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罰と修行



……。




…………。




「お前神様だったっけ?」

「そうじゃよ。確か前にも言ったような気がするが」



 狐に言われて思い返してみる。狐が神様なんていつ言っていたか?そんな記憶がないのだが、でも狐が嘘をついていると言うのは考えにくいし。



「……弐の稲荷辺りで言ったような覚えがあるのじゃがなぁ」

「……あ」



 狐に呆れた声で言われると、何だかそんなことを言われたけど、ほぼ聞き流していた記憶が出てくる。

 ヤバいよ、確かあの時俺敬わないとか言っていたような気がするんだけど。俺の反応を見て思い出したのを理解したのだろう。狐は俺の周りをウロウロと回りながら口を開く。



「どうやら、思い出したようじゃのぉ。妾は確かに自分が祀られているご神体と言ったよのぉ」

「……えぇ、そうです。はい。確かに言いました」

「そうじゃろぅ。あぁ、そう言えばあの時お前は敬えないとか言われたような気がするのぉ」



 横から狐が自信たっぷりに聞いてくる。敬えないという点に対しては「そんなことは無い」とすぐに言いたかったが、心当たりがあるので何も言えず、黙っているしかない。

 そんな俺の反応を見ておそらく狐はニヤニヤしているのだろう。さらにグルグル回りながら続けてくる。



「さぁて、確かにお主は敬えないと言ったの。ではその敬えない神に対して穢れを祓ってもらっているのは都合がよいのではないかの?」



 狐の指摘は最もだ。言い返せないが、一つ聞きたいことがあった。



「あのさ」

「なんじゃ」

「確かに弐の稲荷でお前の正体は聞いたけど、まさか参の稲荷のご神体だったとは思わないよ」



 なんだか言い訳みたいな感じになってしまった。それを聞いた狐は溜め息を一つ付く。



「そんな事、妾が壱の稲荷からずっと稲荷の中を行動している時点で、壱から終まですべてのご神体だと弐の稲荷で正体を明かした時に気付いてもよかろう」



 はい、すみません。仰る通りです。

 そう返され、黙っているとまた狐は呆れたように溜め息をつく。



「お主は学生じゃろぅ、そんな事で大丈夫なのか?」

「たぶん大丈夫です」

「……まぁ通常なら稲荷参拝のクエスト失敗という事になるが、まだこのクエストをお主しかやっておらぬし、お主自身稀主を戦ったりと大変じゃったろうから、少しの罰で許してやろう。イエローカードというやつじゃな」



 あぁ、もう一枚もらったら失格ってわけですね。でも今は狐の温情に感謝しよう。でも罰とは何なのだろう。



「あぁ、それなら祭壇を見て見るといい」



 狐に言われ刀を納めた祭壇を見ると、さっきまで残り時間が12時間だったのが、24時間に変わっていた。

 倍になったよ。罰とはこれの事なのかと、狐の方を向くと「そうじゃよ」と返ってきた。

 しかし1日か……。何をすればいいのかな。



「そうじゃの……、最初は掃除でもしてもらおうと思っていたが、そういうのはすべて巫女がやっておるしのぉ。何をしてもらおうか」



 狐の方でも何をさせるか悩んでいるようだ。このまま何もせず時経過というのは……。



「無しに決まっているじゃろうが、戯け」



 そうですよね、すみません。しかし、このまま決まらないという事は避けたいが、俺からすればこの神社で何をすればいいのか。

 長丁場になりそうだから、まず飯に行ってきていいかな?



「なぁ、一回弐の町に戻って飯に行ってきていい?」

「何言っておる。浄化している間は神社から出られないに決まっておろう」

「……マジ?」



 狐の返答に固まるが、狐は当たり前のように言ってきている。もしかしてと思い祭壇に行くと、残り時間の下に注意書きで浄化中は神社からの移動が出来なくなります。予定のある方は先に済ませてくださいと書いてある。

 完全に飛ばしてたよ、この文章。



「書いてあったろう?」

「あぁ、確かに書いてある。じゃあ俺はあと1日ここに缶詰か」

「そう言う事になるの」



 ガックリと肩を落とす。まぁ自分が見落としていたから自業自得なんだろうけど、食事がないのは少しキツイ。別にゲームだから食べなくてもいいけど、確か今はデータ採集中だから食事もゲーム内でした方がいいとか言っていた気がする。



「相談所からなるべく普段通りの生活をしてくれって言われているんだが」

「なら、尚更問題なかろう。お主現実で毎日しっかりとした生活しておったか?どうせ、1日くらい飯抜きでも大丈夫とか言って抜いたり、寝なかったりしておったろ」



 狐の指摘に思わず唸ってしまう。なぜ俺の行動がコイツに分かってしまうのか。俺の反応を見た狐は「やれやれ」といった具合に「ハァ」と息を吐く。



「やはりの。大体一人暮らしの学生の男の生活なんぞそんなものじゃろ」



 見抜かれていた。仕方ない、1日しっかりとここで働いた方がよさそうだ。まぁ、ゲームの中だし、腹が減ったりする感じは現実よりは軽くて済む。



「それじゃあ、俺は難をすればいいんだ?」

「それなんじゃよなぁ。巫女には掃除以外にも神社の様々なことを行うようになっておるから、今更お主がそこに入るというのはちと厳しいものがあるからのぉ」



 目の前で見えないが、狐が「ウヌヌ」と唸っている。姿が見えたらどんな風に見えるのか気になってしまう。首を傾げた狐が見えるのだろうか。



「……そう言えばさ」

「……なんじゃ?」

「弐の稲荷で『気配察知』を上限にすればお前が見えるとか言ってたけどさ、結局見えなかっただろ?アレの原因って分かったのか?」

「あぁ、アレか」



 狐は唸るのをやめてこっちに体を向ける。あの原因は少し気になっていたから分かっているのなら早く知りたい。



「アレはな、妾の勘違いであったわ」

「勘違いってどういう事だ?」



 「スマンの」と言ってくる狐に質問を投げかける。



「『気配察知』が上限になったらではなくて、その上位のスキルが一定のレベルを超えたら、妾の姿は見えるようになるのじゃ」

「上位スキル?」

「そうじゃ」

「それはどうやって会得できる?」

「特に条件などはなかったはずじゃが……よくある情報版とかには書いていなかったのかの?」

「ここに来る前に見たけど、そんなのなかったよ。そもそもまだ俺以外でスキル上限にいった人っているのかな?」

「一番先に進んでおる奴ならいっておるじゃろ」



 狐はそう言うが、情報版にはそんな記述はなかった。あれって進んで書く人とそうでない人がいるから、分からない情報もあるんだよなぁ。

 俺の場合は狐に聞いて『気配察知』を上限まで行かせたから、今度も狐から聞くのが一番手っ取り早いのは確かだ。でもこれって抜け道になってしまうのだろうか。



「抜け道か、そうでないかと聞かれれば微妙な所じゃな」

「微妙かぁ」

「まぁ、特に指摘されない限りは大丈夫じゃろうな」



 指摘されるというのが、今後あるのだろうか。俺のスキルのレベルを知っているのはアキハさん、シオンさん、ミロクの三人だけだが、あの三人から指摘されるというのはあまり考えられない。

 あぁ、そう言えばアキハさんからレベル上げの秘密を教えろとか言われていたな。今度会ったときにでも教えないと。



「なぁ、俺がお前から聞いた『気配察知』の上げ方、知り合いに教えても大丈夫か?」

「……まぁ、別にあれは何か違法行為をしているわけでは無いからの、何れ誰かが見つけるやり方じゃ。教えても問題なかろう」



 狐から許可も出たし、この浄化が終わったら連絡を取って伝えるとしよう。まぁ、まだ時間が1日あるから先の事だけど。



「なぁ、これから俺がやることってまだ決まってないんだろ?」

「そうじゃな、何をしてもらおうかのぉ。いまいち良い考えが浮かばん」

「それなら、浮かぶまでの間に『気配察知』の鍛錬していてもいいか?」

「まぁ、時間はあるから構わないが、お主鍛錬と言っても何をするつもりじゃ?」「何って……弐の稲荷の時と同じようにどこかで瞑想でもしようかと」



 特にすることがないのなら、今の内に出来るスキル上げをやっておこうと思ったのだが、弐の稲荷みたいな場所はないのかな、丁度いい時間つぶしだと思ったのだけれども。

 ダメかと思ったが、狐は「付いて来い」と言って拝殿を降りて参道の方に歩いて行った。それに付いていき、丁度参道の真ん中あたりで脇の竹藪に入る細い道があり、そこに狐は入っていった。

 あとに付いていくと、少し行った先に小さく開けた場所があり、狐は待っていた。



「ここなら参道の音も聞こえまい。ゆっくりと瞑想が出来よう」

「参道の音って言ってもそんなにあるとは思えないけど」

「時間によっては結構あるぞ。巫女が掃除の時など箒の砂利を掃く音は結構な音じゃ」

「……了解、ここで修業するよ」

「『気配察知』が上位スキルに変化したら戻って来い。妾も時々見回るが、邪魔にならぬように近くまでは来ぬ」



 そう言って狐は来た道を戻って行った。狐の気配が参道の方に行ったのを確認して、俺は地面に座って瞑想を始めた。






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