大切なもの
「感情を表に出すな。意思を持つな」
何千回も繰り返し聞かされた言葉が呪いのように頭から離れない。
段々と自分が人間ではなく化け物のように変わっていくようなそんな気がした。
「お兄様!!」
6歳下の弟は俺にとって唯一の宝物だった。
身分も立場も関係なく、俺の身を案じてくれる、たった一人の大切な兄弟。
化け物のような俺だが、弟といる時だけは人間に戻ることを許される気がした。
俺はしゃがんで膝をつき、弟と目線を合わせる。
「どうした?」
そう問いかけると、弟は少し照れくさそうに俺に抱きつき、手に持っていた花冠を俺の頭に乗せた。
「綺麗でしょ?作ったんだ!」
そう無邪気に笑うその顔を見ると自然と胸が温かくなる。
「ありがとう、とても嬉しいよ」
俺は弟の頭をそっと撫でながらそういうと、
弟はパッと瞳を輝かせ、わーいと足をバタつかせた。
「お兄様にも観てほしいの!お花が綺麗に咲いていたんだ!!」
そう言いながら、弟はこっち!と俺の手を引く。
その小さな仕草に愛おしさを感じながら立ちあがろうとしたその時だった。
俺たちを見た母親がこちらに近づいてきて弟の手を叩く。
「行儀がなっていないわね」
母はそのまま虫を払うようにしっしと手を払った。
俺は咄嗟に弟を胸に抱き、会話が聞こえないよう耳を塞ぐ。
「、、、要件は?」
そう言うと母は不機嫌そうに眉を顰め仕事よ、と一言残し去っていった。
心臓がドクリと跳ねる。
「…お兄様まっくら!」
「あ、ああ。すまない」
慌てて体を退かすと弟は今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「どこか痛かったか?」
そう尋ねると弟は小さく首を横に振った。
母親に叩かれた手が痛むのかと思ったが、どうやらそう言うわけではないらしい。
弟は俺の裾を軽く引くと、もう行っちゃうの?と控えめに尋ねた。
幸い痛いところはないようで安心しだが、同時に罪悪感が襲ってくる。
「ごめんな、また今度連れていってくれないか?」
そう言うと弟は涙を拭きうんと元気よく頷いてくれた。




