第9話「ムチと調教」
「キャンド…いえ、お師匠さま!私を弟子にしてください!!!」
突然朝一、授業が始まる前にエリザベスが私の前に来て土下座した。
周りがザワ…ザワ…してる。
まるで私の絵柄が変わってこめかみのあたりに青ざめる表現の縦線やアゴが伸びているかの様な感覚を覚える。
「あ…あの…話がよく見えないんだけど、師匠ってどう言う事?」
この人は私と同じ転生者だから言葉遣いに気を遣わなくて良いから楽だし、元は同じ日本人だというから、同郷でもある。
「ニコル…いや、ニコル様に私のムチの思い上がりを教えていただきました!」
ムチの思い上がりって何…?
っていうか、ニコルの仕業か!
そういえば昨日夜遅くに「姉様の害となるものを排除しておきました。ついでに調教も」、と言っていたのはこの事だったの?
「つきまして、私めを是非キャンドル様の弟子にしていただきたく参上致しました!」
周りがさらにザワつく。
「あの性格の悪いキャンドルを手懐けるなんて一体なにしたんだ」とか「キャンドルもああ見えて相当極悪な性格に違いないぜ」
とか色んな噂が聞こえてくる。
嗚呼…ますます私の評判が地に落ちていく…。友達が…。
「あ…あの私人に教えられる程凄くはないし…師匠なんてガラじゃ…」
「いえ!あのニコル様程のお方がキャンドル様のムチは次元が違うとおっしゃってました!。是非わたしくしめを弟子に!それとも私では弟子として不足でしょうか!」
さらに周りがザワつく、この空気にもう耐えられない!取り敢えずこの場だけでもおさめるしかない!
「わ、わかったから!弟子にするのでここは一旦引いてもらえませんか?」
「ありがたき幸せ…」
あのプライドの高いエリザベスが涙を流している…。
そうしてエリザベスは去っていった。
弟子の件は後でどうとでもなる!と思う。
もうニコルに全部押し付けようかな、元はというとあいつのせいなんだし!
昼休み、私はいつものベンチでいつまの昼食を食べている。すごく食べづらい…。
目の前に片膝をついて片脇に本を抱え込んでいるエリザベスがいるからだ。
き、気まずい…。
「あ、あの…昼食とりに学食にいってらしたら?」
「昼食は早弁で済ませました」
早弁!?早弁て何?そんなのがこの世界にあるの?
あ、そういえばエリザベスが持ってる本、クリスやエドワードも持ってたな…。
「あの…その本なんですか?」
「これは…」
エリザベスは両腕をクロスする様に本を抱きしめながら、「これはバイブルです」と片目から涙をほろりと流しながらそう言った…。
何の本なのか見当付かないけど、先の事件の時のクリスやエドワードの本を見た時の反応からしてあんまりよろしくない感じの本だと言う事は直感で分かった。あまり詳しくは聞かない方が身のためかもしれない…。
「そ、それより土地の件は大丈夫でしたの?本当に頂くことになっちゃいましたけど…」
「はい、お父様はかなり怒ってましたけど、大丈夫です。いざとなったら調教しますから」
調教…なんだか私の周りで良からぬ癖の輪が広がってる気がする…。
エリザベスが突然、
「下僕ふたりとも、出て来なさい!」
と言うと、後ろの茂みからガサッとクリスとエドワードが居た。
この2人、絶が使えるのか!?気配が全くしなかったぞ!
「げ、下僕っていつの間に2人はエリザベスさんの下僕に?」
「いえ、違います。この2人はあくまでキャンドル様の下僕であり、わたくしもまたキャンドル様の下僕です。わたくしたち3人で常にキャンドル様の安全をお守りしますわ」
私は出て来たクリスのエドワードの服の不自然なシワにすぐ気が付いた。
この2人…さては出てくるまで上半身を縄で縛ってたな!?!?
「おっと、それは出過ぎた真似というものですよ、3人とも」
ニコルが一瞬で現れた。
「3人とも姉様の下僕になるのは結構ですが、姉様をお守りするのは僕1人で十分です。そこまで頼んだ覚えはありませんよ」
「とは言ってもあなた1人じゃカバー出来る範囲に限界があるんじゃなくて?私達3人ならそれもなくなるわ」
「見返りは?」
「さらなる調教」
「良いでしょう」
良くねぇよ!!!!!!!!!!!!!!
勝手に話進めるな!
「キャンドル様」
「はい?」
「まずはお近づきの印に、と思いまして。首都でも有名なチョコレート屋のトリュフチョコレートを持ってまいりました。お口に合うか分かりませんが、どうぞお受け取りくださいませ」
「えっ、いいんですか?」
「もちろんでございます。あ、一つだけご注意を。このチョコレートは鮮度に敏感でして、夜まで時間が経つと風味が損なわれるかもしれませんので、放課後にでも召し上がって頂けると良いと思いますわ」
「わー、ありがとーエリザベスさん。あたしのこともキャンドル様じゃなくてキャンドルでいいですよー」
「いえ、わたくし如きがキャンドル様を呼び捨てにするなどそれこそ100年早いと言うもの。それに関してはご遠慮したく思います」
「そ、そう。あ、もうそろそろ呼び鈴が鳴る。みんな、じゃーねー」
私は3人の元を去った。(ニコルはキャンドルとの話がついた瞬間には消えていた)
キャンドルがその場をさると、クリスとエドワードとエリザベスはニヤリと笑った。
「あとは運を天に任せるだけ…うまくといくといいですわね?」
エリザベスはクリスとエドワードにそう言って、2人はこくりとうなづいた。
夕方遅く、夕日に夜の帳がかかろうとする頃合い、キャンドルは中庭のベンチでスヤスヤと寝ていた。
横にはチョコレートの箱があり、中は空っぽになっている。
「フッ、かかりましたわね。クリス様、エドワード様。あとは私どもの希望通りの展開になると良いのですが…」
キャンドルはエドワードの腕に抱かれたまま、どこかへと消えていった…。
目を開けると、どこか私の知らない部屋にいた。
私は椅子に座っている。
どこだろここ…。
周りを見渡すと、立派な椅子とテーブルこそあるものの、部屋自体は普通の部屋ではなく、どこかの倉庫のような部屋だった。立派なテーブルと椅子だけが浮いている。
見るとテーブルの上にはさっき食べてたチョコレートがまたあった。めちゃくちゃ美味しかったけど、あのあとなんだか眠くなって寝ちゃったんだっけ…。
と考えていると、
「お目覚めになった様ですわね」
エリザベスの声がした。
「…あたし…どうしてこんなところに…」
あれ?良く見ると後ろにクリスとエドワードまで片膝ついた姿勢でいる…。なにがどうなってるの…?
「あなたが中庭のベンチでそのままおやすみになってたので、たまたまみつけた私達があなた様をここまで運んだと言う事ですの」
「でもここ…あたしの部屋じゃない…」
「ええ、せっかくですから私どもとキャンドル様の親交をもっと深めておきたいと思いましてね。ここへご招待したという次第ですの」
親交って…。
「ささ、キャンドル様、先ほどのチョコレート美味しかったでしょう?」
「うん!」
急に元気になった。ホント、絶品だったわ、あれ。
「実はここにおいてあるのは先ほどのものとはテイスト違いですの。是非食べて頂きたいですわ」
「いいの!?」
「ええ、どうぞどうぞ」
一個食べる…。うっわ、めっちゃ美味しい!でも味がなんか変なような…もう一個…あれ…チョコレートを取る手が止まらない…。そして身体が火照って来た様な…。
…。
……。
………。
…………。
「キャンドル様?」
エリザベスがにっこりと微笑みながらキャンドルを覗き込む。
「なんだ?エリザベス。あたしになんか用なわけ?」
キャンドルは酔っ払っている。
キターーーーーーッ!
エリザベスとクリスとエドワードは3人顔を合わせて色めきだった。
せっかちなエドワードが早速キャンドルに突っかかる。
「キャ、キャンドル」
「キャンドル様とお呼びなさい。この筋肉脳みそ!」
「き、筋肉脳み…」
だがエドワードの顔はうっとりしていた。
作戦は成功だ!3人はそう思った。
「キャ、キャンドル様、わ、私めに是非あなた様のムチをいただきたい!」
「…あんたねぇ、前からそうだけど、がっつき過ぎなのよ!いいわ!あんたがそこまで欲しいというのなら、欲しいだけくれてやるわ!ほら、欲しいですと言いなさい!」
「ほ、欲ひいですぅ」
はうっ!♡
ファッ!♡
ああん!♡
はぅあーーーーーー!!!!♡
エドワードは色んな縛り方をされた状態でビシバシとムチを打たれ、そのコンビネーションの悦びに心まで打たれた。ムチだけに。
「ず、ずるいぞっエドワード!キャンドル様!私めにもその縄とムチをいただけませんか!」
「今度はクリス?あなた王位第一継承者のくせにこんな事してて済むと思ってんの?」
「うぐっ」
「でも、そんな高貴なあなたが縄とムチ如きに堕ちるんですものね、人間ってホント滑稽だわ。あなたも欲しいの!?」
「欲しい!欲しいでぷぅ!」
「なら豚の様に鳴きなさい!」
うおっ!♡
はひっ♡
ブヒッ♡
ピギーっ♡
クリスとエドワードの2人は全身汗をびっしょりとさせながら、顔を火照らせて床に倒れてぐったりとしている。顔は完全に満足そうだ。
「キャンドル様!そろそろ身体もあったまってきた頃合い、そろそろ私めにもその極意を叩き込んではいただけないでしょうか!」
エリザベスが懇願する。
「いいわ、あなたの緩んだ縄の技術も含めてその歪んだ根性も結び直してやるわ!」
「あ、ありがたき幸せ!」
「エドワード!クリス!こっちに来なさい!モデルになりなさい!大体あんたたちはね、強く結べばいいと思ってるところが間違ってんのよ!だから要所要所で結び目が歪んでしまう!そんなんだからキッチリ結べないのよ!その歪んだ性格がそのまま結び目の歪みに出ているわね!」
「「ああっ、これ以上はぁぁぁぁぁ!!!」」
クリスとエドワードの雄叫びが部屋を超えて響き渡る。
「ん……?」
私はいつの間にか自分の部屋のベッドに寝ていた。側にニコルがいる。
「あれ…?私エリザベスやクリス様たちとどこかにいた様な…」
「いいえ?姉様はずっとここで眠っていましたよ。夕方怪しげなチョコレートを食べさせられてそのまま眠ってしまっていた所を私が救出しました」
「そ、そうなの…あたし…なんかその後とんでもない事をしたような…」
「気のせいですよ、姉様。さ、ごゆっくり寝てください」
私はそのまままた瞼を閉じた。そしてすぐに眠りの世界へ入っていった。
翌日。
頭が痛い……。
なんで…。
昨夜の記憶も一切無いし…。
ニコルに聞いてみたけど、ニコルからは何もありませんでしたよ。と明確な答えは返ってこなかった。
「全くあの3人…余計な真似しやがって…。姉様に勝手をできるのは僕だけだと言うのに、3人揃うと流石に僕の手に余るか…。まあ、エリザベスを完全に調教出来たっぽい所は良しとしよう。これで完全にエリザベスは姉様の犬だ」
ニコルは唇を噛んだ。
その日の昼食時間。
キャンドルの座るベンチの後ろの茂みには、これまで単純にグルグル巻きに縄を巻いていたクリスとエドワードの縄は亀の甲羅の様な縛り方に変わり、その2人を縛った縄の端を持ったエリザベスの3人が相変わらずキャンドルをストーキングしていた。