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精霊に愛された娘  作者: 宵月氷雨
第一章
8/57

第5話【改】 王子、宰相とお話する

9/27 大筋は変わっていませんが改稿しました。

お手数ですが読み直していただけると幸いです。




 今夜の夜会は顔合わせが主な目的なので、候補としてやってきた令嬢しか招かれていない。

 しかしそれだと男女の比率が偏り過ぎる、との理由から、騎士団の者から官吏まで、監視の意もこめて借り出されていた。

 なので令嬢全てが殺到するということはなかったが、やはり一番多くの令嬢が集まるのは王太子の周りである。

 次から次へとやってくる令嬢たちの中で、おそらく助けを求めているだろう王太子を、ただ見守る二人の男がいた。

 片や、銀髪紫眼の青年。

 片や、くすんだ金髪に空色の瞳の少年。

 明らかに纏うオーラの異なる彼らの下にも無論令嬢は沢山やってきたが、銀髪の青年がそっと前に出て、


『彼と二人で話がしたいのです……』


 と哀愁たっぷりに告げたところ、何故か黄色い悲鳴を上げて我先にと引いてくれた。

 金髪の少年としては、何かおかしな誤解をされた気がして非常に不本意なのだが。

 おかげで彼らは安息を手に入れられたということになるので、怒るべきか感謝するべきかわからなかった。


「ユーリ、そんな難しい顔をしているとそのうち眉間のしわが消えなくなりますよ」

「誰のせいだと思ってるのさ……」


 飄々とうそぶく青年にがっくりと肩を落としつつ、少年――ユリウスはそう返した。


「何か男として致命的な誤解をされた気がするよ……」

「おや、どんなことでしょう? 私は事実を述べたまでなのですが」

「うん、事実をちょっと歪曲して伝えたんだよね。主に顔と声で」

「私はいつもこんな顔ですよ」

「シーグレイが悲しそうな顔をしてた覚えはないけど」

「あぁ、そうでしたね」


 そう言っていつも通り穏やかに笑うのは宰相、シーグレイ・トレニアである。


「美しい女性の相手ができないことが悲しかったんですよ」

「嘘ばっか……」


 浮いた噂一つ見当たらない男が何を言う。

 そもそもシーグレイは自分にも他人にも求める理想が高すぎるのだ。

 誰よりも自分に厳しく、悟らせないものの他者にも厳しい彼のお眼鏡に適う令嬢が、さっきの群れの中にいたとはとてもじゃないが思えない。


「ユーリは私と話したくなかったのですか?」

「そんなこと言ってないよ」

「では両想いですね」

「ち・が・う・で・しょ!」

「嫌いですか? 私のこと」

「僕はノーマルなの! 女の子が好きなの!!」

「何を言っているんです、ユーリ。私だって女性が好きですよ」


 こめかみを押さえて小さく嘆息。

 からかわれているのだと知って反応してしまうのがいけないのだと、わかってはいるのだ。

 だけどシーグレイのは冗談に聞こえない。

 時には虚言を真実としなければならないシーグレイの言葉にはいつも、無視できない重みがある。重みを乗せるための方法を知っている。

 からかうための言葉にそこまでしなくても、と思わなくもないが。

 きっと彼はそういう時、嘘は言っていないのだろうとも思うのだ。

 ところで、シーグレイが二十二という若さで国の頭脳たる宰相位を賜っているのには、いくつか理由がある。


 第一に、前宰相から自分が健在である内にと、地位を譲られたこと。

 後継を育てるには実際にやらせてみるのが一番良い、自分がいれば細かくフォローできるからと、数ヶ月前に地位を譲った前宰相だが、もともと彼が厳しく仕込んでいた上に優秀なシーグレイ、大きな事件も起こってないので、経験者ならではの助言以外はほぼ必要とせず今日に至る。前宰相は逐一後継の動きを気にかけながらも、悠々自適に暮らしている。


 第二に、そろそろ国王がアルフレッドに譲位しそうだったこと。

 三ヶ月後、と明確な期日を決めたのは最近だが、国王も宰相と同じく、自分がいなくなる前にアルフレッドを一人前にしたいと願った。死んだ自分の後を継ぐのではなく、少しずつ教えていってやりたいと。そのためにも臣下に一人くらい心の許せる味方がいた方がいいだろうと。

 アルフレッドには異母兄弟姉妹がたくさんいる。ユリウスもその一人だが、彼のようにアルフレッドが王位につくことを心の底から喜んでいる者ばかりではない。そもそもアルフレッドは長子ではないのだ。

 アルフレッドの父である現王陛下は、若い頃恋をし、両想いとなった貴族の娘を正妃――すなわち王妃として召し上げた。その相思相愛ぶりに周りの反対も特になく、一番大変な後継ぎ問題も解決かと当時の重臣たちは安心していた。

 しかし一年経ち、二年経っても王妃に子供はできなかった。民に不安が広がり、重臣たちも一刻も早く後継ぎをと口を揃えた。

 王は五年、頑張った。それ以上は抗い切れなかった。家柄を加味して選ばれた娘を幾人か後宮に召し上げ、側妃とした。

 数ヶ月後、一人の側妃の懐妊が知らされた。王と共にそれを聞いた王妃は穏やかに微笑んで、祝いの言葉を述べられたという。

 しかし王が愛したのは王妃一人だった。自分の都合で召し上げてしまった側妃たちをいつも気にかけていたとはいえ、王の王妃への想いは揺らがず、また王妃からの想いも揺らがなかった。

 二年が経ち、既に側妃の子が四人ほど生まれていた春、王妃懐妊の知らせが王城を駆け巡った。王の喜びは大きく、勤めと割り切って通っていた側妃のもとへもしばらく通わなくなった。当然ながら側妃たちの不満は募ることとなる。

 重臣たちは王が王妃を深く愛していることを知っていたため、一部を除き子の誕生を心待ちにしていた。

 そうした王側の期待と喜び、側妃やその親族、側妃に近い臣の恨みと妬みの中で生まれた王妃の第一子は、王妃譲りの金の髪と王譲りの空色の瞳を持つ男の子だった。この子がアルフレッドである。

 正式な後継ぎが生まれたとはいえ、召し上げた側妃たちは皆格の高い貴族たちで無下にする訳にもいかず、それからも王は後宮に通うこととなった。それから生まれた子供は、王妃の子である王女が一人と、側妃の子に男児が四人、女児が三人。

 そのうちの一人、第三妃の長男がユリウスだ。王妃と第三妃はもともと知り合いだったらしく他の妃たちよりも仲が良く、結果ユリウスも四つ上のアルフレッドを慕うこととなったのだ。その過程で、シーグレイとも知り合った。ちなみにアルフレッドとシーグレイは、幼馴染みという程ではないが、十代前半くらいからの付き合いだ。

 しかし他の側妃の子供たちとの和解への道は遥か遠く、また城の奥にある意味引きこもっていたアルフレッドには信用できる貴族や臣下があまりいない。

 故に気の置けない友人を王太子の近くにという国王の意見を前宰相が支持した形である。


 他にもいくつか理由はあるらしいが、ユリウスも詳しいことは知らない。アルフレッドが引きこもっていた理由と関係があるらしい、とだけ。

 とにかくそのような理由から、シーグレイは二十二で宰相位に就いているのだ。

 よくよく考えてみると凄いひとである。

 時折、彼の隣に並ぶことに気後れすることがある。

 彼と対等に並べ立てる同年代の人間を、ユリウスは知らない。自分を含めた兄弟姉妹の中にもいないだろう。

 アルフレッドも今のままでは無理だ。

 でもいつか。引きこもっていた分の遅れを取り戻した時。

 義兄はシーグレイの上に立つのだ。そしてそれは、さほど遠い話ではない。きっと。


「それで、誰かめぼしい令嬢はいたの?」


 ユリウスは目を細める。

 たくさんいるこの令嬢たちの中から一人、あるいは数人。

 人付き合いに慣れていないアルフレッドは大変だろうなと思う。

 相手が異性となれば尚更だ。


「まずは、筆頭候補と言われている三人でしょうね。人柄までは知りませんが、身につけている教養に間違いはないでしょう」

「えっと……シエラレオネ・アザレア、フローレア・ローダンセ、マリエ・アスター?」

「ええ、その通りです。宰相という立場から言うなら、その三人の中から選んでくれるとありがたいのですが」


 面倒事が少ないですからねと、やはり穏やかなシーグレイの声。


「でも誰を選んでもなんとかするんでしょ?」

「仕事ですからね」

「仕事?」

「仕事です。……だからたった一人、絶対選んではならない彼女さえ選ばなければ、なんとかしますよ。殿下のためにね」

「選んじゃ、いけない?」


 選ばれるために集まったんじゃなかったのか。

 それがたとえ、アルフレッドにではなく王太子の嫁に、であっても。


「何事にも例外はあるものですよ。――ねぇ、ティリエル?」




中途半端なところで切ったので、次もできるだけ早く投稿します。

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