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第7話「ムチと金髪縦ロール」

 体格の良い蒼い髪のオトコ♂が寮のドアの前に立つ。

 そのオトコ♂が変わったリズムのノックをすると、ドアの向こう側から声がした。

『ムチ』

『縄』

 エドワードが答えるとドアが開く。

 そこには金髪碧眼のオトコ♂がいた。

「待っていたぞ、エドワード。当然あの本は手に入れてきたんだよな?」

「当然だ、同志よ。あのガキ、生意気だが仕事は早い」

 クリス王子はエドワードを部屋の中に招き入れる。

 クリスは従者にエドワードの分のコーヒーとちょっとした菓子を用意させ、しばらくどこかに散策してくるように言った。

 2人は無言のままコーヒーを口に注ぎ、ふぅとため息をついた。

「何で素晴らしいんだ、この小説は!」

「ああ、完全に同意するぜ。縄の巻き方にあんなに種類があったなんて…」

「ああ、私もてっきりキャンドルが使う一種類だと思っていたが、細かいものも含めるとたくさんの種類があるのだな!」

「ああ…そしてキャンドルのやつはきっと全ての技を伝授されているに違いない。喰らってみたいぜぇ」

「それに貴族と平民の許される事のない恋の逃亡の果てに緊縛プレイを次々と編み出しては追っ手を振り切り、2人の愛が深まっていく様はまさに芸術だ!」

「まったくだ。恋と縄を両立させる小説なんて、この世にこれたったひとつだろう。誰なんだこのジェイコブ・ジェイムス・エバンスというオトコ♂は。全く、サインが欲しいとんだぜ」

「ああ、もはや我々のバイブルだな。この本は」

 そしてオトコ♂達は夜まで小説について語り合ったのだった…。


 翌日、金髪を縦巻きのロール型にしていた女は非常にイラだっていた。

 最近、何を聞いてもキャンドル・クイットネスの噂ばかりだからだ。

 クリス王子を落としただの、

 エドワードを落としただの、

 果ては、男子寮内で起きた事件を解決しただの、

 何の噂を聞いてもキャンドルキャンドルキャンドル…。

(この学園で最も目立ってないといけないのはあたしのはずなのに!)

 思わず壁をガンと殴る。従者もビクっとする。

「ど、どうされましたかお嬢様」

「どうもこうもないわ!みんなキャンドルキャンドル…。見てなさい。そのキャンドルとやらに屈辱を味合わせて、真のトップが誰だか教えてあげる!」

 金髪縦ロールの女は腰のムチをギュッと握った。


 とは言ったもののどうしたものか。

 この学園は非常に品格が高い。

 いじめでもしようものなら、こちらが停学や退学処分になってしまう。そうなってしまうと、あたしの家での立場が危うくなってしまう。

 クラスの生徒に美味いエサをぶら下げて協力させ、クラスから孤立させる事も考えたが、従者の話ではすでに彼女は完全にクラスから孤立しているらしい。

 そうだ!そういえばクリス王子もエドワードもあの女と直接対決してからおかしくなったと聞いてる。つまり私がキャンドルとの一騎打ちに勝てば…

「私が1年生のNo. 1!クリスもエドワードも私のものだわ!」

 そう言ってガッツポーズをした。


 のは良いものの、これまた問題が重なる。

 当然、この学園は私闘も禁じている。

 クリスは何故か決闘の後、美化委員会を丸め込んでトレーニングということになったらしいし、エドワードに至っては目撃者がいない為にあくまで噂の域を出ない。

 さて、どうやってキャンドルと私闘に持っていくべきか…。


 夜に美しく光虫が飛び回るという池付近を散策しながらニコルは考え事をしていた。

 姉は今授業中である。

 先日の事件は失敗だった。

 だったら姉様をハエ共から守るにはどうしたら良いか…。

 考え込んだ結果、やはり女性の友達を多く作って、オトコ♂どもが寄りづらくさせるしかないか…。丁度姉様も友達を欲しがってたし。


「キャンドルさん?お昼ご一緒にどうかしら?」

 …は?

 私は耳を疑った。

 女子二人組が私にお昼の誘いに来たからだ。

「え…あの…」

「ですからキャンドルさんとお昼をご一緒にしたいの。凄い噂ですわよ、キャンドルさん。あなたとご一緒出来るなんて光栄ですわ」

「え、ええ…私で良ければ…」

「なら早速行きましょう」

 私達は食堂でテイクアウト用のサンドイッチセットを買って中庭のベンチで食べる事にした。


 その様子を伺っている2人のオトコ♂がいた。

 言うまでもなくクリスとエドワードだが、2人とも身体を縄でグルグル巻きにしている。


「あのハエ達、相変わらずしつこく付きまとってますね」

 ニコルのこめかみに怒りマークが浮き出ている。

 ニコルはハエ払いとばかりに、Kunaiを2人に向かって投げつける!

 瞬間!

 クリスとエドワードを縛っていた罠がクリスとエドワードの人形ひとがたとなって本体の2人は一瞬のうちに消えた。

 Kunaiはその人形ひとがたに刺さった。

「くっ、」

 身代わりの術…だと!?

 縄を使って!?

 あの2人…変態に成り下がったとはいえ、流石に学園でも屈指の手練れと言われてるわけだ。流石に一筋縄ではいかないな。縄だけに。

 ニコルはぜひその才能を別の何かに使って欲しいと願った。

 いや…これは…!?

 クリスとエドワードは逃したが、もう1人、何かの視線を感じる。

 少し…高いところに行くか…。

 ニコルは一瞬で校舎の屋根に登る。

「あいつか…、姉様を見てるのは」

 クリスとエドワードとは正反対の対面となる植え込みにその女はいた。その人物は女性であり、金髪に髪型を縦巻きにしている。じっと姉様の様子を見ているようだ…というより、隙をうかがっている?

「これは要警戒かもしれないな」

 ニコルは場所を移動した。


 2人の女子はひたすら私を褒めまくっててなんだか気持ち悪いくらい。

 クリス王子をどうやって射止めたのかとか、エドワード様とは何があったのかとか聞かれたけど、上手くいえなくて(言いたくなくて)モニョモニョしてしまった。

 食事も終わり、2人が帰ろうとした時だった。

「あのキャンドルさん?」

「はい?」

「ぜひ弟さんに例のケーキ…いや、弟さんによろしくお伝えくださいませ」

 ニコリとして2人は去っていった。

 ぜっっっっっっったいにニコルだ。

 ニコルが2人を買収しやがった。

 やっとお友達ができたと思ったのに、こんなんじゃ虚しいだけだよぉ(泣)


 その金髪縦ロールは植え込みの裏で舌打ちをしていた。

 ダメだ、全く隙がない。

 いつも昼間は中庭で1人だって聞いてたのに、今日は何故か女友達を2人もつれているではないか。しかも、どうも背後に手練れの警護が2人も付いてる気がする…。

 昼食中に背後から突然押し倒して踏みつけてから、勝手に勝利宣言をしてしまえば事は済むと思っていたのに。

 キチンとした勝負に行く前に不意打ちして転ばせて、この人目の多い中庭で倒れたキャンドルを踏みつけてから一方的に勝利宣言すれば私が勝ったという噂が一方的に広がるはずだし、それで私の勝ちは確定だったのに…。もちろん、1週間程度の停学は覚悟して中庭で潜んでいたのに徒労に終わった。

 隙があるとしたら放課後か…。

 放課後を狙ってみよう。

 金髪縦ロールは校舎へと戻った。


 そして放課後、太陽の日は落ちてきてだいぶ人の数が減ってきた。

 何故かキャンドルの帰りはいつも遅い。

 何やってるんだろう?人気がなくなるまで待つ理由でもあるんだろうか。

 そんな事を考えていたら、その目的のキャンドルが校舎側から歩いてきた。

 金髪縦ロールはキャンドルに声を掛けようとしたその時だった。


「姉様に何の御用です?」

 突然背後から声がした。

「わっ」思わず振り返った。

 そこには顔は可愛いけど雰囲気は全然可愛くない緑色の髪をした男の子が立っていた。

「聞こえていませんでしたか?あなた、エリザベス・ジョーンズですよね?僕のキャンドル姉様に何の御用があるのか聞いているんです」

「ご、御用…いえね、今学園中で噂になっているキャンドルさんにお近づきになりたくて待っていましたの」

「あなた、昼間も中庭で姉様の事見てましたよね。それも決して好意的な視線ではなかった」

(こいつ、何者なのよ…)

「姉様に関わる面倒な雑事は事前に処理するのが僕の勤めでね、本当のことを話してもらえませんか?」

「そ、それは…」

 エリザベスが言葉を濁していると、

「あら?ニコル?」

 と背後から声がした。

 チッとニコルから舌打ちが聞こえた。

「ごきげんよう。ニコルが何かお世話になってるようで。失礼ですが、初めてお会いする方ですよね?お名前を伺ってもよろしいかしら?」

 またニコルが彼女を懐柔させようとしているのではないか、それならばやめさせなくては。と考え、急いで2人の間に割り込んだ。

「私の名前はエリザベス・ジョーンズ。そちらの多分あなたの従者なんでしょうけど、可愛い男の子はわたくしの事を既にご存知のようでしたわ」

 流石ニコル、相変わらずの調査能力である。

「…そうね…もう誤魔化してもしょうがないわね」

 エリザベスはそう言って私に明らかに敵意の入った目つきで私を見た。

「あなたに決闘を申し込みますわ」

「決闘!?」

 また決闘なんてうんざりだ。しかも今度は男性ではなく女性からである。

「一体何が目的ですの?私には戦う理由がありませんの」

「あなたにはなくとも、私にはありますの。クリス王子を射止めるのは私、エリザベス・ジョーンズ。その恋敵であるあなたに挑戦状を突きつけるのは別に不自然ではなくて?」

 そういえばクリス王子からの告白はほったらかし状態である。

「理由はわかりますが、納得はしかねますね」

 ニコルが割って入る。

「クリス王子が誰を好きになろうとクリス王子の勝手だし、誰かがそれに異議申し立てをする権利などないでしょう。それに姉様があなたと戦ってメリットがない」

「メリット…そうね。私はお父様から農地の一部を預かっていましてね、簡単に言えば私の自由に出来るの。その農地をかけてあなたに決闘を申し込みますわ。私が勝てばあなた

 はクリス王子から手を引いてもらいます。少しあなたに関して調べさせて頂いたのだけど、あなたの家は貴族としては貧乏ではないけれど、裕福というわけでもないのでしょう?この勝負、あなたにもメリットはあるのではなくて?」


「おい、エドワード、大変な事になったぞ」

「ああ、こいつは興奮する展開だぜぇ」

 クリスとエドワードは全身全裸で迷彩柄になり、中庭の樹と同化している。

「これはお互いムチ同士の戦いだ。どうみる?エドワード」

「フッ…クリスも妙な事を聞くな?勝負などとうに決まっているだろう?」

「違いない」

 2人は全裸のまま語り合った。


 確かに、私の家の荘園は規模は大きくない。ここにエリザベスさんの農地の収入が入れば家の役に立てるかも…それにクリス王子を失っても正直そこまで痛手じゃないし…」


「あれ…突然涙が…なんでだろう」

 クリスの右目から涙が出てきた。

「疲れ目じゃないのか?」

 自分の預かり知らぬところでぞんざいにされた事をクリスは知らない。


「では、いざ尋常に勝負!」

 エリザベスが腰のムチを取り出す。

 私も慌ててムチを取り出して、リボンのようにくるくると回した。

 今回も先手必勝!

 と、私はエリザベスにムチを放った。

 だが、彼女のムチで私のムチは弾かれてしまった。

「くっ」

 こんな事は初めてだった。まあ、ムチの相手と戦うのはこれが初めてだけど。

 どうやって戦えばいいか分からずにとりあえずムチを何度も振り回すが、その度に彼女のムチにパリィされる。


「何やってんだキャンドル。さっさと決めちまえ!」

 エドワードが思わず叫ぶ。


 あれ?なんか今妙な応援が聞こえた気がするけど…どこにも人は見当たらない。


 エドワードの口はクリスによって塞がれていた。なにしろ2人は全裸なのだ。見つかるわけにはいかない。その興奮にクリスとエドワードの2人の友情はさらに深まった♂


 何度やってダメなら方法を変えるしかない!

 私はムチを振るうのをやめた。

「あら?どうかしたのかしら?もう諦めてお仕舞い?」

 エリザベスが勝ち誇った顔で言う。

「ではこちらから行きますわよ!」

 エリザベスがムチを振るった。

 ここだ!

 私はムチでエリザベスを狙うのではなく、エリザベスのムチを狙った!

 エリザベスのムチを私のムチで絡めとると、グイっと引っ張ってエリザベスを後ろに振り向かせた。


「「出るぞ!」」

 クリスとエドワードは同時に叫んだ。


「クイットネス家奥義……

  Turtle Head!!!」


 瞬間、エリザベスの身体に亀の甲羅の模様の様に縛られた!

 勝った!私は安堵した。

 が、エリザベスはドン引きしている。

「これ…緊縛プレイじゃないの…何あなた…こんな事してんの…マジで引くわ…」

 え…クリス王子やエドワードと反応が違う?

「あんた…転生者でしょ?こんなの私の元いた世界でしかやってないわよ」

「ちょ、ちょっと待ってあなたもなの?」

「そうよ。日本で死んで折角貴族に生まれ変わったんだから玉の輿に乗って一生楽しようと思ってたのに…これはドン引きだわ…私の負けでいいからさっさと縄を外してちょうだい」

 私はエリザベスの縄を解いた。

 エリザベスは私を虫を見るような目で蔑んだまま去っていった。

 私は勝ったはずなのに何故か敗北した様な気分になっていた。


「行きましょう姉様。勝ちは勝ちです」

「そう言えばところどころどっかから変な声が聞こえた気がするけどニコル聞こえた?」

「さあ、何のことでしょうね」

 ニコルは(さっさと服着ろ変態2人組め)と小さく呟いた。


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