第四話 邂逅(諒視点)
ー今日◯◯市中にて大規模陥落が発生し、
なお全ての生死生存確認には…
「本当に揺れたからね」
「お前の生存能力まともじゃない」
昼間、健吾に促されて出た街中であり得ない地盤沈下が発生。
そして、あり得ない生存能力で難を逃れた僕が事態を説明しつつ、健吾と2人でご飯を食べていた。
もちろん健吾支払いのUber。
本当に事実は小説より奇なり、だ。
がらがらと落ちていく地面、
落ちていく人、モノ、諸々。
原因は解明中らしい。
そんな中、僕の目の前で地面が裂けるのが止まり、僕は助かった。
止まった瞬間、生きているということに自分が如何に執着していたのかが理解できた。
「僕はこれを小説に残さなくては」
「……」
「事実を明確に、感情は色あざ…」
「死人出てんだぞ、しばらくはその題材扱うな。人で居たかったらな」
健吾にぴしゃりと言われ、昼間を思い出す。
阿鼻叫喚。
確かに混沌とした世界だった。
だからこそ、だからこそ書かないのか?
死人に失礼だから?
悼むなら静かに黙るべきなのか?
彼らの気持ちを知って欲しいと思うのは人としておかしいのか?
じゃあまた暫くしたら来る。
そう言って健吾は帰って行った。
よく分からない。
なんだろうか胸やけのような、
甘いものばかり食べた後のような、
この気持ち悪さ。
そういえば、あのコーヒーショップは無事だったろうか、あのバリスタの女性は無事だったろうか、答えはわからないし、分からない方が良いのだろう。
紛い物の溢れる世の中には、僕に生きろと、作り物には苦しんで生きていることがお似合いだと言われているような気がして堪らなくなる時がある。
いまが、そうなんだろう。
健吾が閉じたドアに鍵をかけながら、
自分の醜さに蓋をした。
そして、いつからかふと机につっぷして寝ていたらしい。
僕は、書き物をしていたまま眠ったようだ
「こんばんわ」
え?
ぎゅるん!!!音にすればそんな様子で右手がひしゃげた。
え??
「おやおや、挨拶もなしですか?」
ギュルギュルと雑巾を絞っていくように腕が捻れていく。
「なっなっな!!!」
「ん〜ん、もう捻りきれてしまいそうだから、要件だけ伝えようか」
「おまっ、な!止めっ…」
「ふふふ、ボクはゴースト、つまりはお化けさ。名前なんてもうずっと前に忘れてしまったから、自己紹介も何もなくてね。ねぇ君はどうやら物書きだ。その右手、無くなっちゃったらもう使い物にならなくなるねぇ。
あ、左手も…」
「止めって、止め…」
「良い子は好きです」
「な、ななな」
「ボクは長年生きてきたせいか、なにか思い出らしい思い出がもう無くてね。毎日がつまらないんだぁ。
そこでだ、君と契約して欲しい。
ね、君の思い出ちょうだい。そしたら、その腕と物語をあげるよ。本当いろんな物語を。売れっ子作家まっしぐらだ」
ね、君の思い出ちょうだい?
ゴーストはそういうと顔を醜く歪めて笑った。
ーつづくー