埋まった装備欄
鎧餓鬼との主戦から一夜明けて、俺は弐の町で昨日一緒に戦った人たちを待っていた。昨晩弐の町に入った時にお昼過ぎにもう一度集まろうという事になり、その場で解散した。
約束の時間には少し早いが、遅れるよりはいいだろうと俺は待ち合わせ場所の弐の町の広場に来ていた。
「……弐の町はそんなに壱の町と変わらないな」
見た感じ、少し町の規模が大きくなっている位だ。まぁ、人は増えているから活気という面では壱の町と違いが出てくる。
攻略が進めば先に出ていた町はどんどん過疎化が進んでいくのだろうか。そのうち壱の町が廃屋敷とかが立ち並ぶ状態とかになったらそれは見てみたい気がする。
「やっほ。来ているのはミコト君だけ?」
「あぁ、アキハさん。そうですね、アキハさんが二番目です」
気が付けば目の前にアキハさんが来ていた。「考え事でもしてた?」というアキハさんの言う通り、考え事で前を見ていなかった。「やっぱりね」と笑いながら言う彼女に少し照れてしまう。
「今日は何をする予定何ですか?」
「予定としてはミコト君とミロクに弐の町を案内するつもり」
弐の町を見て回るというアキハさんの答えに質問してみる。
「弐の町って壱の町と何か変わった点ってあるんですか?」
聞くとアキハさんは何とも微妙そうな顔をした。うまく口に出来ない、そんな顔だ。
「あたしも全部を見たわけじゃないからうまく言えないんだけど、多分壱の町と大きな変化はないと思う」
「なんか見た感じそんな印象ですね」
「脇道とか行ってもあまり変わらなかったしね」
「じゃあ、壱の町がそのまま大きくなったと思えばいいんですかね?」
「たぶん、その認識でいいとんじゃないかな」
どうやらアキハさんも俺と同じような感想を持っていたらしい。実際に俺は見て回っていないが、俺より先に弐の町に来ているアキハさんが言うのだから、まぁ間違ってはいないだろう。
本人は「シオンに聞いたら違うこと言うかもしれないけど」と苦笑いをしているが、その顔も綺麗なので問題はない。まぁ、本人に言うつもりはないが。
「あとはミコト君の装備を見に行かないとね。太刀壊れたヤツ以外持ってないんでしょ?」
アキハさんの質問に頷く。忘れていたが、自分の新しい装備を見に行かなくてはいけないのだ。
「……でも装備ってどれくらいの値段なんですかね。俺あんまり金持ってないんですよ」
装備のことで思った疑問にアキハさんは首を傾げた。
「どうだろう。あたしはまだ買ったことないから分からないけど、普通に考えてまだ弐の町なんだからそんなに値が張るなんてことはないと思うよ」
なんとなく自信のない答えだったが、当然と言えば当然だ。おそらくこの時点で武器が壊れて新調しないといけない事態になったのは俺くらいだろう。
「まぁ、取りあえずは店に行ってみようよ」
その声に頷く。一度店を見て見ることが重要か。隣でアキハさんが「お金が足りなかったら草原での資金集め手伝うよ」と言ってくれている。その時は是非お願いしよう。
しかし、シオンさんと、ミロクはまだ来ないのかな?
「二人は遅いですね」
「そうだね。ミロクはともかく、シオンが遅いっていうのは何か別な用事でも出来たのかな?」
「それなら、何か連絡とかないんですか?」
「うーん、ないかなぁ。それにシオンってそういう連絡普段からあまりしないんだよね」
「へぇ、キッチリしてそんな感じを受けたんですけどね」
「大部分についてその認識は間違っていないと思う。けどあの子変な所で抜けてるんだよねぇ」
溜め息をつくアキハさんの横でシオンさんの意外な一面を知る。静かな印象の人だったから意外といえば意外だ。
まぁ、あと少しで来るんじゃないかな。約束を破るような人ではないだろうし。
「あれ、ミコト君じゃん。どうしたのこんなところで?」
声をかけられ、振り向くと久しぶりに見る。と言ってもそれほど期間は空いていないが、リリンさんがいた。隣にサクヤさんの姿はなく、今日は一人のようだ。
「いや、友人と待ち合わせしていて」
「そうなんだ。あ、私リリンって言います」
「あたしはアキハです」
理由を尋ねたリリンさんはすぐに隣のアキハさんと自己紹介をした後話始めた。 なんで女子ってこういう風にすぐに話せるのか疑問だ。女子二人で会話が続いている間、周りを見回してみる。相変わらずシオンさんとミロクの二人らしき人は見えない。
二人の会話が終わったら、アキハさんに連絡を入れてもらった方がいいのかもしれない。
「ミコト君、武器壊れちゃったんだってね。大丈夫?」
リリンさんが聞いてくる。なぜ知っているかはおそらくアキハさんから聞いたのだろう。
「えぇ、それでこれから武器を見に行くつもりなんですよ」
答えると、リリンさんは微妙そうな顔をした。何か問題があるのだろうか。
「うーん、武器屋はあるにはあるんだけど、まだゲームが始まってあまり時間経ってないから、初期装備と大差がない武器しかないんだよね」
やっぱり、最初の時はそういうものなのだろう。まぁ、壊れた武器も初期装備のやつだから、もう一度新しいやつになっても、特に支障はないだろう。これが苦労して強化した武器なら話は別だが……
「そうだ。一度ミコト君の装備見してよ。私も一応生産職側だから、ちょっと意見出せるかも」
リリンさんの提案に乗って、彼女に自分のステータスを見せる。確かに彼女から意見が聞けるのはアキハさんとは違った視点から見てくれるかもしれない。
「えーと、武器がどんな感じになっているのかなぁ…………あれ?」
画面を見ていたリリンさんの表情が変わる。何かおかしな点でもあったのだろうか?
「ミコト君、君の装備欄埋まってるよ」
「え、そんなはずないですよ。だって唯一持っていた武器が主戦で壊れたんですから」
「でも、見てごらん。装備欄に武器が入っている」
言われて、自分でも確認してみると確かに彼女の言う通り、装備欄には“薄く穢れた刀”が入っていた。いつの間に入ったのだろうか?
「ホントだ。ミコト君いつの間に入れたの?」
隣でのぞき込んでいたアキハさんから聞かれるが、身に思えがない。でも俺以外装備できる人なんていないから、どうしたものか。
「あれ、これ外せない」
「「嘘!?」」
取りあえず装備を外そうとしたら、エラーの表示もともに外せなかった。こんなことってあるのだろうか?
「いや、そんなこと私も見たことないよ」
「あたしもない。でもゲームでよくある“呪いの武器”とかってこんな感じだよね」
軽い感じでアキハさんが言うが、おそらくその言い方が一番あっているのかもしれない。しかし、これは買い物どころじゃないな。
「アキハさん、俺一度宿に戻ってどうすればいいか調べてみます。申し訳ないんですけど、先に帰りますね」
「そうだね、買い物どころじゃないから、二人にはあたしから言っておく。でもどうやって調べるの?」
「取りあえずは情報版をあたることにします」
「それしかないか。分かった、何かあったら連絡してね。手伝えることがあれば協力するよ」
アキハさんに礼を言い、リリンさんにも別れを告げて、広場を後にして、ほかに相談ができそうな場所。『弐の稲荷』に向かうことにした。
……。
…………。
アキハさんと別れた後、俺は狐の所へ向かっていた。
この武器の固定状態について狐なら何か知っているのではと思い、アキハさんに別れを告げて『弐の稲荷』までやってきた。
「そういえば、町からちゃんと入るのはこれが初めてか……」
今までは稲荷の報酬で入ってきていたから、鳥居の先に見えるのは何度も見たことのある景色なのに、新しさを感じてしまう。
「戻ってきたか。どうやら主を倒せたようじゃの」
鳥居をくぐると本殿の方から狐の声が聞こえてくる。相変わらず姿は見えないが、近づいてくる気配は分かる。
「何とかな。でも稀主が出てきて大変だった」
「ほぅ。最初から稀主を引くとはお主は運が良いのか、悪いのか…………」
狐は言いかけて、俺と少し距離を開けて止まった。なぜ止まったのか疑問に思ったが、止まっている狐の雰囲気が悪くなっていた。
「どうかしたのか?何だか雰囲気が変だぞ」
「変にもなるわ。お主一体何を装備しておる?」
「装備って……稀主からドロップした武器。でもこれ戦闘に使えないのに装備扱いになっていて、しかも外せないんだ。どうにかならないか?」
「外せない装備か。……お主から来る嫌な気配はそれじゃろうな」
「装備している俺や友人たちは何も言わなかったけどなぁ」
「それはお主らの『気配察知』が低いからじゃろ」
「…………一応レベルは上限まで行ったんだけどな」
「上位スキルを手に入れれば分かる」
「上位スキルなんてあるのか?」
「お主ならそのうち解禁されるじゃろ。その時まで待てばよい…………それで何の用じゃったかの?」
「だから、この装備をどうにかしたいんだ。何か知らないか?」
「まぁ、そういう事なら…………あまり人目につかん方が良いじゃろ。付いて来い」
そう言って狐は身を返して本殿の方に向かっていく。その気配を追って本殿まで行くと、本殿の脇から「こっちじゃ」という声が聞こえた。声のした本殿の脇に行くと、中々の大きさの木が一本生えていて、その木の根本に狐の気配がした。
「少し話すことになるじゃろうから、お主も座って聞くが良い」
声に促されて根本に腰を下ろすと、狐は話し始める。
「さて、まず何から話すとしようかの。お主、まず最初に何が聞きたい?」
「……主を倒す前に色々と聞きたいこともあったけど、まずはこの装備について聞きたい」
「お主の装備は見ての通りじゃ。穢れを祓わなければ、意味もないものがずっと装備されて、場所を取る」
「どうにかする方法はないのか?」
「まぁあるにはあるが、今はまだ行うことが出来ないの」
狐の言葉に愕然とする。俺はしばらくこのままの状態で過ごさなくてはいけないのか。
「……何やらショックを受けているようじゃが、そんなに悲観することもないぞ」
「なんでそんなこと言えるんだよ?」
狐がそんな風に言ってくるが、俺にはそうとは思えない。このままでは戦闘を行うことが出来ない。
それはこの世界では成長できないことと同じだ。そう言えば、アキハさんが徒手スキルがどうとか言っていた。あれはこの状態でも使えて、習得できるのだろうか。出来るなら覚えて何とかしたいものだ。
「……色々と考えているのは分かるが、妾は今は出来ないと言ったのだぞ。時期が来れば問題はない」
「その時期っていうのはいつ頃なんだ?」
「お主、稲荷参拝のクエストはどれ位まで進んでおる?」
狐の質問にメニューを開いて確認すると、おそらくあと一回で「弐の稲荷」の達成度が百パーセントになる感じだった。
「たぶんあと一回お参りすれば、弐の稲荷は完了しそう」
「なら、早く弐の稲荷を完了して来い。そのあとにすることを話してやる」
思ったより弐の稲荷の進行度があったのか、狐は驚いた声を出しながら言ってきた。
しかし弐の稲荷を達成しても、次にあるのは壱の稲荷の時と同じように参の稲荷への直通ルートが解放されるだけではないのか?
「不思議そうな顔をしておるな。まぁ、言いたいことはあるかもしれんが、取りあえず早く参拝して来い」
そう言われては参拝するしかない。狐に言われた通りに参拝するために、狐を木の下に待たせ、本殿の正面に向かうことにした。
ありがとうございました。




