林の前で
久しぶりの投稿です。
シオンとアキハと名乗った二人はパッと見たところ俺と同じぐらいの年に見えた。
シオンは物静かそうな印象を受ける。さっきの挨拶の時もあまり声を出していなかったから、実際にその通りなのだろう。クールビューティーという言葉がぴったりな印象だ。
それに対してアキハは何だか部活の先輩に居そうな活発な印象だ。挨拶だけでもその印象が強い。シオンが黒のロングにたいしてアキハは茶のショート。見ていて対照的な印象だ。
そして、見たところ二人とも俺と同じ職の様な印象を受ける。当然二人の方が先に進んでいるので、装備に関しては当然良い物だ。見た目に関しても違いが出てくる。男女の違いはあるだろうが、俺の道中袴が足首で脚絆でまとめているのに対して二人の袴はまとめておらず、普通に街中で見れる袴だ。上半身についてはあまり変わりは見えないが、恐らく俺よりは性能の良いものだろう。
そして武器がアキハの物は俺と同じ様な太刀だったが、抜身のまま背中に装備していることから、俺より良いものなのだと思う。抜き身で背負っていて大丈夫なのかと思ってしまうが、平気そうにしているので大丈夫なのだろう。
一方でシオンは俺の様な太刀ではなく、きちんとした日本刀だった。しっかりと脇差までついた二本ざしである。壱の町に居るプレイヤーには見れなかった装備だ。きっと弐の町で作れるのだろう。
「……あの私たちの装備について何か聞きたいことがあるの?」
「えぇと……その日本刀は弐の町で作れるようになるのかなと……」
「そう、壱より施設が充実しているから、レベルが足りているのならば、職人に作ってもらえる。」
それは良いことを聞いた。俺も早い事弐の町に行って作ってもらうとしよう。
「なぁ、そんなことは良いから、早い所主のところに行こうや。何でもあたし達が倒した主じゃないんだろ?」
横からアキハが声を上げる。そう言えば、四人で主を倒しに行くのが目的だった。アキハの隣でシオンも、そう言えばと言う顔をしていた。
「それじゃあ、移動しながら話はしようか」
アキハの声掛けで俺たちは草原に向かう事にした。
…………。
…………。
「そう言えば、一ついいですか?」
草原に向かっている最中に一つ気になったことがあったので、言い出してみると三人が歩きながらこっちを向いてきた。
「今回主と戦う時はまた俺がパーティーの頭でいいんですかね?」
俺の質問に三人は「何当たり前のことを言っているんだ」と言うような顔をしていた。それを見て続ける。
「いや、シオンさんとアキハさんは俺より階級が上じゃないですか。その場合パーティー組めるのかなって思って」
そう言うとシオンさんとアキハさんが「そういう事ね」と言う。どうやら伝わったようだ。
「それについてはあたし達が承認すれば何も問題はないよ」
「そうなんですか。スイマセン、変な事聞いて」
「全然変な事じゃないから大丈夫だよ。普通は階級が低い人が頭をやるってのが、あまりない状況だからね。それに聞いた話、ミコト君ってこういうゲーム初めてなんでしょ?」
アキハの質問に頷く。
「なら、しょうがないよ。今まで経験のない事なんだからさ。気になったらドンドン聞いてよ。答えられる範囲なら答えるからさ」
笑いながら気さくに行ってくれるアキハさんの心遣いがとてもありがたい。これで気軽に質問できるようになった。そう思っていると、「あぁ、でも」とアキハさんが続ける。
「マニュアルに書いてあることは自分で空いている時間にでも読んでおいてね。そこまで答えるの面倒だし」
何でも聞こうと思った矢先に釘を刺された。でも、俺が何も読んでいないことをどこで知ったのだろうか。チラリと横にいるミロクを見ても「ん?」と言う表情をしている。一体誰がアキハさんに言ったのだろうか。
「……もしかしてミコト君、このゲーム始める時に何も読んでいなかった?」
「ええ、そうですけど。ゲームは取説見ないでやるタイプなんで」
アキハさんに答えると、彼女は「あちゃー」と言って続ける。
「なるべく読んでおいてね。戦闘で何があるか分からないし、今回はあたし達でフォローするから、次は気を付けてね」
「すみません」
注意に対して頭を下げると、アキハさんとシオンさんが「気にしないで」と言ってくれた。申し訳ないから、宿の部屋に戻ったらちゃんと読んでおこう。
「……着いたよ。ミコト君申請お願い」
いつの間にか主がいる林の前に着いていたようだ。シオンさんの声で気付く。話しているとあっという間に着いてしまった。彼女の言うようにパーティー申請を三人に送るとすぐに承認されて、四人でパーティーが編成された。
そう言えばこのパーティーは最大で何人まで編成出来るのだろうか。後で確認しておこう。
そしてパーティーを組んだことで他の三人の能力を限定的にだが、見る事が出来た。やっぱりアキハさんとシオンさんはまだ階級が二十を超えていない俺に比べて高く、アキハさんが二十六、シオンさんが二十七と俺と十近く差がある。その一方でミロクは十七と今十八の俺と大して変わらなかった。
職業についてはアキハさんは荒武士、シオンさんが侍。この二人の職業はおそらく俺の職業である野武士からの派生だろう。階級も高いし、職業も上位種だからこれは期待できそうだ。編成が済んだところで、話し合いに入る。幸い今の時間は俺達以外に主に挑んでいる人達はいないみたいだ。まぁ、こんな深夜に主戦に行く人はそうそういないだろう。おかげでじっくり話し合いが出来る。
「それで、私達が見たことない主はどんな感じの主だったの?」
最初にシオンさんが聞いてくる。どうやらミロクはまだ詳しいことは言ってないみたいだ。
「俺達が戦った主は鎧を着た餓鬼でした」
「大きさは?」
「大体二メートルですかね。見た目は鎧を着ている以外は草原で出てくる餓鬼と同じでした」
「成程ね。攻撃のパターンはどんな感じだった?」
シオンさんに続いてアキハさんも聞いてくる。
「そうですね……。二回とも勝てないって分かった所ですぐに“死に戻り”をしたんで、全部の攻撃パターンは見てないんですけど、基本手に持った太刀での攻撃でしたね」
「そっか、直接攻撃のパターンか」
「でも、もしかしたら体力に関係して攻撃のパターンが変わるかもしれない」
二人が話しているところを見ながら、ふと思う。この人達は“気配察知”のレベルはどれ位なのだろう。
「あの、二人は“気配察知”はどれ位まで上げているんですか?」
「“気配察知”?あたしは確か30くらいだったかな。シオンは?」
「私は今28。でもどうしてそんなことを聞くの?」
シオンさんが少し首をかしげて聞いてくる。恐らく本人は無意識にやっている事なんだろうけど、それが可愛いと思ってしまう。勿論それを口に出すことはしないが。
「鎧餓鬼の攻撃が結構速いんですよ。“気配察知”が低いと回避できないくらいなんで一応聞いておきたかったんです」
「そういう事ね。でもそんなことを聞くってことはミコト君は結構レベル高いって事?」
アキハさんが聞いてくる隣でシオンさんも頷いている。
「えっと……、俺のレベルは一応上限まで行ってます」
そう答えると二人共「嘘でしょ!」と反応してきた。嘘ではないのを証明するために自分のステータスを可視化して見せると驚いた様子だった。
「私達より階級は低いのにこれだけレベルが違うのは何か不自然」
「確かにね。ミコト君何かツール使ってるなんて事ないよね?」
二人から疑うような目で見られてしまう。二人に見せたのは失敗だったかなと思いながら、急いで弁明する。
「ツールなんて使ってませんよ。ただこのゲーム始めて最初の頃にいいレベル上げの方法を見つけたんです。確認したら違法じゃないって言うんで、そこでずっとレベル上げしていたんです」
「違法じゃないって言うのならいいけど。あまり階級に合わないスキル上げはしない方がいい。不審に思われることが多いから」
「そうだね。あたし達も黙っておくから、気を付けなね。そうそう口止めとして後であたし達にもそのレベル上げの方法教えてよね」
シオンさんから注意を受けた。今度から気を付けなくては。隣で黙ってくれるというアキハさんに感謝するが、最後にしっかり口止めを約束されてしまった。
悪戯そうに笑うアキハさんはシオンさんとは違った意味で綺麗だと思いました。 でもあの神社はそんなに人が入って大丈夫なのだろうか。後で狐に聞いておいた方がよさそうだ。
「“気配察知”が結構高いレベルが必要なら、一番前はミコト君が担当して敵の攻撃を受けるのがいいのかな?あたし達だと、直撃を貰う可能性があるかもしれないし、ミロクが下手をすると一撃でやられる可能性もありそうだしね」
「それには賛成。三人と違って私は耐久が低いから確実に一撃でやられちゃう。それにみんなみたいに“気配察知”上げてないから、まだレベルが一桁なんだよね」
アキハさんの提案にミロクが賛成を示す。確かにミロクは一番後ろから戦うしかないな。
「そうね。ミコト君が受け止めている間に私とアキハで脇から攻撃するのが一番安定しそう」
シオンさんも賛成をする。残るは俺だけと三人が見てくるが、当然俺も頷いて賛成する。これが今考えられる一番確実なプランだろう。
「よーし、それじゃ作戦も決まったことだし、張り切っていきますか!」
アキハさんの声に皆で判事をして、俺達は主が待つ林に入った。
読んで頂きありがとうございました。