第一話 ボンクラ能無しお坊ちゃん(諒視点)
僕はまわりから、『ボンクラの能無しお坊ちゃん』という事で通っていることに違いない。
いや、自分ですらそう思う。
だけどそれがなんだ?
僕には小説を作り上げていくという崇高な仕事の中に住んでいるのだから。
まぁ正直、売れては居ない。
いや、一部には好評の、はず。
家にはは溢れかえる量の尊き本たち。
部屋は八畳ワンルーム、台所とトイレは共同。
実家は巷で有名で名前を知らない人間がいないだろうくらいの大富豪だが、僕はそんなものに興味はないので今はこのアパートに住んでいる。
ワンルーム八畳で色々共同のこのアパートで、家賃がお高い人気部屋とお決まりの2階角部屋のこの部屋は西向きで日当たりはよい。少し眩しいが、本たちが輝いて見えるのだからやぶさかではない。
本が日焼けしているように見えるのは気のせいだろう。
一度、ご本様の重みに耐えかね部屋の一部の床が抜けてしまい、大家から大金を巻き上げられたが、ご本様はありがたい重さなのだよ、と諭しても通りはしなかった。
そんなこんなな毎日は、24時間読書や執筆に費やし、食事の時間などない!!
「いや、食ってんじゃん」
幼馴染、兼、同業者、兼、(彼曰く)僕のハウスキーパーの天倉健吾が毎日運んでくれるコンビニ弁当を口に運ぶ手を止めた。
「何を言うか!? これは食事ではない!! 粗末なことはするなと父さまから学んだ大切な行為であるぞ!!」
いやいやいや…と健吾が首を振る
「だったら明日からは買ってこねぇよ」
「またおかしな事を言う? 天に与えられた生を軽んじてはならぬとお爺さまより諭されているのだよ、この身体は!!」
はぁ、とため息をつき、健吾はあたりに散らかった衣類を片付けていく。テキパキと。
こうしていると、本当に健吾はハウスキーパーのようだ。
いい嫁になる、と言ったら少し前に頭をぶん殴られた。痛いじゃないか。
しかし、彼もまた小説家である。
まあまあ売れた作家だ。
……まあまあ、売れた作家だ
たまたま売れた作家だ。
そして、
たまたま有名私立学校の幼稚舎からの友だ。
面倒を見ず見殺しにするのは辛い
そう健吾は宣うのである。
ぐぬう。
悔しいが新人賞を掻っ攫いデビューし、大作を成し遂げた彼にはなぜかあがらえない。
何故だろうか?
自分ではよく分からない。
友人がいないわけではない、
だが、彼のように心に触れてくる友は居なかった。ただ、ただ、そばに居る。
ただただそれだけの事だ。
他の友は、僕を大富豪の息子としか見てない。僕を誰も知らないんだ。
それなのに、彼は僕をちゃんと僕個人として見てくれて、毎日、作家業務をおいて、生存確認をしてくれている。
つまり。
僕にはほぼ収入がないからだ。
実家からは勘当同然。(何故に仕事をせねばならん)
出す本はあまり売れず(時代が僕に追いついてこないだけだ)
家賃もろもろは少ない印税で賄っているが、食費は100%彼もちだ。
「たまには、外にもでろよ」
「本屋とか…」
「本屋以外」
「本屋以外なら出ない」
「とにかく、でろっ!!」
この日を僕は忘れない。
いや
忘れてやらない。
人生、最初で最後の経験だと?思い出だと?
そんな言葉を忘れない。
僕はこの日、一度小説家の命を失った。
ーつづくー