ボディーガード
彼は暗殺者であった。
裏の世界では知らぬものはいないとさえ言われるほどの、伝説的な存在であった。
つるむことをせず、自由気ままに闇の世界を駆け抜けていくその姿はいつしか『死神』と呼ばれるまでになっていた。
「君さっ、会うたび何か厄介事を抱えてくるよっ、ねっ!」
「ごべんなざいー!だずげてー!!」
「あー、泣くな泣くな。ちゃんと助けるから」
厄介な仕事(暗殺)が一段落し、面倒かつ鬱陶しい雇い主ともこれでおさらば(物理的に)。
久しぶりのオフにセーフハウスで昼間で惰眠をむさぼりここ最近のに寝不足を解消。お気に入りのベーカリーで朝食券昼食のサンドイッチをかじりながらのんびりしていると顔見知りの店主がサービスをしてくれて気分は上々。
なにか良いことあるかなとうきうきしながら散歩をしていると目の前には久しぶりの友人の姿。
このまま友人を拉致してどこか遊びにいこうかと声をかけた瞬間、泣きながら抱きついてきた。
おっと情熱的と思ったのもつかの間。彼は忘れていた。友人がたぐいまれなるトラブルメーカーであることを。
抱きついてくるのと同時に爆発が起こって宙に舞ったかとおもえばいきなり地面が陥没し、なんとか回避したかとおもえば大勢の人間に追いかけられる。
『死神』は時に友人を抱えて宙を飛び、時に腰を抱いて回避させてやり、時に背にかばいながら相手をいなしていく。
のんびりとした休日は終了してしまったが、これはこれでなんだか楽しい。
ぴーぴー泣きながらしがみつく友人の背中をぽんぽんと叩いてやりながら声をあげて笑った。
「やー、君といると退屈しないや!」
「笑ってる場合じゃないっすよ!」
「僕にとっては笑ってる場合さ!・・・おっとあそこにいるのはおあつらえ向きのロメオじゃないか!」
「えっ、なんでここに!?」
道の向こう側には唖然とこっちを見ている友人の所属している組織の上司の姿。
「ようロメオ、ご機嫌いかが?お届けもんだ、こいつをパス!」
友人を掴んで優男に投げつけるとその頬に軽くキスをした。
「じゃ、撒いてくるからしばらく優男に匿ってもらってな」
手を振りながら『死神』は撒くといいつつも後ろから来る集団に突っ込んでいく。
一方友人を押し付けられた優男と呼ばれた男はやはりあっけにとられたような顔でその後ろ姿を見送った。
『死神』といえばこの国で知らぬものはいない凄腕の殺し屋兼傭兵だ。
ただし気に入らない依頼は断るどころか雇い主ごと消しにかかることで有名。
それが友人にはどうにも甘いのかすすんで助けたりこうやって事件の後始末を請け負ったりしている。
そんな友人と優男は友達兼上司と部下だ。
友達の友達は友達というのか、『死神』は優男にも少しだけ甘かった。
いや、所属組織の副官として対立するときは容赦なく消しにかかって来るのだが、こうして仕事とは関係ないところで会うと親しそうに話しかけてくる。
『死神』がこちらのことを名前で呼ぶときは敵対しているときで、友達としては優男とよばれていた。
「・・・少年、今度はどんな厄介ごとに巻き込まれたんだ。ああいや、いい。詳しく話さなくていい。事態が沈静化したらしっかり礼を言っておけよ」
いくら積んでもなかなか頷かない男を最強のボディーガードとしてセルフで雇えるのだ、今まで断られた関係者が聞けば発狂するなと思いながら少年を自分の背後に庇い目の前の無双を見守った。