プロローグ(ゴースト視点)
プロローグ(ゴースト視点)
ぼくはいつゴーストになったのだろう。
果てしなく遠い昔のようで、ついさっきのような気がする。
でも、ぼくの『物語』はしっかり記憶している。
だけど、ぼくの『物語』だけでは、喜びや楽しさが枯渇してきていた。
もっと、もっと、もっと。
面白い『思い出』がほしい。
そんなとき、ぼくはある男に目をつけた。
年は20代後半。
名前は、山路諒。
呑気で鈍く、危機感のない、お金持ちの親に見切りをつけられた執筆狂のお坊ちゃんだった。
彼は、思い付けば何処でもノートを広げ、執筆するやつで、集中力はあるが、危機感はないから、財布をスられたり、騙されたりしても「まあ、いいか」で済ます人間だった。
しかも、小説家としては売れておらず、暮らしはギリギリだった。
ぼくは、諒が寝ている間に彼のノートを盗み見た。
キミの投げ出されたノートの束
とても良い匂いがする。
なんと素晴らしい。
なんて素晴らしい!!
ぼくが求めていたものだ!!
ねえ、ーーーーー。
そう声をかけざるをえなかった。
諒は突如起きたポルターガイストで右腕がひしゃげ、声にならない声を上げ、もがき苦しむ。
ねぇ、それちょうだい。
キミのぐちゃぐちゃに潰れた右手、返してあげるから。
キミの、
思い出をちょうだい。
死神のもつ鎌はぼくにはない。
けれど腕をあげられる力くらいはあるんだ。
一思いに死なせてあげられないけれどね。
ねぇ、ぼくの『物語』をあげるから、
キミの『思い出』をちょうだい?
ープロローグendー
ープロローグendー