偽者
「私以外の女に惑わされちゃダメよ」
それは聞く人が聞けばただの女の嫉妬に聞こえるだろう。
ひょっとしたら自分以外見てほしくないという稚拙な我が儘に聞こえるかもしれない。
男もそう思ったし、事実女も半分以上そういう意図があった。
「私以外の女に惑わされちゃダメよ。
だって貴方は私の愛しい旦那様なんだから。
でも少し目先のきく貴方の敵はそう遠くない未来、私の姿を使ってくるかもしれない。
私の姿なら貴方が油断するか、斬り捨てるとき躊躇するかもしれないと考えるかもしれない。
相手の弱いところをついてくるのは基本だもの。
でも駄目よ。駄目。
私以外の女の姿に気をとられるなんて許さないんだから。
だから貴方は私以外の私を見つけたら戸惑うよりも最初に怒りを感じて。
私以外が私の姿をしていることに怒りを感じて。
だって貴方の妻は私だけなんだから」
そう言って女は男に軽く触れるだけのキスをした。
そらから数日後、男は女を殺した。
正確には、女の姿をして男の事を欺こうとした術者を殺した。
少し前なら例え偽物とわかっていても愛しい女の姿をしていれば殺せなかっただろう。
しかし、今は違う。
女の姿を騙ったというだけで見た目など関係なく怒りがわいてきて、気がついたら切殺斬りしていた。
取りあえず今日は家に帰ったらまず一番最初に女に抱きつきキスをしよう。
そして言うのだ。
俺はお前以外の女になんてなびかなかったぞ、と。