第三話 どうして貴方は幸せを求めるのか(ゴースト視点)
第三話 どうして貴方は幸せを求めるのか(ゴースト視点)
くんくん、
くんくんくん。
ぼくは鼻をひくつかせた。
なんだか、良い匂いがしますねぇ。
絶妙にアンバランスな、とても良い匂いだ。
憎しみ悲しみ恨み辛み絶望……。
ぜぇ〜んぶが混ざっているのにどうして貴方は喜び、そして、幸せを求めようとするのでしょうか?
巷で言う『試験管ベイビー』の貴方は、自身の生い立ちに悩んでいるはずなのに、今の生活も底辺なはずなのに、どうして…?
おっと!『試験管ベイビー』は今や死語と言うんでしたっけ!
長い間存在していると、そのあたりがフワフワしてきますねぇ。
まあ、ぼくゴーストだから死んでいますし、フワフワ浮いてますけどね!
さて。
貴方は、強いのでしょうか?
いえ、弱いのでしょうか?
貴方は、賢いのでしょうか?
いえ、愚かなのでしょうか?
んー違う違う
なんでしょう、なんでしょう。
わかりません。
わかりませんねぇ……。
あゝ、きっと、ぼくには分からないからこそ良い匂いがするのかもしれませんねぇ?
パーカーにストレートパンツ姿の眉目秀麗な男(つまりは、ぼく)が人並みをすりぬけふわりふわりと1人の青年ー山路諒ーの周りを飛び回る。
つまり、ぼくの身体は透けていて、人間を通り抜け、またくるくると宙を舞っている。
ぼくはいつからゴーストなのだろう、
気がつけば……、いや死因は知っているわかっている。
だけど、それがいつだったかが分からないから困ったものです。
ですが。
今のぼくにそれはもう問題ではありません。
問題は他人の思い出。
楽しいより悲しい。
嬉しいよりつらい。
そんな思い出が欲しいのです。
人は皆、醜いと長い時の中で見てきましたから。
はて。
長い時の中とは、幾年でしょうか?
もうわからないし、関係ありませんねぇ。
特に美味しいんですよねぇ。
彼のようなアンバランスな思い出は。
過去は悲しい。
しかし今は?
フフフフフ。
彼という人をずっと探していました。
ずっとずぅーっと……。
見つけた時、その恍惚感に身慄いしたほどです。
あゝ。
早く。
もっと早く近寄りたい。
さて、どうしましょうか。
でも、ただ姿を現すには意味がない。
どうしましょうか、どうしましょうか?
……喜びの後に、苦しみがあれば。
くすり。
ぼくは顔を醜く歪めて嗤いました。
まあ、しばらくは楽しめそうですねぇ。
あゝ、嬉しや、嬉しや…。
ーパチン!!
指を鳴らすとぼくの姿は消え(元から人間には見えていないけど)、それと同時に地面が崩れ落ちだした。
地盤沈下だ!!!
誰かが叫んだ。
ーつづくー