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精霊に愛された娘  作者: 宵月氷雨
第一章
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第20話【改】 王様、言い伝えを語る

3月9日、改稿しました。

やっと期末テスト終わったー! とういうか一年終わったよ!

昔より一年が短い気がします。




「そもそも、なんで来たんだ? 嬢ちゃんは」

《君が呼んだから》

《家族構成を考えれば、召集がかかった時に来るのはあの子だろうて》

《この妃選びも茶番よね》

《優しいんだか冷たいんだかわからないよな、あんた》


 呟いた疑問に一斉に返ってきた答えは、お世辞にも好意的とは言い難かった。

 今日予定されていた分の最後の謁見を終えたラウディオは執務室に戻ってきていた。

 今日の謁見も特に面白いことはなかった。ご機嫌伺いと、もっと露骨に虎の威を借ろうとする狐とか。

 話す内容からしてつまらないのだ。もっと面白い話はできないものか。

 嘆かわしげに溜息をついたラウディオに、精霊たちからは非難の嵐だ。


《溜息つきたいのはあの子よ、まったく!》

《そもそもはお主が伝えるべきことを伝えてないのがいけないのだろう?》

《釘を刺しておくべき。夜会の様子からすると危険》

《まぁあの子がモテるのは当然のことだけどな》

「うるさい。わかってる」


 耳を塞いで仏頂面をするラウディオに、精霊たちはけらけらと笑う。

 ラウディオは溜息をついて、件の少女に思いを馳せた。

 精霊の加護を一身に受ける娘。

 それ故に彼女は大切なものを失い、無意識に力を封じてしまったと聞いている。


「俺のせいだからな……」

 機密情報が洩れたのは、他の誰でもない国王の責任。

 だからラウディオは、例え息子が望もうと、彼女から自由を取り上げる気は一切ないのだ。


《あれ、宰相と元宰相じゃねーの?》

《本当。用事?》

《シーグレイは苦労してるわよね》

《ヴィンセントはいざという時以外は扱いが面倒じゃからの》


 土精の言葉が終わると同時、がたんと音を立てて執務室の扉が開く。

 ラウディオはまともに精霊たちの話を聞いていなかったが、ノック無しに開いた時点で誰かの見当はついていた。

 何やら叱り付けるような声が聞こえて、押し込まれたヴィンセントの後ろで扉が閉まる。

 困ったように頬をかくヴィンセントは、無造作にラウディオに歩み寄ってその目を覗き込んだ。


「あのさ、ちょっと聞きたいことがあんだけど」

「何だ、手短に言え」

「機嫌悪いなぁ。まぁいいや。お前、俺の姪のこと知ってたっけ?」

「知ってる」

「あの子がさ、ちょっと気になること言ってたんだよ」

「だからなんだ」

「ティリエルは――」



『ティリエルは駄目ですよ、叔父様。その瞬間、未来への可能性は潰える』



 言葉が足りなすぎて意味があまりよくわからないが、確かにそう言ったとヴィンセントは記憶している。

 ラウディオは眉根を寄せた。ヴィンセントはわからなくても、ラウディオにはその台詞の意味がわかっていた。

 だからこそ疑問なのだ。

 どうして彼女が知っているのかと。


「……いや。お前の姪は確か嬢ちゃんの親友だったな?」

「嬢ちゃんっていうのが誰だかわからないけどな、そうだと思うぞ」

「そういう、ことか……」


 ラウディオは目許を覆って背もたれに体重を預けた。


《釘、刺された》

《さすがミーナよね》

《あの子は知らないからの》

《気ぃ遣わせるなよ》


 わかっている、とラウディオは頷く。

 これは牽制。そして忠告。

 わかっている。だからこそスカーレット伯爵家は、王家と城と何の柵も持たない。


「おーい、ラウディオ? どうかしたか?」

「いや、何でもない」


 スカーレット家にも触れを出したのは、偏に怪しませないため。


「何でもないって反応じゃないだろ。言えないことなのか?」

「……そうだな。お前は王家に伝わる伝承を知っているか?」

「あぁ。確か、『其は罪人(つみびと)なり』、だっけか」

「そうだ」


 ラウディオは目を閉じて、王族の人間が必ず暗唱させられる短い一節をそらんじた。



   無垢なる白き子生まれし時

   全ての偽り暴かれん

   光満つ時闇溢れ

   世界は真を思い出す

   崇めし昼、沈みし夜、覆いし暁

   混ざり合いて

   歪みの歴史正されし時

   全ての力解き放たれん

   祝福されし大陸の子らよ

   忘れるなかれ、其は罪人なり



「何回聞いても意味わかんねぇ詩だよなぁ」


 ヴィンセントは腕組みをしてそう漏らす。

 正直同感だったラウディオは、それをおくびにも出さず肩をすくめた。


「王族は皆、子供の頃からこれを聞かされて育つ。だがな、これには続きがあるんだ」

「続き?」

「そうだ。王になる時、先代王かあるいはとある家の長から告げられる」


 すうっと、ヴィンセントの顔から笑みが消えた。

 おそらく「とある家」の目星が付いたんだろう、とラウディオは思う。相変わらず鋭い奴だ。

 続けようとしたラウディオを手を振って止め、ヴィンセントは隣に置いてあった椅子にどかっと腰掛けた。


「いい。わかった。本当かどうかわかればいい」

「わかったか?」

「あぁ。残念ながら本当だろうよ。まったく、うちの姪に何吹き込んでやがる」

「お前の姪は嫌なら聞かない娘だろう」

「わかってるよ」


 頬杖をついて、返る答えは物憂げだ。

 あの姪が、親友のことを殊の外大切にしていることをヴィンセントは知っていた。

 若くして妻に先立たれたヴィンセントに子供はいない。

 シーグレイがそうと言えばそうだが、かわいいとは言い難い子供である。

 だからヴィンセントが姪をちょっと余分に可愛がるのも仕方ないかもしれなかった。


「……ちょっとじゃないがな」

「何だよ」

「何でもない」


 途端に凄んできたヴィンセントを適当にあしらって、ラウディオはとりあえずの算段を立て始める。


(――まだ、言えない)


 まだあの子には、いろんなものが足りていない。伝えるのはまだ早い。

 だからこそ今がある。

 外界と隔てて育ててしまったが故に足りないものを、補えるように。


(理由はなしで、嬢ちゃんだけは駄目だって言っておけばいいだろう)


 仮に本気だったとしても、どんなに切望したとしても、彼女だけは駄目なのだ。

 遥かな昔から伝承されてきたこと。

 決して混ぜてはいけない三つの血。

 どんどん、と扉が音を立てる。

 はっと思考から引き戻されたラウディオは、思わず何事かと腰を浮かせた。

 返事をする前に入ってきた男が、ぐるりと部屋を見回し不気味な笑みでつかつかと歩いてくる。

 というか、アルフレッドだ。

 真っ直ぐに向かう先は、ヴィンセント。


(……お前何かしたのか)

(知らねーよ、何であんな怒ってんだよ!?)


 目配せを交わす二人の前で立ち止まって、アルフレッドはまずラウディオに頭を下げた。


「突然申し訳ありません、父上」

「いや、構わないが、どうかしたのか」

「実は一つ、許可をいただきたいことがありまして」


 この時のアルフレッドには、否と言わせない何かがあった。

 やや引き攣った顔で続きを促すラウディオに、アルフレッドは極上の笑みを向ける。


「父上の横の、その男を」


 すっと指し示した右手が握り込まれる。

 ラウディオは不穏な空気に逃げ出そうとしたヴィンセントの服を捕まえた。

 この場を収める方法がわかったからだ。


(くそ離せラウディオ!)

(逃げるな、何とかしてやるから)

(何? ほんとか?)

(あぁ)


 すなわち――


「――俺に一発殴らせろ」

「存分にやれ」


 憐れな羊を生贄に。

 にこやかな笑顔で指を鳴らすアルフレッドを前に、押さえ付けられたヴィンセントが悲鳴を上げる。


「ラウディオてめぇ裏切りやがったな!」

「最小の犠牲で済むならそれに越したことはない」

「偉そうに何様のつもりだよ!?」

「国王様だ、黙って従え」

「ふざけんなぁ―――ッ!!」


 響き渡る絶叫に、城の住人たちは遠い目をして合掌したのだった。




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