表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/32

複雑な恋心

一部BL注意です


今回長めです

うららかな日差し。


緑生い茂る庭でまどろむ小動物達。


時間ごとに太陽の光を受けその様子を変える白亜の教会。


その中にある小さな懺悔室には年老いた神父が一人、今日も迷える子羊に助言を与えるべく待っていた。


チリーン


涼やかな鐘の音とともに懺悔室の扉が開き、今日の迷える子羊が一人中に入ってくる。


「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなお悩みを胸の内に抱えてここへいらっしゃいましたか?」


「神父様。私、もうどうしていいかわからないんです」


「すべては神の御心のままに。どのような悩みであろうと、神はけして見捨てたりは致しません。さぁ、一体どのようなことがあなたを悩ませているのでしょう?」


「・・・とても複雑で、うまく自分の中でも整理できないんです」


今にも泣き出しそうな彼女の声には深い苦悩が刻まれていた。


それを敏感に感じ取った神父は、できるだけ穏やかな声で続きを促す。


「一度に話そうとしなくてもかまいません。まずは一つ一つゆっくりと話してみてください。大丈夫、話しているうちにどんどん自分の中でも整理がついていくものです」


「は、はい。わかりました」


壁越しのため様子をうかがうことはできないが、それでも何度も大きく深呼吸をして落ち着こうとしているのがわかる。


声からして、本日相談に来た仔羊はそれなりに若い女性のようだ。


この手の女性が話すことは大抵恋愛がらみで、相談したいというよりは誰かに自分の心の内を聞いてほしいという思いが強い。


しばらくして十分に落ち着いたのか女性は静かな声でポツリポツリと語りだした。


「私にはとても大切な幼馴染がいます。彼のほうが一つ年上なんですけど、いつも一緒に遊んでいてお兄ちゃんというより同年代の友達って感じが強いんです。


私は彼のことが大好きでした。


恋愛感情とはちょっと違い、尊敬できる相手っという意味ですけど。でも二十五歳になるまで誰も好きな人ができなかったならお互い結婚しようねって約束して、実際二十をこえるまでお互いこのまま結婚するんだなって思っていたくらいなんです。


でも一年前、そんな幼馴染が一人の男の人の恋人が出来たんです。


あ、別に男同士だからって私自身特に偏見があるわけじゃないんですよ?


幼馴染はもともと普通に女の人が好きだったし。たぶん、好きになったのがたまたま男の人だったというだけ。


もちろん、私は祝福しました。


大好きだったし、大切だったけど。でもとても幸せそうに笑っていたから、いいかなって思ったんです。


恋人の男の人もとてもおおらかな人で優しくて頼りになって。まんま結婚するならこんな人がいいっていうのを理想にしたような人でした。


だから私も彼ならば、私の大切な幼馴染を任せられるって思ったんです」


「なるほど、貴女はとても幼馴染思いの人なのですね。神は同性との恋愛を禁じていますが、恋心まではどうしようもならないものです」


「ですが、そこで問題が起こりました。・・・いえ、これはどちらかというと幼馴染のほうに関わることなので私がどうこういうのはお門違いなんですけど。


なんとその恋人・・・仮にAとしておきます。


Aさんには幼馴染のほかにも三人の恋人がいたんです。


ちなみに全員Aさんの昔馴染みで、幼馴染の知り合いでもありました。内訳は男性一人と女性二人です。


なんでもその三人はAさんとかなり前から付き合っていて、しかも三人同時に付き合うことを認め合っているというとっても複雑な関係なんです。


しかも私の幼馴染って結構わかりやすくて、その三人にAさんのことが好きだっていうことがかなり早い段階でばれていたみたいなんです」


「なんとそれは・・・。まさか修羅場になったのですか?」


「どちらかといえば修羅場のほうがまだ分かりやすいです。


普通なら恋敵を排除しようとするんですけど、こともあろうかその三人は自分たちがAさんと付き合っていることを幼馴染にばらし、そのうえでAさんを落とすテクニックとかタイミングとかを幼馴染に伝授して背中を押してやったんです。


なんなのあんたら、もー意味分かんないし!挙句の果てのAさんもきちんと幼馴染の気持ちを考えてしかも受け入れちゃっているし!


もともと常識とかそんなものがどこかずれた奴らだとは思っていたんですけど、まさかこうなるとは思わなくて。私も嬉しそうに話してくる幼馴染に何度突っ込もうとしたことか」


「・・・ずいぶん複雑な関係なのですね。今回のご相談はその幼馴染についてなのですか?」


「いえ、どちらかといえば今までは前ふりの様なものです。


ここからが相談なのですが、私自身も厄介な恋をしました。


なんと相手はそのAさんと付き合っている男の人なんです。


最初は乱暴で怖くて、お世辞にもお近づきになりたいとは思えなかったんですけど。


でもある時一カ月近く幼馴染とAさんと男の人・・・仮にBさんとします。と私の四人で一緒に暮らすことになったことがあったんです。


その時にそのBさんの不器用な優しさっていうか、さりげない気遣いにふれて気が付いたら好きになっていたんです。


最初は諦めようと思っていました。私じゃどうあがいてもAさんには勝てないし、そもそもBさんもAさんにべたぼれ状態でとてもじゃないけど私が入る隙なんてないと思いましたし。


でも一緒に過ごしていくにつれてBさんもどうやら私のことが気になりだしたみたいで。一月を過ぎるころにはかなり深い仲になっちゃったんです。


でもだからといってBさんがAさんから、言い方は悪いですけど乗り換えたかっていえばそうじゃなくて。相変わらずAさんのことは好きだし、その・・・一緒にベッドに入ったりもしているんです。


立場でいえば私が横恋慕しているような感じなのでAさんとの仲をどうのこうの言えるわけないし。


かといってBさんにとって私は体だけの関係の都合のいい女って聞くとそうじゃないって答えるし。実際うぬぼれでもなんでもなく私のことを大切にしてくれています。


ぶっちゃけ私には理解できない感覚なんですけど、Aさんのことは彼氏。私のことは彼女っていう分類がBさんにとってされているみたいなんです。


幼馴染に相談したら素直に祝福されました。


Aさんと付き合っている女性二名に相談したところ幼馴染にアドバイスした時みたいにいろいろ言われ、激励されました。


絶対相談する相手を間違っているだろうと思ったけどAさんにも相談してみたところ


『あいつってちょっと乱暴なところがあるけど見捨てないでやってくれよ』


って、仮にもあんたのあんたの恋人の一人だろうが!って思いっきり突っ込んでしまった私は悪くないと思います」


「・・・・・・神は貴女に何という試練を。長年この懺悔室でさまざまな懺悔や相談を受けてきましたがこのような相談は初めてです」


「それだけじゃないんです」


「まだ何かあるというのですか!?」


「私、Bさんの子供を身籠ってしまったんです。


しかもそれを知ったAさんとかBさんとか幼馴染とか二人の女性とかもう大喜びで。


全員そろって名前を考えたり皆で住む新居はどうするとかって、お前らまで住むのかよ!!って感じで。


そうなるとこれから生まれてくる子供に自分たちの関係をなんて説明したらいいのかわからないんです!


神父様、私は一体どうしたらいいのでしょうか?」


「・・・神に祈りなさい。私から言えることはそれだけです」


ああ神よ、かなうならこの迷える子羊とともに何も言うことのできない私を救い給え。


うららかな日差し。


緑生い茂る庭でまどろむ小動物達。


時間ごとに太陽の光を受けその様子を変える白亜の教会。


その中にある懺悔室では外の陽気を裏切りいまだかつてない暗雲が立ち込めていた。


彼女がこれから生まれてくる子供にどんな説明をしたのか、それは神にもわからない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ