02
-三十分間のタイムラグ-
日付が変わる数分前、いや、もしかしたら今日に日付が変わったときから、明日が待ち遠しく感じていたかもしれない。
そんなさまを筧に悟らせる気はなかった。別に、格好付けていたいわけではないが、こんなことで落ち着きをなくすのはあいつだけで十分だ。
秒針が進む音が自棄に耳につく夜の静寂の中、筧はどうしているかと想像する。
筧が日中からそわそわしていた様子には敢えて触れずにいた。日が暮れ、揃って夕食をとったときも、ちらちらと俺を窺う様を知らぬふりで通した。
あいつは今泣いているだろうか。それとも、すねて、疲れて眠ってしまっただろうか。
無意味に流れる機械を通した声も、ニュース番組内のそれに変わったころには耐え切れずに電源を落とした。それからも働き続けた規則音は、その瞬間が近いことを俺に伝える。
俺はゆっくり自室を出て、はやる足を鎮めながら隣室へ向かった。電気の類は照明を含めすべて落とした。あとは扉を開く音さえ気を遣えば、あいつに気づかれることなく目的を達せられるだろう。
視界に入りこんだ布の山は静かな寝息を漏らしていた。その様を見て、俺はふと、こぼれる笑いを止められなかった。
「なんだかんだ言って、お前も気に入ってるんじゃないか」
俺に気付いたもう一人の同居人を追い出し、俺と筧との、完全な二人きりの空間を作ると、それまであったぬくもりを取り戻すように筧は己の傍らを手繰った。
その手を抑え込み、ついで肩に手を添え筧が起きた時の準備を整える。そして…
日付が変わった瞬間に、俺は待ち焦がれた言葉を筧の耳に吹き込んだ。
2009/03/17