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揺り籠から墓場まで、そしての先までも

10日よ


「何が10日なんですか?」


あと私が生きていられる時間


何となくだけどね、からだの細胞が次々停止していくのがわかるのよ


このままの状態でいくと、大体10日前後で私の生命維持に必要な細胞が死ぬわ


理屈じゃなくてね、本能でわかるのよ


「そんな!あなたは僕と違って特殊な人体改造を施されたから寿命だってすごくながいっていってたじゃないですか!」


バカねー、私はどっちかっていると失敗作よ、成功作である親衛隊あいつらとは違うの


それでもあいつらと同じだけの戦闘能力を発揮していたから、多分寿命にまわすぶんの力を使い果たしたんじゃないかしら?


姿ばかりは無理やり改造を施された二十代のままだけど、実年齢でいったらもうポックリ逝っちゃってもおかしくないくらいだしね


あなたもそうでしょ?


「まぁ、確かにそうですけど。体なんてとっくに動かせなくなっているし、自分でも死期が近いのはわかりますよ」


ふふ、普通の人間のあなたはもうこんなにもシワシワのお爺ちゃんになっちゃったものね


きっと、私達が同じ日、同じ時間に生まれたなんて誰も信じないわよ


「見た目だけなら祖父と孫ですよね」


否定できないわね・・・


まぁ、いいけれど


見た目なんかどうでも良いわ


私達の間じゃ、そんなもの些細な問題にすらならないもの


一緒な日に生まれてきた似た者同士


「はい。一緒の日に死にましょう」


離さないわよ?


「僕だって、離したりしませんよ?」


ちょっ、そんな言い方反則!レッドカードものよ


あー、やっばい


そんなプロポーズみたいなこと言われたなんて知れたら、私あんたのファンのやつらに殺されちゃうかも


いやいや、おんなじ日に後追いでなく死ぬことになるなんて知れたら、一緒に逝かせてなるものかって邪魔されそう


「嫌ですね、あの人達だってそんな嫌がらせじみたこと・・・しますか」


するわね


みんなあんたのこと大好きだから、私のこと目の上のたんこぶ扱いしてるのよ


だからってこのポジションを譲ってやるようなことはしないけど


あんたの黄泉の旅路のお供は私だけで十分でしょ


あいつらに後追いできるだけの度胸がないのは知ってるし


来たとしても二人っきりの旅行だから追い返しちゃうけどね


「そうですね、追い返しちゃいましょう」



生まれてきたときも死ぬときも一緒だったんだから、次生まれるときは今度もいっしょにうまれようね


約束だよ


「はい。約束します」







そしてその10日後のこと。


世界を代表する有名な画家が一人ひっそりと息を引き取った。


それは夜となく昼となく彼の側に詰めていた何人ものファンと一部の熱狂的な信者(通称親衛隊)、弟子達がほんの数分席をはずした間の出来事

だった。


ファンの一人が病室に戻ってきたときにはすでに心拍は完全に停止しており、老衰からなる死ゆえ手の施しようがないと医者に言われた。


そしてその側に、専属のボディガード兼、長年風景画を描いていた彼がただ一人の人物モデルとして描いていた年若い女性が一人、彼の手を握りしめたまま息を引き取っているのが見つかる。


彼女もまた、ファンや弟子が席をはずすそのときまで生きていた人物であり、空白の数分間のうちにいったい何があったのかを知る人間は永遠にこの世から姿を消した。


偉大なる彼の死に、世界では少なくない混乱が起きたが、彼の弟子と一部の彼の知り合いにより葬儀は粛々と行われ、そして幕を閉じる。


かねてからの遺言通り、彼と彼女とを一緒に埋葬し、海のよく見える二人の思いでの場所へ墓をたてた。


その事について多くのファンから抗議があったが、彼の一番の弟子はこう語った。


「師匠は天寿を全うする前夜言っていました。『僕と彼女は同じ日に生まれ、同じときを生きてきた。きっと明日、同じときに死ぬだろう。僕たちは血の繋がっていない双子なのだよ。だから引き離さないでおくれ』と。遺言はもうずいぶん前のものでありました。師匠はわかっていたのでしょう、自分が死ぬときは彼女が死ぬときだと」


そう語った弟子に、多くの人達はなにも言わずに共に生まれ、共に死んだ画家とモデルに意識をはせた。


それから百年後のこと。


特殊な人体改造を施された親衛隊にとって寿命というものはないに等しかった。


四人いた親衛隊のうち三人は画家の死に耐えきれず静かに狂っていき、残りの一人も、狂えない代わりに百年の間毎日画家とモデルの墓を磨き、管理し、まるで墓守のような生活を送ることで日々を慰めていた。


そしてある日二人の墓を掃除しにいくと、そこには十歳くらいの男女が手を繋いで立っていた。


「あ、お久しぶりです。貴方が僕たちのお墓を掃除していてくれたんですね?どうもご苦労様です」


「毎日毎日墓掃除って、あんた暇なの?」


穏やかな表情で男の方は頭をぽりぽりと掻きながら会釈し、左の唇を吊り上げるといった独特の形に口を歪ませながら少女は小馬鹿にしたように笑った。


その癖は、とても懐かしい人物と酷似していた



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