友人と主
ずいぶんと久しぶりに投稿できました。この話をブックマークしてくれていた方々、消さずにいてくれてありがとうございます。
「なんだよ、掲示板の話と全然違うじゃん。」
目の前にいるのは兎じゃなくて鎧を着て武装した餓鬼。誰が見てもこれを兎という奴はいない。どっかからどう見ても鎧武者の餓鬼だ。
しかも手には餓鬼の身長程ありそうな太刀を持っている。見た目からして俺の持っている初期装備の太刀よりも質が上で強そう。
「勝てる、勝てないの問題以前の話だよなぁ。」
勝てる気が全くしない。見た目からして俺よりも強そうで、本来いるはずでない敵だから事前情報もない。
つまり……………
「確実に負ける。」
この状態で勝てると言える奴がいるのなら、俺は喜んでソイツにすべてをくれてやる。
「でも、コイツについて少しでも何か分かればいいんだけど………っとぉ!!」
一人呟いていたらいきなり切りかかってきた。
『気配察知』のレベルがMaxな俺ですら何か嫌な感じがすると感じてとっさに立っていた場所から動いたが、その嫌な感じの正体は奴が太刀を振り下ろした事だった。
でも、そんな気配は全く感じ取ることが出来なかった。つまり奴の攻撃は俺の『気配察知』では感じとることが出来ないレベル。俺の『気配察知』は自慢ではないが、全プレイヤーの中でもトップクラスだと思っている。
最前線にいる攻略組でも俺のレベルまで上げている奴はいないだろう。その俺が感じれないほど、早いのだ。これは絶対に最初のボスとしてはおかしすぎる。
「……とは言っても、この状況をどうにかする方法は一つしかないよね。」
この状況から抜け出す方法、それは…………。
「ここは倒されて、もう一度挑戦するしかない。」
振り下ろされる太刀を避けることはせず(避けようと思っていても無理だけど。)目を瞑って、攻撃を受けた。
「(戦うと思った?残念、逃げるんです!)……なに思ってるんだ俺。」
斬られる瞬間に考えていたことはそんな馬鹿な事だった。
………。
…………。
「……あ~死んだかと思った。」
まぁ、ゲームでは一回死んだことになってるんですけど。なんて自分の言葉に突っ込みつつ、体を起こす。
そこは、自分に割り当てられた宿屋の一室だった。このゲーム。体力がゼロになる。つまり力尽きてしまうと自動的に自分の部屋に転送されるようになっているようだ。説明をリリンさんから聞いたが、まさか聞いた当日に体験するとは思ってもいなかった。
でも、アレはしょうがない。今の俺では勝てる要素なんて一つもない。それなら、もう一度ボス戦をやり直して、通常のボスを倒した方が安全だし、簡単だ。
「よっと。」
掛け声をかけてベッドから出つつ、メニュー画面を開いて自分の持ち物や、所持金が減っていないか確認する。変化がなかったことを見ると、このゲームは死んだら何か減るという事は無いようだ。
……まぁ、まだ一回しか死んでないから次がどうなるかは知らないけど。部屋を出て、草原の主の元へ向かった。
………。
…………。
「やぁ、君も主と戦うのかい?」
主がいる草原の林につくと、先客らしき人がいた。先客と確実に言えないのはその人が主の居る林の手前の岩に腰掛けていて、何かとてもこれから戦う雰囲気には見えなかったから。
誰かを待っている、そんな感じがした。
「おーい、私の声聞こえてる~?」
……見た目はパッと見男性か、女性かはっきり分からなかったが、声や口調を聞く限りどうやら女性だろう。
身に付けている装備は陰陽師の初期装備。こんな夜遅くに女性が一人でこんなところに一体何のようなんだろうか?
それに…………。
「ねぇ!私の話聞いてる!?」
「えっ!は、はい。聞いてますよ。」
いきなり声を掛けられて、思わず聞いてると答えたが、本当は彼女の話は一言も聞いていない。考え事に夢中になっていて、最初に声を掛けられた後は話しかけられた事すら知らなかった。
そんな俺を疑わしそうに見た彼女は「本当かなぁ。」と呟きつつ、岩から降りてこちらに歩いてきた。
「私の話を聞いていたというのなら、私の名前言ってみてよ。」
俺を覗き込みながら尋ねてくる。その言葉にグッと詰まりながら、少し体を彼女から引く。
彼女の名前?そんな事聞いていなかったのだから、分かるわけがないので、早々に白旗を揚げる。
「ゴメン。聞いていたってのは嘘。考え事していて話を聞いていなかった。」
そう言うと彼女は、「やっぱりね。」と言って体を戻す。
「ゴメン。もう一回最初から話してくれるかな?」
「いいよ、でも私まだ名前言ってないけどね。」
「おい、それ嘘ついたんじゃないか。」
「そうだけど、君が聞いてなかったのも事実だよ。」
それを言われるとその通りなので、俺としては何も言えなくなってしまう。
「まぁ、いいや。改めて、私の名前はミロクって言います。よろしくね。」
「俺はミコト。こちらこそよろしく。」
手が差し出されたので、その手を握る。
「ミロクって自分でつけたのか?」
「違うけど、どうして?」「いや、何か女性にしては珍しい名前だなと思って。」
「まぁ、ここはゲームだからね。それぞれで好きな名前だって付けるよ。まぁ、私のは友達に勝手に考えられた奴だけどね。それにあまりひどいのは規制対象になるけどね。」
「あぁ、そうだね。」
彼女の言葉でここがゲームの中だという事を思い出す。リアルに感じるし、ログアウトも出来ないのだから、ゲームと言うのを忘れてしまう。
「それで、何でこんな場所にいたの?誰かを待っているような感じだったけど。」
俺を質問にミロクは「あぁ、それはね。」と言って説明を始めた。
「別に誰かを待っていたわけじゃないんだ。」
「え、じゃあなんでこんな夜遅くに……。」
「あぁ、待っていないと言っても、誰か特定の人を待っていないというだけで、ここに来る人にちょっとお願いがあって、誰か来るのを待っていたんだ。」
「へぇ、それで来たのが俺ってこと?」
「そゆこと。でね、良ければ何だけど、私と一緒に主討伐をしてくれないかな?」
ミロクが手を合わせてお願いしてくる。なるほど、ここで待っていたのはそういう理由だったのか。
「私ってさ、見て分かる通り陰陽師なんだけど。初期の陰陽師ってあまり強い式神召喚することが出来なくってさ、だから誰かと一緒に行かないと主を倒せないんだよね。」
「まぁ、初期の状態じゃ一人での攻略は難しいよね。」
「そうなんだよ。それで、ミコト君は見たところ野武士でしょ?だから君が前衛で、私が後衛でパーティー組んでいかない?」
ミロクのお願いを考えてみる。さっき一人で行った主戦は本来とは違う奴が出てきたから、俺はまだちゃんとした主とは戦っていない。
事前に調べた情報では主は『大野兎』。俺一人でも勝てなくはないと感じたが、一人よりは二人で戦った方が勝つ確率は大きくなるかな。
「分かった。それじゃ二人で主戦行こうか。」
申し出を受けると、彼女は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、ミコト君からパーティー申請してよ。君がリーダーでいいかな?」
「別にかまわないけど……。はいパーティー申請送ったよ。」
話しながら、自分のメニュー画面を操作してミロクに申請を送る。すぐに承諾が来て、パーティーが作成された。これで、戦闘中にお互いの状況が見れるようになる。
ミロクのステータスを見て見ると、確かに陰陽師とあって、野武士の俺より体力、筋力、耐久が低いが、その分呪力、呪力耐久は高い。
でも、今回の主は直接攻撃しかしてこないので、樹局耐久は特に重要視されないので、耐久が低い陰陽師や呪術師は戦い辛い相手なのだろう。
「それじゃあミコト君、行こうか。」
ミロクが呼んでいる声でメニュー画面を見ていた顔を上げる。
「了解。」
二人で林の中に入る。今度こそちゃんとした野兎と戦いたいものだ。
……。
…………。
林の中に入って俺たちを待っていたのは、ついさっき別れたばかりの鎧に身を包んだ餓鬼。鎧餓鬼だった。
「さっきぶりだな。」とばかりにニヤッと笑う餓鬼。こっちとしてはもう二度と会いたくはなかった。少なくても、俺がまだ弱いうちは。
「え、最初の主って野兎の大きいのじゃなかったの?」
後ろでミロクが戸惑ったように呟いていた。その気持ちはよく分かる。何せさっきの俺もこんな感じだったから。
「ねぇ、ミコト君。なんでこんな知らない主が出てくるの?」
「俺に聞かれても答えようがないんだけど。でも、さっきもこいつが出てきたんだよなぁ。」
俺が話し終わると同時に餓鬼が突っ込んできた。後ろにはミロクがいるから、俺一人が避けるわけにもいかず、奴が大上段から振り下ろしてきた太刀を自分の太刀で受けとめる。
格好よく鍔迫り合いとかになるわけはなく、奴の攻撃を右手は定位置、左手は太刀の背を持って、何とか受け止める。餓鬼の攻撃が重すぎて、反撃どころじゃない。
と言うか、後ろにいるミロク、早く移動してくれないかな。そろそろ腕が辛いんだけど。
俺が移動してほしいと思っているミロクは考え事でもしているのか、その場を動かない。考え事なら動いてからやってください。
「なぁ、ミロク……。」
「ミコト君、このゲームの主戦はね……。」
いきなり何言ってるんだ、この人は。早く移動してよ。お願いだから。俺の願いとは裏腹にミロクの話は続く。
「このゲームってね、主戦であと少しで倒せるのに、力尽きちゃった人たちがもう一度最初から戦うっていう苦労をしなくていいように、主戦とかの重要な戦いは一部の場合を除き、相手を倒すまで、同じ相手が先程の状態を引き継いで出てくるんだ。」
「え………という事は。」
思わず、腕の力が抜けそうになるが、なんとか力を込めて、ミロクの話の続きを聞く。
「さっきミコト君がさっきも出てきたって言っていたけど、コレ倒すまでずっとこの敵が出てくるよ。」
嘘だろ。こんなのがいたら、俺はいつまでたっても先に進めないじゃないか。って言うか、ミロク。その情報は一体どこから手に入れたんだ?
「手に入れたって言うか、最初のマニュアルに書いてあったよ。ミコト君もしかして読んでない?」
ええ、読んでません。
「ちゃんと読んだ方がいいよ。それよりもこの敵、倒さないと先に行けないんだよなぁ。」
ミロクの言葉で思い出す。コイツをどうにかしろってかなり厳しいんですけど。 と言うか、ミロクさん。いい加減後ろから移動してくれませんかね。俺の腕がそろそろ限界なんだ。
「あぁ、ごめんね。」
軽く言って彼女は右によけた。それを確認した後、俺も餓鬼の太刀を逸らしながら彼女の前に移動する。
もう腕がパンパンだ。太刀を振れる気がしない。こういった感じがもの凄くリアルだ。餓鬼の動きを注意しながら、後ろのミロクに尋ねる。
「で、この後どうする?二人で倒すか?コイツ。」
「それは無理だろうなぁ。あんな相手に私の攻撃が効くとは思えないよ。」
「じゃあ、どうする?」
「パーティーは四人まで組めるから、私の知り合いに声を掛けてみる。二人なら、集められるから。それで挑戦してみよう。」
「その知り合いは強いのか?正直、俺達と同じような感じだったら、勝てる気がしないんだが。」
「その点は大丈夫。先に攻略している人たちだから。」
「なら、いいけど。ここから出るにはどうするんだ?」
「そんなの死に戻りに決まってるよ。」
「………俺、さっきも一度やってるけど、何回もやって平気なのかな?」
「特に指摘もされて無いから、大丈夫じゃない?それじゃあお先にどうぞ。」
ミロクに背中を押された。俺から先にやられろという事らしい。
不用意に前に出てきたことで餓鬼が襲いかかってきた。振り下ろされる刃を見ながら、またかと思いながら、無抵抗に斬られる。
後ろでミロクが「起きたら噴水前に来てね―。」なんて言っていた。それにこたえられたかは分からないが、その声を聞いたすぐ後に目の前が真っ暗になった。
読んでいただきありがとうございました。
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