葦
こういうことってたまにあると思うんです。
なお、この小説はあえて、同じような言い回しや、口調を使っています。
段落変更も多用しています。
一行に書いてあることは一気に読んでいただくと雰囲気が出るかもしれません。
いつもの作風は無視して書いています。
「お前は落ち着きがない。無心になれ。何も考えるな」
今日、学校で先生から言われた言葉を思い出しながら、彼は自宅のベッドに腰掛ける。
無心になってみようと、心を静めてみる。
しばらく経って、ふと今朝家を出る前に床に落としてそのまま放置していたボールペンが目に入った。意味もなく座ったままそれを拾い上げる。
去年、中学の林間学校でやったビンゴ大会で貰った、何故かペン先と反対の位置にレーザーポインタを搭載した安っぽいデザインのボールペン。
中央部から三ミリくらい突出しているボタンを押してみた。
真っ赤な光の点が自室の壁に現れる。理由もなく、ただ、見つめる。
赤い。ただそれだけ。
赤い点をじっと見つめる。
突然光は消えた。電池が切れたのだ。
今度は、壁に青い残像が見える。
目をそらす。
そらした先の壁にも青い残像が見える。
「なんていう現象だっけ……これ? ……あ。考えちゃったよ」
彼はベッドに倒れこんだ。
「無心、無心」
目をゆっくり閉じる。
暗い。何も見えない。
音がする。
カチ、カチ、カチ、カチ……。
時計の音だ。
「無心だ、何も考えるな」
気にしないことに決めた。
カチ、カチ、カチ、カチ……。
意識しないようにと思ったら、余計に意識してしまった。
起き上がって時計を手に取る。
電池を引っこ抜く。
「無心無心、考えるな考えるな」
再びベッドに腰掛け、目を瞑る。
ただ、じっと動かない。
前ぶれもなく、着ているTシャツの丸首の部分が皮膚に触れる感触が気になりだした。
「無心……」
気にしない。
気にしない。
気にし……気になる。
凄く、気になる。
「…………」
両肩を上下に動かしてTシャツの丸首のポジションを変える。
それでも。
それでもなお、気になる。
彼はTシャツを脱ぎ捨てた。
「無心だぁっ!」
少しキレ気味に叫んだ。
彼は上半身裸でベッドに寝転んだ。
目を閉じる。
目に埃が入ってゴロゴロするのが気になる。
右の眼球の左斜め上がゴロゴロ。
強いまばたきを四回する。
今度は右斜め上がゴロゴロする。
右手の小指で埃を取ろうとする。
ゴロゴロが収まり、埃が取れたような気がした。
右手の小指を見る。
よく、見る。
ゴミらしき異物が見当たらない。
でも、ゴロゴロは消えた。
「あぁっ! あぁーーーーーー!! 無心だろうがぁ!!」
怒鳴り声を上げ、そのまま疲れ果てて、彼はベッドに倒れこんだ。
「……しかし、眼球の裏側に入ったゴミってどこに行くんだろう」
人間は考える葦である。
人間の目は見ている色の刺激と反対の色を網膜上に作り出し、色の刺激をやわらげています。このような現象は補色残像というそうです。
先生に言われたことを純粋に遂行しようとする彼はすごいですねw
考える葦ってこういう意味じゃないですよね(笑)
気晴らしに即興で書いたものです。悪しからず。
楽しんでいただけたら幸いです。




