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毒リンゴの誘惑

「おまえのその美しさが、いつも俺を狂わす」


高級ホテルの最上級スイートルームの一室で、男は椅子に椅子に座ってこちらを見ている少女のほほに触れた。


少女は男の恋人だった。


どこにでもいるような、特筆して言い表すことのない平凡を絵にかいたような少女、下品なほど胸元も体の線も露わになるような深紅のドレスに身を包み、ほんの少しだけはにかんで男の手を受け入れた。


男は世界で有数の資産を誇る大富豪で、少女は母子家庭でのんびりと暮す一般の高校生だった。


一切接点のない二人がどうして出会ったのか、どうして出会ってこんな関係になったのか、そんなことは些細なことだった。


「毒と分かっていても、やめられない」


彼の手が、ドレスを乱暴に引き裂く。


ひどい音がして破かれたドレスを半端に身にまとった少女は、まるで仕方のない人ねの言わんばかりに薄く笑う。


その笑みは悪戯を叱る母のようであり、弟のしでかしたことに呆れる姉のようであり、男のすべてを許す恋人のようであり、まぎれもない女のソレだった。


「まるでおとぎ話に出てくる白雪姫の毒りんごのようだな。はは、これほどうまそうなら、たとえ毒と分かっていても口にせずにはいられない」


まぁひどい人。そう詰る少女の身体に無遠慮に手を触れながら男は低く笑う。


少女は間違いなく男を破滅させようとしている。


少女に出会ってから男の生活は少女中心になってしまっていた。どこに行くにも、何をするにも少女のことが一番で、そのことによって落とした商談や利益はけして馬鹿に出来ない額となってしまっている。


だけど少女に会う事をやめることができない。


もう、自分でもどうしようもできないのだ。


ああ、なぜ白雪姫があんなあやしい老婆から受け取ったリンゴを戸惑いもせずに口にしたのかようやくわかった。


怪しまなかったわけではないのだろう。


警戒しなかったわけでもないのだろう。


ただ、その果実を口にしたいという欲求に逆らえなかったのだ。


毒々しいまでに美しいその果実を、どうしても欲しいと思ってしまったのだ。


「俺だけの毒リンゴ。毒と知っていても誘われずにはいられない。どうか他の奴らを誘ってくれるなよ」


魔女の毒リンゴは一口だけでその身を滅ぼすほど強力なもの。ならばその禁断の果実を毎夜幾度となく口にしている俺はとっくの昔に毒に犯されきっているのだろう。


少女は知らない。


この果実を欲する男はいくらでもいたことを。


だから男はそのことを告げない。


リンゴはたった一つだけ。最初に口をつけた人間のものになるのだ。


どうかその実を俺におくれ。


お前だけのスノーホワイトでいてやるから・・・





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