システムオールグリン。なにも問題ありません
泣く子も黙る恐怖の暗殺ギルド。
それを率いるは年端もいかない一人の少女であることを知っている人間は以外と多い。
そしてその事をネタにして暗殺ギルドにちょっかいをかける輩はそれなりの数いた。
そして今日も一人、その事をネタにしようとするやからが現れる。
「君はお飾りなんだよね?自分より弱い人間があたまにつくなんて、さぞや部下たちの不満がたまっているだろうに」
そういってうっそりと、しかし目に見えて嘲笑したのはこの国の王子だった。
仕事の話と称して少女を呼びつけ、これからねっとりとじめる予定である。
王子はまず軽いジャブの意味と挑発もかねて目の前の少女にいった。
少女は暗殺ギルドの副ギルドマスターで、現在恋人と逃避行に忙しくギルドにいないギルドマスターの代わりをしている実質トップだ。
しかし、戦闘能力は低く(といっても一般人よりは強い)、ギルド内でも彼女より弱い人間は数えるほどしかいない。
そんな少女がなぜ副ギルドマスターをやっているのか。
それはひとえに本来のギルドマスターである男の大切な妹分であったというだけにすぎない。
自分より弱い人間が上にいるなどと、ギルド内でも不満がくすぶっているのを王子独自の情報網でもって知っていた。
この辺りでつついてやれば面白いことになるかもしれないという好奇心。
うまく言いくるめて何かしらこちらに有利な言質のひとつでもとってやろうという下心。
凡人の少女一人、手玉にとるのは容易い。
そう思っていたが、少女は穏やかに、しかし困ったような顔で笑った。
「王子が言いたいことは分かりますわ。やりたいこともね。ですが、少し勘違いをしていられるご様子」
パシッ・・・と扇子を手のひらに軽く打ち付けると、一瞬で王子の体に無数の刃が突き刺さった。
何が起こったのか、王子は認識できなかった。
警備体制は万全だったし、目の前の少女より強い自信はある。
ならなぜ、自分の体にこんなにたくさんの刃が突き刺さっているのだろうか。
何故?なぜ?ナゼ?
どうして・・・と顔をあげた先で見たのは、やはり困ったように笑う少女の姿だった。
ごふり、と血を吐いて事切れる王子を確認すると、少女はようやく詰めていた息をはいた。
途端に部屋のなかに現れる怪しい服装の男たち。
男たちは代わる代わる少女の無事を確かめ、それと平行して証拠の隠滅に走る。
今日の依頼は目の前の王子の暗殺。
忍び込むのが難しいためある意味安心できる少女が囮となって決行したのだ。
「なぁ、もう副ギルドマスターなんてやめちまえよ。あんたにゃふさわしくないって」
「そうそう。あんたみたいによわっちい奴が前線なんて似合わねぇよ」
「頼むから後ろで守られていてくれよ。気が気じゃねえんだ」
王子がいっていた通り、ギルド内には少女が副ギルドマスターであることの不満が渦巻いていた。
可愛可愛大切な妹分があぶないことをするのだ、不満に思わない方がおかしい。
少女はそんな心配性の保護者たちに軽口を叩きながら帰路についた。
今日も暗殺ギルドは平和。
仲間意識は良好である。