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深夜の弐の草原で



…………。



 草木も眠る丑三つ時、要するに夜中の二時くらいなのだが、俺は一人で弐の町を出て草原を歩いていた。

 昼過ぎに浄化し終わった刀を受け取った時に狐から弐の主を倒してこいと言われたため、こうやって向かっているのだ。


 時間を空けずににすぐに行けばいいかとも思ったが、夜の方が人が少なそうでいいかなと思い、その時間まで一人参の稲荷の隅っこで瞑想したり、狐と飯を食ったりして時間を潰していた。



「一人での主討伐で、前回の様なことが起きなければいいんだけどな」



 一人呟きながら腰を揺すって刀の位置を調整する。やっぱり二本差しだとうまくバランスが取れない、慣れるまでもう少しかかりそうだ。

 二本のうち、刀は稀主から手に入れた物を浄化して手に入ったものだが、脇差は稲荷を出る時に狐からもらった。




…………。




「刀だけでは腰が寂しいの。それに見た目も良くない」



 参の稲荷から弐の稲荷へ行くための移動ポイントの近くで見送りに来た狐がそう言う。

 見送りなら弐の稲荷からでもいいじゃないかと聞いたが、弐の稲荷にこの人の姿で行くと稲荷の許容容量を超えてしまうのだと言う。

 何の容量かと思うが、それは「ゲームのシステム的な面とゲーム内の霊的な面、容量じゃ」という事らしい。

 ならば、狐の姿に戻って見送ればいいのではと思うが、それは「それもそうじゃがお主、獣と美女のどちらに見送られたいか?」と聞かれたので参の稲荷で見送りをしてもらうことにした。

 そのあとに何かぶつぶつ言っていたが、よく聞こえなかったのでスルーした。



「妾は何を言おうとしていたかの……そうじゃ、腰が寂しいから一つ妾から餞別をやろう」



 そう言って狐は何もない空間に手を突っ込んで脇差を取り出した。



「稲荷関係の刀で有名なのは小狐丸じゃが、これにはあのような逸話も無いし、それほどの業物でもないからのぉ。名前はどうするか……」

「それほどの業物じゃないって言っても、今の弐の町で手に入るものよりはいいものなんだろ?」

「当然じゃ。一応レアドロップ扱いじゃぞ」



 狐は当たり前のように言う。浄化した刀と言い、狐といるとほかのプレイヤーは違うことをやっていて、これが違反にならないか不安になってくる。

 まぁ今更感は仕方ないが……



「なんじゃ、そんな事を気にしていたのか。お主のやっていることは何も違反でもないぞ」

「そうなのか?」

「うむ。お主が今やっている事は『稲荷参拝』のクエストの一環じゃからの。問題はない」

「刀に関してもか?」

「稀主と遭遇するのは一定の確率じゃし、違反でも何でもない。お主が運良くか悪くかは分らんが、壱の主の時に当たっただけじゃ。それに、浄化に関してもお主はクエストの正当な報酬で参の稲荷に来ているのじゃから違反じゃなかろう」

「お前がくれようとしている脇差は?」

「……細々と聞いてくるのぉ、そんなに不安か。まぁこの脇差は妾からのプレゼントじゃからの。特に問題あるまい」



 そう言って脇差を渡してきた。まぁ、貰えるというのならありがたく貰っておこう。

 腰に差して位置を整えるために軽く体を揺らす。左側に重心が行きそうになるが、その内慣れるだろう。狐を見れば、満足そうに頷いていた。



「さっきよりは見える格好になったな」

「そうか?」

「うむ、自信を持って良いぞ」

「狐のお墨付きか、ありがたいな」

「ほれ、早い所主を倒してこい。戻ってきたら妾の酌をしてもらうぞ」

「了解、行ってくる」

「気を付けるのじゃぞ」



 何か前にもこんな風に送られた事があったなぁと思いながら、参の稲荷を後にする。

 そう言えば、結局名前はを聞いていなかったので、主戦が終わった後にでも聞いてみるか。



…………。



「……壱の草原とは微妙に違うんだな」



 弐の草原は壱の草原とほとんど似ていたが、所々で違う場所があって違う場所なんだなと思える。



「今の季節は外だと夏だけど、ススキがあったりしてこの場所は秋なのか?」



 壱の草原と大きく違うのがススキなどの草が生えていることだ。特に肌寒いと言った感じはないので、季節感が見えるのは楽しい。



「でも、弐の主は何なんだろうな」



 本来の壱の主は大野兎だ。大野兎は草原の野兎の上位みたいなものだから、弐の主もそのパターンな気がする。そうすると、野犬辺りが妥当なのだろう。

 壱の草原には野犬、野兎、餓鬼が出てきていたが、弐の草原もそれと基本的には変わらないらしいが、たまに餓鬼の上位タイプが出てくるらしい。

 遭遇したプレイヤーが少なくて情報があまり集まっていないのだという。

 まぁ、そういう奴は遭遇してから対処すればいいだろう。俺の『気配把握』ならほとんど問題ないと狐に言われているから大丈夫だろう。



「弐の主にどれだけいけるかは分からないけどなぁ」



 壱の主が最初に倒されてもう二週間ちょいが経っているがまだ弐の主が倒されたという話は聞かない。

 壱の主を倒していた攻略組の人たちは何をやっているのかと疑問に思うが、噂によればどうやら装備集めをしているみたいで、まだ攻略に手が付いていないのだという。

 それを聞いて俺は納得したが、狐は「今の内にミコトが攻略をしようではないか!」と意気込んでいた。その流れで刀を浄化した後の課題として思いついたのだろうが、まぁ実力試しとしては問題ないだろう。



「取りあえずは主と対面してみない事には分からないか…………ん?」



 早い所主の場所に向かわないと考えていた時、『気配把握』に何かが引っ掛かった。

 感じでは少し行った一時の方向、誰かが戦闘している。数は二対一、此方に敵対意志のある存在が二匹で、敵対意志が無いおそらくプレイヤーが一。おそらく複数の敵に遭遇したのだろう。壱の草原でもあったが、たまにそう言った遭遇がある。 今回もそのパターンなのだろうか?



「……まだ時間あるし、ちょっと見て見るか」



 腰の二本がずれないように左手で押さえながら走り出す。うまく話すことが出来れば何か情報が聞けるかもしれない。



「まずは様子見で陰から見て見ようかな…………んん?」



 『気配把握』は対象との距離が近くなるほど対象の様子も詳しく分かってくる。レベルが上がれば上がるほど詳細に分かるようになるのだが、どうやら今回の状況はプレイヤーが押されているみたいだ。



「そう言う事なら、助けに入った方がいいかな……ん、あの人は」



 対象のすぐ近くまで来たので、一度近くの木に隠れて覗いてみる。見るとそこには餓鬼二匹と戦闘しているプレイヤーがいた。そのプレイヤーは一度見たことのある人で



「確かクノエさんって言ったっけ」



 ナオユキと一緒にいた下忍の女性だったはずだ。その人が一人で餓鬼と戦っている。何かあったのだろうか。まぁ、そんな事情は知らないのでどうでもいい。

 餓鬼を見れば壱の草原で戦ったことのある餓鬼とは少し違い、身の丈ほどの刀を持っている。おそらくあの餓鬼が噂の上位タイプの餓鬼だろう。

 それよりはこのままだとクノエさんが負けそうな感じになってきている。



「……加勢した方がいいのか?」



 他のプレイヤーが戦闘している場面に参戦する時は一言かけて戦っているプレイヤーから許しをもらわなくてはならない。

 何も言わずに参戦した場合は乱入と見なされて、運営側から何かしらの制裁が下るという。その内容は知られていない。と言うより乱入するプレイヤーがいない為、制裁が起きたことが無いらしい。



「きゃっ!」



ドン!



「ん?」



 クノエさんの声と直後の隠れている木から伝わる衝撃で顔を上げれば、餓鬼に吹っ飛ばされたのだろうか地面に尻餅をついているクノエさんに、隠れてい木を見ればおそらく彼女の武器であろう小太刀が刺さっていた。

 餓鬼とクノエさんとの距離よりも木とクノエさんの距離の方が遠く、小太刀を取りに行っている間に餓鬼に詰められてしまうだろう。

 それをクノエさんも分かっているのか、此方から見える背中から焦りを感じる。



「こりゃ、本当に助太刀に入った方がいいかな」



そう言っている間にも餓鬼が近づいてきている。クノエさんは尻餅をついたまま後ずさるが餓鬼たちの方が早く、距離が縮まってきている。

 やっぱり助太刀するしかない。



「……よし」



 腰を一揺すりして二本の位置を調節した後、木の陰から飛び出す。走りながらクノエさんの背中に向かって声を掛ける



「助太刀するが、構わないか!?」



 いきなり後ろから声を掛けられたクノエさんはビクッと驚いたようだが、此方を見て「お願い!」と返してきた。

 参戦の承認をもらえたので、クノエさんを通り過ぎ餓鬼たちに向かう。

 いきなり現れた俺に餓鬼は驚いた様だが、すぐに刀を構えて向かってきた。『気配把握』のおかげで餓鬼の行動が何となく分かる。


 餓鬼が刀を振り下ろしてくる前に一匹の餓鬼をすれ違い様に斬る。もう一撃必要かと思い、振り返ると斬った餓鬼はすでに倒れていた。

 刀の強さに驚くがもう一匹残っているので、そっちに向かう。残った餓鬼は俺を待ち構えていたようで、近づくとすぐに刀を振ってきた。躱せないので自分の刀で受け止め、すぐに弾いてがら空きの胴体を斬る。

 こっちも一撃で倒すことが出来た。あまりの呆気なさにこの刀はどれ程の強さなのか気になってしまう。



「……助けてくれて、ありがとう」



 お礼の声に顔を上げれば、腰に刀を戻しながら俺を見ているクノエさんがいた。刀はどうやら俺が戦っている間にでも取りに行ったのだろう。



「アンタ確かナオユキの知り合いだったっけ?」

「ええ、ミコトです。確かクノエさんでしたっけ?」



 質問に頷くクノエさん。しかし彼女はナオユキと組んでいたはずなのにどうして一人なのだろうか。



「別にいつも組んでいるわけじゃないわ。あたし達はリアルで知り合いだったから、時間が会う時に組んでいただけ」

「なるほど、でもどうしてこんな時間に一人で?」

「そ、それは」



 疑問に思っていたことを聞くと、クノエさんは少し戸惑った表情を見せた。

 言いにくい事なのかなと思い、聞くべきじゃなかったと反省していると、クノエさんが小さく溜め息をついた。



「いいわ、助けてくれたんだし教えてあげる」

「……いいんですか」

「ええ、そんなに秘密にすることじゃないから」



 そう言ってクノエさんは事情を話し始めた。









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