私が被害者だぁ!!
乾いた風が吹きすさぶ荒れ地の真ん中。
向かい合い、静かに睨みあう一組の男女が立っていた。
いや、正確にはその場にいるのは男女二人だけではない。女の周囲には数えきれないくらいの数の魔物の死骸が折り重なっており、あたりに濃厚な血の匂いを振りまいている。
その場で生きているのは、もう男と女の二人だけであった。
男は満身創痍でもうろくに動けないのが素人でもわかるくらい疲弊しきっていたが、女のほうは少々息があがっているもののかすり傷一つない状態でただ静かに男を睨みつけていた。
男は魔獣使いであった。
魔獣使いは数が少なく、さらに力のある魔獣を一体でも従えているものは国から召し抱えられてもおかしくないくらい貴重で強大な戦力である。
男は優秀だった。
上級クラスの魔獣を何体も従え、あまたの死線を潜り抜けてきた実力は本物で、男自身油断も慢心もなく最強の一角であると自負している。
だがしかし、この目の前の女はどうだ?
けしかけた配下の魔獣をことごとく蹴散らし、仕留め、粉砕している。
手持ちの魔獣はもはやすべて女によって死に絶え、切り札として持っていたドラゴンすら無に帰した。
下位であったとしても、国が一個中隊の戦力で持って挑まなければならないほどの力を持っているのがドラゴンだ。男が切り札として持っていたのは、10日に及ぶ死闘の末制御こそままならないもののなんとか配下におさめた中位クラスのドラゴン。
冗談でなくこれ1頭で国と戦争ができるほどの戦闘能力をもっている固体であったにもかかわらず、女の前に30分と時間稼ぎ程度にしか役に立たなかった。
男は恐怖した。
目の前のこの女は、一体何者なのか…と。
「お前は何者…ね。
良いでしょう。そんなに気になるなら出きるだけ手短に長々と語ってあげようじゃないですか。
平凡ながらも日々パティシエの道を進むべく頑張っていた私。
ある日突然変な世界に落っことされたと思ったら悪の組織に連れ去られ人体実験擬きを強制的に受けさされた私!
あまつさえ死亡率90%にも関わらず運良くか悪くか適合し生き延びた私!!
その後は手下として嫌がっているのにも関わらず戦闘訓練を受けさせようとするがあまりの施設の汚さに訓練そっちのけで掃除をしていたらいつの間にかメイド扱いを受け始めてしまった私!!!
しかし片付けても片付けても汚してくれるものだから箒片手に教育的指導をしていたらいつの間にかメイド件幹部扱いをされてしまっていた私!!!!
ちなみにこの箒はオリハルコンで出来ていますから攻撃力半端ないですし主人登録しているので他の人が触ると致死量の電撃その他が流れるので気を付けてくださいね?そして私個人がしているのは施設の掃除と汚す人間への鉄拳制裁ですから悪事には関わっていませんのであしからず。
このオリハルコン製の箒の一撃は岩石竜(上位ドラゴン。岩石のように硬い)の甲殻すら打ち砕いたりしますよ!
グリムゾン・ナイトメア(世界に蔓延る有名な悪の組織)の他称メイド兼幹部の私とは!!!!!」
「私とは、なんなのだ!」
「拉致監禁強制労働を強いられた、ただの被害者だ!」
覚悟!とばかりに降りあげられたオリハルコン製の箒を眺めながら、男は思った。
ああ、こんなことになるならば酒場で相席を頼まれたとき酒の勢いも手伝ってセクハラなんてするんじゃなかったと。
今までの人生が走馬灯のように駆け巡っていく中、銀色に光るオリハルコン製の箒の柄が男の頭に炸裂した。
女の長セリフの言い回しが、かなり昔どっかで読んだことがあるようなものになってしまいました。
詳細が全く思い出せないのでパクリ…ではないと信じたいです。