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いつか
「大丈夫」
美しい女はそう言って僕の頬を撫でた。
白くて柔らかい手。生命を育む優しい手だ。
女はいつもその白く優しい手で僕のことを撫でてくれた。
「いつかきっと」
秘密のお話のようにそっと僕の耳に口を近づける。
くすぐったさに身をよじれば優しくたしなめれた。
吐息が頬にかかり、髪の毛がまるで雨のようにさらりと揺れる。
微かに花のような匂いがした。
「いつかきっと、私が殺してあげるからね」
甘い睦のとのような言葉。
蕩けるような愛の言葉より甘く胸に響く。
僕はそのいつかをいまだに待っている。




