待ち合わせは噴水前で
ほぼひと月遅れですが、新年最初の投稿です。
「………」
目が覚めて、体を起こす。目に入るのは殺風景な宿の一室。つい先程も同じ景色を見たばかりだ。
まさか、こんなに早く同じ景色を見るとは思っていなかった。しかも、この部屋に来る手順まで同じとは、なんだか何とも言えない気分になる。
「そう言えば、噴水前にとか言っていたな。」
餓鬼にやられる前にミロクがそんなことを言っていた。恐らく、そこに知り合いも連れてくるのだろう。初対面の人たちだから早めに行っておこうかな。
「……持ち物に変化は………無しか。」
ベッドから出て、メニューを確認する。今回も持ち物に変化は無し。ミロクが言っていたようにペナルティは無いみたいだ。
まぁ、三回目からはどうなるかは分からないが、出来たらもうこんな戻り方はしたくない。あまり気持ちのいいものではないからな。
………。
噴水前に来てと言われていたが、俺はまだ噴水を一度も見たことがなかった。
ミロクは当たり前の様に言っていたが、ちゃんと聞いておけばよかったかな?まぁ聞く時間も無かったと思うから、仕方がないのかもしれない。
「さて、取りあえずは広場に行って確認してみるか。」
一人呟いて広場へと足を向ける。プレイヤーが泊まる宿は広場から続く道から伸びている道にあるから、まずはその通りに出れば、『壱の町』の全体が見えるだろう。
「そう言えば、狐の方はどうなったかな……。」
狐の言っていた気配察知の事はどうなっただろうか。俺が主を倒してくるまでには調べておくと言っていたが、此方が時間がかかってしまっている。
まぁその分向こうにも時間が出来ているわけだから、何とかしてくれているだろう。
辺りは時間が時間という事もあって、人気が無く、ひっそりとしていて、広場に続く大通りに出るまでの宿前の細い道は現実ではお目にかかれないような静まりだった。
大通りに出て、広場に向かう。広場へは一直線だから迷う心配もない。門の反対側に広場は位置しているのでその方向に足を向ける。広場に向かう間に広場の風景を思い出すことにした。
ミロクとの待ち合わせは噴水前という事だったが、俺は広場に噴水があることを知らない。広場の噴水と言われれば、広場の中央に堂々と設置されている噴水をイメージするだろう。現に俺もそれをイメージしたが、生憎「壱の町」の広場の中央に存在しているのは何を象ったか良く分からないモニュメントだ。
少なくともあのモニュメントを噴水と間違える奴はいないだろう。そんな奴がいたらすぐに運営に連絡する。絶対何かしら視覚系統でトラブルが見つかるはずだ。
「……まさか、弐の町の広場の事か?」
足を止めて考える。すぐに「そんな馬鹿な事があるか」と頭に浮かぶが、否定はできない。このゲームは主を倒していなくても次の町に行けるように出来ている。 ミロクの拠点が「弐の町」にあるのなら彼女が指定した噴水の前というのもそっちの町にあるのだろう。俺は弐の町には稲荷にしか行ったことがないので、町の全容を知らない。
今から確認しに行くというのも時間が時間だし、行く気力がない。取りあえず、壱の町の広場に向かって、そこでしばらく待てばいいだろう。それで来なければパーティーの情報からどうにかすればいい。取りあえず、まずは広場に向かおう。考えるのはそれからでも間に合うだろう。
広場に到着すると、辺りには人一人いなかった。まぁ深夜という時間を考えれば当然な気がするが、まだミロクは来ていないようだった。彼女が来るまでに噴水とやらを探すことにする。
まぁ彼女が指定した場所が壱の町であるならばの話だが。しかし、ここで噴水を探して見つからなければ、「弐の町」が待ち合わせの場所という事がはっきりして彼女を探して回る必要もなくなる。それに俺がこっちで時間を使っている間に彼女の方からこっちに来てくれるかもしれない。
改めて広場を見回す。広場の中心にあるのはどう見てもなにを象っているのか分からないモニュメントで噴水には見えない。モニュメントから目を離して広場の他の場所に目を向ける。目を向けてところで何か見つかるわけでもない。やはりミコトが指定した集合場所は弐の町なのだろうか。
そう言えば彼女が連れてくる助っ人は俺達よりも先に進んでいる人だと言っていた。それならばその助っ人たちの活動場所は当然壱の町よりも弐の町だと考えた方が自然だ。
自分が宿で目覚めてから大体三十分経つ。それだけ時間が経っていればミロクの方も目覚めて行動しているだろう。彼女の言う助っ人が来るのにどれくらいの時間が必要なのは分からないが、すぐに集まれたのならもう三人で集まっていて俺を待っているかもしれない。
初対面の人と会うのに遅刻というのはよろしくない。良い印象を持つ事は無いだろう。少なくとも俺は持たない。
ならば、すぐにでも弐の町に移動するべきだ。確か町と町の移動は各町の門で直接移動が出来たはずだ。一度も行っていない町へ移動できるかは分からないが、主戦をしなくても町と町の移動が可能であるから、問題ないだろう。門に向かうべく体を返した背に、コーンという音が聞こえた。
「ん?」
何の音かと振り返ってみると、見えるのはさっきと変わらない広場の風景で特に変わった所はない。
ゲームのなかで気のせいがあるかは分からないが、まぁ自分の気のせいだろうと思い、歩き出そうとすると、もう一度コーンという音が聞こえてくる。
二度も聞こえてくるというのは、もはや聞き間違いという事は無いだろう。また音が鳴るまで広場を見続けていると、またコーンと音がする。聞いた感じどうやら右手奥の方から聞こえてくるようだ。
「……」
町の中なので武器を出すことが出来ないが、警戒しつつ右奥に進む。町中で何か出てくるという事はまずないだろう。
何か特別なイベントがあれば話は別だが、サービスが始まってまだ一月もたっていないし、試験的なデータ取りが始まったばかりだ。何かあるとは考えにくいが、
「それでも、身構えるんだよなぁ」
VRMMOというゲームであるから、どうしても緊張する。それが初めてのプレイとなればなおさらだろうと我ながら思う。そんなことを思いながら進んでいくが、その途中でもコーン、コーンという音は聞こえてくる。
なんか音の感覚が短くなっているような気がしないでもないが、きっと気のせいだと思いたい。音の場所に近づいて行けば行くほど音が大きくなっていくのは当然のことだが、これが何も見えない状態だと結構な恐怖を感じる。
警戒しつつ近づいて行き、ついに端までついたことが分かると、目を凝らして広場の隅を見る。
「……鹿脅しか?これは」
目の前でコーンと音を立てていたのはリアルではあまり見る事がない鹿脅しだった。
テレビとかで見るものでこんな音を出していたなと思うが、何故これがこんな広場の隅っこにあるのだろうか。広場に和風な感じを出したかったのだろうか?
まぁそんな運営が考えていることはどうでもいいが、早い所弐の町に移動しなくては。鹿脅しで時間を使ってしまった。相手側がまだ到着をしていないことを祈りつつ、急いで移動することにしよう。
「あれ、ミコト君早かったね。遅れてゴメンね、二人を呼ぶのに時間かかっちゃってさ」
急いで移動しようと振り返った先にはミロクと見知らぬ二人の女性がいた。恐らくこの二人が助っ人の人なのだろう。と言うか
「なぁ、ミロク。集合は噴水前だったよな?」
「うん、そうだね。私がそう言ったからね」
「じゃあ、なんでこんな場所に居るんだ?」
「え?だって噴水あるじゃない」
俺の質問にミロクは当然の様に答える。何を言っているんだこの子は。どこにも噴水なんてないじゃないか。
理解していないという顔を俺がしていたのだろう。そんな俺に対してミロクは俺の後ろを指差して言った。
「ほら、ミコト君の後ろにあるじゃない。噴水」
「……え?」
ミロクの指摘に後ろを向くが、見えるのはさっきと同じ鹿脅しのみ。噴水なんてどこにも見当たらないが、……。
一つ可能性が浮かぶ。まさかミロクはこの鹿脅しの事を言っているのではないのか。
「ミロク、君の言う噴水ってこれの事か?」
鹿脅しを指差す俺にミロクは「うん」と答える。思わず固まる俺の見て不思議がるミロクと、苦笑を浮かべている後ろの二人。
彼女の間違いは早い所指摘しないといけないなと思っていると、ミロクの後ろに居た女性の片方がミロクに声を掛ける。
「なぁ、ミロクちゃんよ。パーティー組んだ奴と会えたことだし、そろそろ話を進めないかい?」
彼女の提案にミロクが頷く。
「ミコト君紹介するね。私の友達の右からシオンちゃんとアキハちゃん」
「あたしがアキハだ。よろしくな」
先程ミロクに声を掛けたアキハが声を掛けてくる。もう一人の方のシオンも小さく「よろしく」と頭を下げた。主との戦いの前になんか疲れたなと思いながら俺も「ミコトです。よろしく」と頭を下げた。
読んで頂きありがとうございました。




