参の稲荷
“弐の稲荷”の参拝度が上限に達しました。達成報酬として“参の稲荷”の境内への跳躍が可能になりました。
狐に言われた通り、参拝する。二礼二拍手一礼をした後に目の前に通知が流れた。どうやら予想通りこの一回で弐の稲荷の参拝が終了したみたいだ。
「終わったかの?」
狐が聞きながらこっちへやって来る。頷きながら、目の前の画面の報酬の部分にタッチする。すると、本殿の脇に青く光る円柱が現れた。
どうやらアレが跳躍できるポイントみたいだ。弐の稲荷に行く時とは違った感じなので不安はあるが、アレ以外考えられないので、正解だろう。
「ポイントも現れたことじゃ。早いところ参の稲荷に行くとしようかの」
「お前もあのポイントで行くのか?」
「妾はアレを使わずとも移動ができる。アレを使うのはお主だけじゃ」
狐は使わずに移動ができるのか。まぁ思い出してみれば次の稲荷に行ったときにいつの間にか狐はいたから疑問だったが、そういうことだったのか。
「んで、参の稲荷に行けるようになったけど、これからどうするんだ?」
「察しが悪いの。参の稲荷に行ってやることがあるんじゃ」
「やること?」
「お主の装備をどうにかするんじゃろうが」
狐に言われ、そういえば最初の目的はそれだったなと思い出す。いきなり参拝して来いって言われたから忘れていた。
おそらく俺は納得したという感じの顔をしていたのだろう。それを見た狐はなんだか呆れたような雰囲気を出していた。
「取りあえずさっさと参の稲荷に行け。話はそれからじゃ」
狐に急かされるようにポイントの中に入る。入った途端目の前が青く光り、それで視界全体が埋め尽くされた。
……。
…………。
「おぉ、来たか。こっちじゃ、付いて来い」
狐の声が聞こえたと思ったら、目の前が開けた。青い光が収まった後に見えたのは壱の稲荷や弐の稲荷とは比べ物にならない程、綺麗な神社だった。
弐の稲荷が壱の稲荷を少し綺麗にした感じであったのを見て、自分の中では参の稲荷も、弐の稲荷を大きく綺麗にした程度だろうと思っていたら、それをはるかに超えるレベルの神社が出てきた。
「……これは、凄いな」
跳躍ポイントは本殿のすぐ近く、参道から少しずれた場所に設定されているみたいだ。斜めから本殿を見ただけでも弐の稲荷とは比べ物にならない。弐の稲荷が町の小さな神社というのに対して、参の稲荷は県で一番大きな神社といった具合だ。 弐の稲荷は本殿だけであったが、参の稲荷には拝殿がある。おそらくその後ろに本殿があるのだろう。
参道の方を向けば、きちんとした手水舎になんと神楽殿まである。続いている参道の先に赤い鳥居が見える。結構な距離がありそうだが、それでもしっかり見えているとなると、近くで見たら結構な大きさなのだろう。直前の稲荷とは偉い差だ。 神楽殿で踊られるのはどういったものなのか興味があるが、ここに俺以外の人が来るのはまだ先の事だろう。
「どうしたボーっとして。早く来い」
狐に急かされ、視線を拝殿の方に向ける。なんとなく空気が歪んでいる部分が目の前にある。多分そこに狐がいるのだろう。
「いや、弐の稲荷とはだいぶ違うから見入ちゃって」
「まぁ、確かに差はあるがの。これに気おくれしていては終の稲荷では耐えられんぞ」
「まだ、でかくなるのかよ」
狐に言われ、まだあと一つ神社が残っているのを思い出す。まぁそれを見るのはまだ先だから今は置いておくことにしよう。
「……そう言えばさ」
「なんじゃ?」
「手水舎があるから、洗ってきた方がいいか?」
手水舎を指さしながら狐に尋ねる。アレを見るとやった方がいいのだろうかという気持ちになる。
「前の稲荷でもあったがお主やっておらなかったじゃろ」
いや、まあそうなんですけど。今の位立派なものだとちょっとやらなきゃという気持ちになる。
「……まぁ、一応やってきた方がいいじゃろう。ほれ、行って来い」
狐に言われ、手水舎まで行く。近くで見るとゲームだとは思えない程リアルだ。水もしっかり流れていて触った感じも現実には劣るが、水を触っている感じがすごく出ている。
「すげぇなこれ。リアルすぎるだろ」
「何やっておる。早くせんか」
感動していると後ろから急かされたので、急いで手を口を漱いで戻る。
「清めてきたか?それなら拝殿に行くとしよう」
「拝殿に行ってどうするんだ?」
狐は答えずに先に歩いていく。仕方がないのでそれに付いていくと拝殿の脇の建物から階段を上がり、拝殿の中に入る。中は外から見た感じと違わず、豪華でしっかりとした造りだった。
「お待ちしておりました」
突然、脇から声がかかった。何事だと思って見て見ると、いつからそこにいたのか巫女さんが一人立っていた。え、誰?
「何をボーっとしておる。先に行くぞ」
「いや、待てよ。この巫女さんは?」
「ん?あぁ、これか。これはただのNPCじゃよ。この神社が行える事のサポートをするための存在じゃ。決められた行動をするしかない」
「へぇ、それでこの神社が行える事って?」
「……いくつかあるが、今お主に関係するのは“アイテムの浄化”かの」
「ん?アイテムの浄化って……」
俺の装備欄に入っているこの“薄く穢れた刀”も出来るのだろうか。
「そうじゃよ。お主のその装備欄を埋めているやつをどうにかするんじゃよ」
「それは弐の稲荷じゃ出来なかったのか?」
「出来ていたら弐の稲荷で言っておるわ」
確かに狐の言う通りだ。俺の装備をどうにかする為に参の稲荷まで来たのか。
「早く言わなかった妾にも落ち度はあるが、すぐに感付いてもよかっただろうに」
そう狐はぼやくが、それは無理ってもんだ。このゲームの神社にそんなシステムがあったなんて聞いてない。
それにまだ誰も来ていない参の稲荷に行って感付けなんて言うもの無理だ。俺の顔を見て言う気がなくなったのか、溜め息を一つ付くと「この先じゃ」と言って歩き始める。
狐に付いていく際に後ろを振り向くと巫女さんはさっきと変わらない場所に微動だにせずに立っていた。
「ついたぞ」
狐に言われてやってきたのは拝殿の奥に行った場所。目の前には祭壇があった。この場所に祭壇があるのが正しいのか間違っているのか分からないので黙って狐の言う事に耳を傾ける。
「さて、この祭壇に浄化したいアイテムを納めるのじゃ」
言われた通りに祭壇に近づくと、メニューが表示される。アイテムを選択という画面が出てくるが、この穢れた刀も選択出来るのか不安になったが、そんな心配をよそにちゃんと選択肢の中に刀も入っていた。
と言うか、この穢れた刀しか選択欄の中に入っていなかった。当然と言えば当然で、まだこの刀以外浄化が必要なアイテムは持っていない。
「選んだか?選んだなら早いところ決定して、浄化を開始するんじゃ」
狐に言われるまでもなく、刀を選択し、浄化のコマンドを選ぶ。
すると浄化を開始します。というメッセージと共に残り時間だろうか、隣に時間が表示された。しかし、12時間とは結構な時間だ。
「浄化を開始できたよ。でも12時間って結構待つな」
「まぁ、仕方なかろう。気長に待つしかあるまい」
残り時間なにをしていようか悩むが、ふと画面に出ている時間の下に何かメッセージが出ていることに気付いた。
「何々、神社の主に貢献すると時間が短縮されますか……貢献って何をすればいいんだ?」
よく分からない文章だったが、時間が短縮できるとなればやらない手はない。
「あぁ、これなら参道や拝殿の掃除とかすればいいじゃろ」
下から狐の声が聞こえてくるが、なんでお前がそんなことを言うんだ。神社の主って言うと祀られている神様の事を言うんじゃないのか?
「何を不思議そうな顔をしておる?」
「いやだってさ、なんでお前が貢献について話しているんだ?そういうのはここに祀られている神様がいう事なんじゃないのか?」
まぁ、神様が話しかけてきたら驚きだけどな。
「神様が言うって……妾が祀られている神様なんじゃけどな」
……。
…………。
………………え?
「お前ここの神社の神様だったのか」
「そうじゃよ。言っておらなかったか?」
狐からのカミングアウトで俺はしばらく固まってしまった。