表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

三度目の正直ー1



 俺が先頭で林の中に入る。入るのと同時に向かい側から鎧餓鬼が出てくる。

 こんな短時間に三回も同じ主と戦う事になったのはまだ俺位のものだろう。

 全員で武器を構えると、餓鬼の方も戦闘態勢に入ったのか、纏っている空気が変わった気がした。



「最初の一撃任せたからね」



 後からアキハさんが声を掛けてくる。それに振り返って返事をしている余裕はないので、前を向いたまま頷く。

 餓鬼の足が一歩前に出たかと思うと、頭の上から何か嫌なモノが来る感じがしたので、急いで太刀を構えると、次の瞬間に構えたところに餓鬼の刀が振り下ろされてきた。



「っつ!」



 刀同士がぶつかった瞬間に来る衝撃で思わず膝が沈む。



「早っ!」

「なんて速さ」



 と後ろの二人から驚きのつぶやきが聞こえるが、早い所攻撃をしてほしい。攻撃を受けとめたのは良いが、腕が辛い。

 俺の気持ちを察してくれたのか、二人が行動を開始した。お互いで餓鬼の左右の胴に向かって太刀と刀で斬りつけた。



「……効いてる?」

「コイツ堅くない?」



 だが、二人が斬りつけた場所の鎧には傷一つついていなかった。攻撃は効かなかったが、二人の攻撃によって俺に対してあった刀の重みが少し薄らいだ。

 その瞬間で餓鬼の腹に蹴りを入れると、餓鬼は刀を引いて後ろに下がっていったので、一呼吸入れることが出来た。

 俺の蹴りもダメージは入っていないようだが、一度引かせることには成功したので、なんとか初撃は乗り切った。

 隙を見せないように餓鬼と向かい合っていると、両脇にアキハさんとシオンさんが戻ってきた。



「コイツ本当に壱の主?堅すぎ」

「これは絶対に普通の主じゃない」



 アキハさんがぼやき、シオンさんは確信したという感じで言う。



「やっぱそういう物なんですかね」

「だってあたし達が戦ったのって野兎を大きくした奴よ。こんな奴が出てくるなんて情報聞いたこともない」



 俺が事前に調べた主の情報もそうだった。掲示板のどこを見てもこんな奴の話は出ていなかった。



「シオンさんこういう敵って普通出てくるものなんですかね?」

「他のゲームとかでも、一定の確立で裏ボスが出てくるってのはよくある。多分今回もそのパターンだと思う」

「でもさ、それにしたってコイツ強すぎじゃない?」



 シオンさんの説明にアキハさんが突っ込む。経験者の二人が言うのだからこういうパターンもあるのだろう。



「まぁゲームデビューで裏ボス引いたミコト君が運がいいんだか、悪いんだが」

「そんな軽く言わないでくださいよ。これでももう二回断念してるんですから」



 アキハさんの言葉に思わず反応すると、彼女は「ゴメン、ゴメン」と笑いながら言ってくる。今はそれに対して言っている場合じゃないのでここで引いておく。



「しっかし、どうするかねコイツ。固くて攻撃が効いてる気がしないよ」

「相手の体力が減ってるって分かるんですか?」

「そういうスキルがあるらしいけど、あたしもシオンも持ってないしね。ミロクも持ってないでしょ?」

「アンタ達より低い階級なんだから持ってるわけないよ」

「そうだよねぇ。コツコツ地道に攻撃を当てていくしかないかぁ」



 ぼやくアキハさん。反対側のシオンさんは無言で餓鬼を見つめたままだが、どう攻めるか考えているみたいだ。

 しかし、こっちがずっと話している(視線は餓鬼から離していないが)のに向こうさんからは一向に攻撃してくる気配がない。なんでだ?



「こっちの攻撃モーションとかに反応して動き出すようにとかに設定されてるんじゃない?」



 とアキハさん。まぁ何でもいいが向こうから攻撃してこないのはありがたい。でもどうやって攻めたらいいのか。いきなり躓いてしまった。



「……よし、出来た」



 後でミロクが何か言っている。何が出来たのだろうか?



「これから餓鬼との間に式神を召喚するから。それらに餓鬼を攻撃するようにしてあるから、アイツの注意がそれている間にこっちから攻撃出来ないかな?」



 成程、囮を使っての攻撃か。いいかもしれない。



「ミロク、その式神はどれ位餓鬼の攻撃に耐えてくれる?」



 気になったことを聞くと、横でアキハさんも「あたしも気になるな」と続く。



「うーん。多分一撃でやられると思う」

「マジかぁー」



 ミロクの答えにアキハさんがつぶやく。



「でも、一撃あれば少しの隙が出来るかもしれない。一度試してみない?」



 横からシオンさんが言う。物は試しだし、やってみるのもいいかもしれない。



「了解、それじゃ行くよ……3、2,1……行けっ!!」



 ミロクのカウントがなくなった瞬間に三人で前へ駆け出す。真ん中で直進が俺でアキハさんとシオンさんは左右から少し回り込む形で餓鬼に接近する。

 俺たちの接近で餓鬼も攻撃の動きを見せるが、その前の地面に良く分からない陣が現れて、そこから小さな餓鬼と言うより子鬼と言った方がいい小さな式神が出てきた。

 俺に向かって攻撃をしようとしていた餓鬼は突然目の前に出てきた新手に対して、一度動きを止めたが、すぐに反応して斬りつける。その斬撃に子鬼は紙切れの様に一瞬で消えてしまった。ミロクの言った通り、一撃でやられてしまった。

 だが、その一連の動きの時間で左右の二人は攻撃出来る距離まで来ていたようで、まず左からシオンさんが刀を鞘から抜く動作で餓鬼の右腕を斬りつける。

 その攻撃によって止まった餓鬼に対して右から来ていたアキハさんが、掛け声とともに太刀を餓鬼の頭めがけて大上段から振り下ろす。

 腕に攻撃を受けて動きが止まっていた餓鬼はアキハさんの攻撃をまともに喰らった。スタン効果もあるのか、餓鬼は膝を地面につけて動きが止まっていた。

 そこに真正面から俺が“幹竹”を発動しながら太刀を振り下ろす。これもしっかり餓鬼の頭に入った。三人の攻撃がしっかりと入ったのを確認しつつ、餓鬼の後ろに駆け抜ける。

 何時の間に移動したのか餓鬼の正面に居たミロクも俺達を同じ餓鬼の後ろ側に周りこんでいた。餓鬼の後ろでもう一度俺を先頭とした形になって、一度様子を見る。見たところ餓鬼はまだ地面に膝をついたままだ。もう一度攻撃出来ないものか。削れるのなら、ここで奴の体力を削っておきたい。



「…………やったか?」

「ミコト君!それはっ…………」



 口から出た言葉に、隣でアキハさんが焦ったように言う。後ろでもミロクが「それはフラグ……」と言っている。それに反応するように膝をついていた餓鬼が立ち上がり、此方に振り向く。

 さっきの一連の攻撃で仕留められていなかったようだ。



「ところで、アキハさん。さっきの反応は何なんですか?」

「いや、何なのって言われても……ミコト君フラグって知らない?」

「あぁ、アレですよね。攻撃を決めた時に“やったか”とか言っちゃって、敵が立ち上がってくるや……つ……………あ」



 アキハさんの質問に対して答えていると同時に、自分がさっき言った言葉を思い出すゲームなので、汗が出てくる事は無いが、背中に汗が流れている感じがした。 えぇ、思いっきりフラグです。という事は餓鬼が復活したのは俺のせい?



「さすがにそれはないと思うけど、今の発言はちょっとタイミングが良すぎたというか……」

 


 アキハさんの言葉にシオンさんも頷き、後ろのミロクも「そうだねぇ」と言う。 俺のせいではないみたいだけど、何か自分がやってしまったみたいで申し訳ない。



「……みんな、主の様子が…………」



 シオンさんの言葉で餓鬼を見て見ると、確かに様子がさっきとまでとは違っていた。

 こちらに振り向いた餓鬼の頭の兜が割れて地面に落ちた。さっきの攻撃で兜にはダメージが通っていたみたいだ。しかし、兜の下の餓鬼本体には聞いた様子はない。そして餓鬼の体から、何やら湯気みたいなものが出ていた。



「なんか湯気みたいなの出てきてませんか?」

「まぁ、湯気にも見えなくはないけど、多分ああいうのって怒り状態みたいなやつじゃないのかな?」



 隣のアキハさんに聞くと、微妙そうな顔で答えてくれた。しかし怒り状態だと、どうなるのだろうか。



「多分、さっきより攻撃が早くなると思う。ミコト君、防げる?」

「どれ位早くなるかによりますけど、さっきの攻撃はまだ若干余裕ありました」



 シオンさんの質問に答えるが、さっきより早くなると、正直持つかどうか。気持ちを切り替えて餓鬼を見る。

 餓鬼は刀を右手に持ち、切っ先を引きずりながらゆっくりとこちらに向かってくる。さっきまでの攻撃と違って、戸惑った瞬間に餓鬼が一気に距離を詰めてきて、刀を振り下ろしてきた。

 突然の事で体の反応が遅れたが、何とか太刀を掲げて、攻撃を受けとめようとしたが、刀と太刀がぶつかった瞬間。

 甲高い音がして、俺の太刀が折れた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ