
***
「それであとは小太刀飛ばされて、ピンチの時にアンタが来たってわけ」
「なるほど」
一通り説明を終えたクノエさんは溜め息をついた。
俺達はさっき餓鬼達と戦った場所から少し離れたところで地面に腰を下ろして話している。
「でもクノエさん、どうしてこんな遅くに鍛錬を?」
「どうしてって言われてもね。あたし、毎日少しでも鍛錬をするようにしているんだけど、今日はお昼に用事があったから鍛錬が夜にまわっただけ」
肩を竦めながら何でもないように言うクノエさんだが、毎日鍛錬しているのは凄いと思う。
「そういうアンタはどうしてこんな時間にいるのよ?」
「俺ですか?」
「そう、あたしと同じく鍛錬?」
今度はクノエさんから聞かれる。
まぁ、俺から聞いたんだし次は俺の事を話すのが流れかな。
「俺は鍛錬じゃないですよ」
「まぁそうでしょうね。あたしが苦労していた餓鬼達を一撃で倒すんだもの。ここで鍛錬なんで必要ないわよね」
鍛錬じゃないと言えば「予想していた」と言わんばかりの顔で言われた。確かにクノエさんの言う通りだ。
「鍛錬じゃないなら、弐の主でも倒しに行くとか?」
クノエさんは冗談めかして言うが、それが正解だ。
彼女の質問に頷けば、クノエさんはポカンとした顔になった。いつも少し怒っているような顔しか見ていないから、この表情は新鮮だ。
「……え、アンタ本当に主戦行くの?」
「そうです。ここで嘘言っても意味ないでしょ」
表情が戻ったクノエさんにもう一度言うと、今度は真剣な表情で黙り込んでしまった。
「ねぇ、アンタ一人で主戦行くの?」
「今のことろ一人ですね」
「…………あのさ、あたしも一緒に行ってもいい?」
聞かれて少し考える。クノエさんが一緒に行ってくれるのならば、主との戦いが有利に運べるのは一人で行くより確実だ。
俺自身はクノエさんからの提案に賛成なのだが、ナオユキたちと主戦に行くなどの約束はしていないのだろうか。
「さっきも言ったけど、アイツらなら問題ないわよ。時間の合う時に組んでいるだけだから」
考えていたことが分かったのだろうか。クノエさが先に言ってきた。
「それに自分で言うのも変だけど、あたしは職が下忍だからあんたより敏捷が高いから、主を攪乱する事も出来ると思うの」
確かにクノエさんの言うように敏捷が高い人がいれば有利に戦いを進められるだろう。知らない人ってわけでもないし、特に問題もなさそうだ。
「それじゃあ、お願いします」
「ありがと、よろしくね」
クノエさんの提案を受け入れると、ホッとした顔をされた。その表情があどけなく見えて、少し見とれてしまった。
「何してんの?早く行きましょ」
見とれていたらいつの間にかクノエさんは歩き始めていて、少し離れたところから声を掛けられた。
「すみません、少しボーっとしてて」
「しっかりしなさいよ」
……。
…………。
「ここでいいんですかね?」
「多分そうじゃない?壱の主がいた場所もこんな感じの林だったじゃない」
少し歩くと草原から林に着いた。ここが弐の主がいる場所かは分からないが、壱の主の林とよく似ていた。恐らく場所は間違っていないだろう。
「クノエさんは弐の主について何か知っている事有りますか?」
「知ってる訳ないじゃない。まだ誰も挑戦してないのよ」
隣にいるクノエさんに聞くと、呆れた表情で返された。
「なんて言うか、町で噂とかないんですか?」
「別にそう言うのは聞いた事ないけど……なんでアンタ、町の事をあたしに聞くのよ?」
「いや、俺あまり町に行かないんで」
クノエさんの質問に答えると、何か微妙な表情をされた。
「アンタ、このゲームで友達いないの?」
「いや、いますけど。なんでそんなことを?」
「だって、町に行かないなんててっきりそう言う事なのかなって」
「違いますよ」
クノエさんに変な勘違いをされたが、すぐに否定するとどこかホッとした顔をされた。
解せぬ。
「町に来ないって何してたの?」
「クノエさんと変わらないですよ。鍛錬です」
まぁ、鍛錬って言っても神社内で瞑想していただけですけどね。でもそれは口にしない。
「そうなんだ」
「そうなんです」
会話を止めて林を見る。特に問題なく入れそうだ。先に挑戦している人がいないのはなんとなく分かる。
「主はどんな奴ですかね」
「壱の時みたいに草原で出てきた奴の上位版じゃない?」
クノエさんにそう言われるが、生憎俺はちゃんとした壱の主を倒していない。稀主が出てきたせいで大変な目にあった。
しかし、ここでその話をしていると面倒臭い事になるので言う事はしない。
確か壱の主は大野兎だったはず。それからいけば野犬辺りが出てきそうな気がする。
「草原のって事は野犬辺りですかね?」
「野犬かぁ……そうね、そこらへんじゃない」
「戦い方はどうします?」
「あたしが攪乱でアンタがメインで攻撃でどう?」
クノエさんの提案のように、敏捷が高い彼女が色々と動いていた方がいいだろう。
考えていたら、クノエさんからチーム申請が届いていた。申請と同時にリーダーの推薦もあったので「いいのか?」と聞けば「あたしはアンタの挑戦に参加させてもらっている感じだしね」と返された。
承認をしてチームが作られる。クノエさんの階級は二十五か。これなら問題なさそうだ。確認を終えてクノエさんと頷きあう。
「それで行きましょう」
「了解、あたしも隙があったら後ろから攻撃するわね」
「お願いします。それで注意を引いてくれると、俺も攻撃しやすくなると思うので」
「OK、それじゃよろしくねミコト」
「行きましょうかクノエさん」
二人で声を掛けあってから林に入る。
お願いします、今回はちゃんとした主と戦えますように。